新黄泉がたり黄泉つぎ

「桐生の寺の黒い石」戸神重明

群馬県桐生市の山里に某寺がある。その近くに住むS子さんは、一人娘のT子のことで悩んでいた。T子は人見知りが激しくて、幼稚園へ通うようになっても、友達がいなかった。そこで友達ができるようにと、寺の境内へ何度も連れていった。その一画は遊具が設けられた広場として開放されており、子供たちが集まるからだ。しかし、T子は「ここ、怖い!」と、すぐに帰りたがり、他の子供とは遊ぼうとしなかった。
それでもT子は小学生になると、ようやく友達ができて、外で遊ぶことも増えてきた。S子さんはひと安心したのだが、新たな悩みが発生した。日曜日の昼間、一戸建ての自宅にいると、見知らぬ白装束の男女が一組、突然居間に入り込んできたのである。初めは驚いたが、仕事が休みで一緒にいた夫はまるで気にしていない。彼には明らかに見えていなかった。実は、S子さんは〈見えてしまう人〉なのである。慣れているので、

(なあんだ。強盗や変質者でなければ、放っとけばいいやいね)

と、気にせずにいたのだが、それから毎日、見知らぬ老若男女が自宅に現れるようになった。彼らは部屋や廊下の隅で一度立ち止まると、おとなしく佇んでいるだけなので、生活に不便を感じることはあまりない。ただし、日ごとに新参が加わって人数が増え続け、十五、六人もやってくるようになると、気味が悪くなってきた。S子さんは専業主婦でずっと自宅にいたので、余計に嫌な気分になったという。いずれは闖入者ちんにゅうしゃの群れによって満員電車のような状態になり、この家を乗っ取られてしまいそうな気がしてくる。
そこでS子さんは闖入者たちがどこから入ってくるのか、出所でどころを探してみることにした。観察を始めると、午後四時頃、老若男女は家の中で一列に整列して、決まった方角へ歩いてゆき、壁を擦り抜けて一斉にいなくなった。そちらには例の寺がある。

(あっ、ちょうどお寺でお坊さんがお経を唱える時間か……。それを聴きに行くのね)

S子さんはこの山里で生まれ育ったので、すぐに悟った。このまま全員いなくなってくれればいいな、と願う。だが、寺の住職が経を唱える時間が終わると、また大人数で押しかけてきた。早く出所を突き止めないと、家に住めなくなってしまう。
翌日もS子さんは見張りを行い、寺での読経が終わる時間帯に闖入者の群れが出てくる方角へ行ってみた。それらは娘T子の部屋にある勉強机の下から、次々に這い出してくる。そこには玩具の指輪や友達と交換した手紙など、大事な物を仕舞った箱が置いてあった。

(まさか、あそこから……?)

誰も出てこなくなるのを待って、S子さんは蓋がついたボール紙の箱を取り出し、開けてみた。大部分が見知った物だったが、初めて見る石が一個あった。長さ四センチ、幅三センチ、厚さ三センチ程度の楕円形で、黒光りしている。一見するとありふれた玉砂利のようだが、彼女にはそれが極めて禍々しい存在に感じられた。
たぶん、これが原因だろう――居間に運んでテーブルに置き、遊びに出かけた娘T子の帰りを待つ。やがて帰宅したT子は石を見るなり、「あっ!」と顔色を変えた。

「この石は何? ねえ。どこから持ってきたん?」

S子さんが問い質すと、T子はひどく慌てながらも、どうにか答えた。

「……拾ったの。お寺の、広場で……」
「あんた、あそこが嫌いじゃなかった?」
「前はね。今は友達とよく遊ぶんだよ。それで、あの石を見つけたんだぁ。すっごく綺麗にきらきら光ってたから、全然怖くなかったんだよね」

確かに黒光りはしているが、S子さんにはそこまで綺麗な石には見えなかったという。

「その石は持ってきちゃあ、駄目なモノなの。お寺の広場に返してらっしゃい」

娘は石を掴むと、寺へ向かって駆け出していった。すると、自宅にいた闖入者たちはいつの間にかいなくなっていた。それから、この現象は起こらなくなったそうである。

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人気作家書き下ろし怪談リレー「黄泉がたり黄泉つぎ」が新しくなりました!

「新・黄泉がたり黄泉つぎ」では当月の作家さんが来月の作家さんへ「お題」を出します。
来月の方はその「お題」にそった実話怪談を披露していただくことになります。
誰がバトンを受け取ったかは更新までのお楽しみ!

第1回・吉田悠軌先生からのお題は「タブー」でした。いかがでしたか?
さて、第2回・戸神さんからのお題はこちら!→「イヌ科の動物」
どうぞお楽しみに。

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