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第2回最恐小説大賞短編連作部門受賞作『視える彼女は教育係』作者ラグトさん特別インタビュー【前編】

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【エブリスタ×竹書房】第2回最恐小説大賞短編連作部門を受賞したホラー小説『視える彼女は教育係』(以下、視えカノ)の作品としての魅力、そして作者のラグトさん自身を、インタビューで深堀りしてまいります。

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最恐小説大賞とは?

小説投稿サイト〈エブリスタ〉と竹書房がノールール、ノータブーで募る全く新しいホラー小説の賞です。 心霊、サイコ、サスペンスなどジャンルは不問、とにかくいちばん恐い話を決めようという目的のもと生まれた、バーリトゥードなコンテストです 。第1回は長編の『ヴンダーカンマー』(星月渉)と、短編連作の『怪奇現象という名の病気』(沖光峰津)がW受賞。第2回は長編『森が呼ぶ』(宇津木健太郎)、そして短編連作の本作『視える彼女は教育係』(ラグト)が選ばれました。

『視える彼女は教育係』のあらすじ

新入社員として雇われた会社で、

「僕」の教育係についた先輩・黒川瑞季。

彼女はなんと、この世ならざるものたちが視える人だった!

夜道で、オフィスで、そして周囲の人々のあいだで巻き起こるさまざまな怪奇現象を、黒川瑞季が持ち前の頭脳と霊能力で解決していくが——

やがて、最凶の因縁に巻き込まれてしまう!

憑かれ系新入社員の僕と彼女、取引先の社長から病み系OL、最強巫女に闇の心霊事件屋まで、多彩な登場人物が織り成す痛快オフィスホラー!

ラグトさんインタビュー【前編】

——霊能力のある職場の女上司と身の回りの心霊事件を解決していくストーリーですが、この視えカノの着想のきっかけはどんなところにあるのでしょうか?

ラグト:あとがきにも書いているんですけど、私が結婚したことをきっかけにいわゆる視える方々とのご縁が出来たことなんですよね。 それで、元々学生時代に文芸サークルに所属していて就職後もぼちぼちと書き続けていたこともあって、その視える人たちの世界を物語にできないかと考えたことが始まりです。

——やはりリアルに「視える人」が! あとがきを拝読したときからずっと引っかかっていたのですが…これはのちほどたっぷりお伺いしようと思います。まず作品そのものについて深堀りしようと思いますが、ぼちぼちと書き続けていたとのことですが、普段はどんな執筆スタイルなのですか?

ラグト:基本的には書きたいお話のテーマがあって、それを物語にしていくのですが、忘れてはいけない大筋の要素はノートなどに書き起こしていって……。あとは脳内で物語を映画のように映像化して、それをどう編集したら印象的で面白くなるかを、何度も何度も繰り返しシーンを入れ替えたり追加したり編集して、一つのドラマ作品が出来上がったら、文章に起こしていく感じです。

——脳内でまず映像化するんですね。なるほど、だからこそ登場するキャラクターが生き生きとしている印象です。

ラグト:まあ、だからよく言われる「キャラクターが勝手に動いてくれる」というスタイルですね。特にサミエナさんに至っては作者の方が動かされる感覚すらあります。エブリスタでの書籍未収録のお話も含めて彼女の登場するお話はどれもプロット上では実際にはもっと短かかったのですが「私のお話をこんなに短くすませようというのかしら」とでも言われているかのように予定の倍ぐらいの長さになるんです。これこそ本当にキャラクターが勝手に動いて作者を動かす、ですね。

——キャラが勝手に動く…デビュー時から体得している方は少ないと思います。ほかにも多様なキャラクターが登場するのも作品の魅力の一つですが、ラグトさんはどのキャラクターがお気に入りですか?

ラグト:どのキャラクターも自分の子供のように愛していますが……。一人あげるとすれば私の原点という意味で、やはり先ほども出たサミエナでしょうか。もともと学生時代はホラーではなく、ファンタジー作品ばかり書いていたんです。その中でいたずら好きな妖精や妖狐なんかと知恵比べをする話、特に幼い時に願いをかなえる代わりに俺の名前を当ててみろ、当てなければお前の子供をもらう、という童話が大好きで……。あとは大事な人の命をもっていこうとする死神に対峙してそれを阻止しようとするお話も好きでした。そういう幻想的な大敵の象徴として私の中に生まれたのがサミエナなんです。

――西洋の寓話のような位置づけから生まれたんですね。ほかにも影響を受けた作品や世界観などありますか? とくにホラー作品では。

ラグト:怪談モノに限れば、特に影響を受けたのは営業のK先生の短編集です。K先生はお仕事をされながら自らが地元石川県で体験された怪異を中心に素晴らしい作品を書籍化、ないしはブログに投稿されておられて、これは自分にとってかなり衝撃でした。また、Aさんや姫ちゃん、富山の住職さんなどK先生の周りの霊能者の方とのお話もリアルに描かれていてこんな風に私も書きたいと意欲を与えてもらいました。

——実話怪談も読まれているんですね、ありがとうございます。ということは、フィクションながらリアリティを持たせるような仕掛けも?

ラグト:はい、実は……というか薄々気が付いている方もいらっしゃると思いますが、視えカノに登場する霊能者で瑞季さんと真央さんは、私の身近な実在する人物をモデルにしています。

——では視えカノの世界観は、フィクションながらほぼ現実の延長のようなイメージなんですね。

ラグト:そうですね。そもそも瑞季さんのモデルの方にあなたをモデルに小説を書いても良いですか、と聞いて了承をもらったことが視えカノの始まりです。だから書籍化の際にはエブリスタとは比べ物にならないほどの発信力となってしまいますので、真央さんのモデルの方にも書籍化してもいいでしょうかとお尋ねしたんです。優しい温和な方なんですが、曲がったことが嫌いな方ですので、彼女から駄目ですと言われたら書籍化はあきらめようと思っていました。けれども彼女はその話をすると本が出来上がったら私にも1冊いただけますか、と笑って承諾してくれたのでほっとしたのを覚えています。

——優しい方々に恵まれているんですね。では、舞台となった街も実は身近な場所だったりするのでしょうか?

ラグト:実はそうなんです。作中では明言していませんが、舞台は香川県です。

作中の心霊スポットも香川県の有名どころです。根来寺、林田港、金山病院、五色台スカイラインなどなど…。ですが、あくまでフィクションですので、あそこにこんな怪異があるんだぞと囃し立てているわけではありませんので、誤解しないでくださいね。また、このインタビューでもかなり踏み込んでいますが、あくまで私個人の所見ですので、特定の宗教的事象を揶揄するような意図は全くありません。

——地元の香川県なんですね。やはりいい土地柄なんですか?

ラグト:やはり、四国霊場八十八ヵ所やお遍路さんのイメージが強いでしょうか。私自身もそうですが、人生で一度は札所となる八十八の寺院を巡礼したいと考えている人は多いですね。そのため豊かな自然や人々の暮らしと信仰がいい意味で融合した土地柄となっていると思います。

このあとは現実の霊や怪異を深堀りします。続きは後編で▶

著者プロフィール

ラグト

香川県善通寺市出身。多度津町在住。

本作『視える彼女は教育係』で、エブリスタ×竹書房 第2回最恐小説大賞(短編連作部門)を受賞し、単著デビュー。

共著に『百物語 サカサノロイ』『怪談供養 晦日がたり』『怪談生き地獄 現代の怖イ噂』など。

好きな妖怪は妖狐。▶Twitter

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