【日々怪談】2021年8月8日の怖い話~三枚目のドア
【今日は何の日?】8月8日: 妖怪の日
三枚目のドア
四歳の頃の記憶だという。
大塚さんは夜、必ずトイレに起きる習慣があった。
和室で親子三人、川の字で寝ているのだが、大塚さんだけが目を覚ましてしまう。
両親を置いて布団から這い出すと、襖を開けてトイレの前まで行くのだが、廊下に出てまっすぐ歩いた先にドアがあり、そのドアを開けて出ると玄関ホールだ。玄関ホールにトイレのドアがあるので、都合二枚のドアを開ける必要がある。
昼間はその通りなのだが、何故か夜中に一人でトイレに行くときには、玄関ホールにもう一枚ドアがあり、都合三枚のドアを開ける必要があるのだった。当時は不思議だと思わなかったが、昼間には存在しないそのドアには老人の顔が浮き出ており、何故か朝から夜までにあったことを一通り話をしないと通してくれない。
トイレに急いでいるときには苦痛である。いい加減に話すと、根掘り葉掘り質問してくるので、余計に時間が掛かってしまう。それだけが嫌だったが、別にドアのことは嫌いではなかった。
しかし、大塚さんが五歳になった頃、トイレからの帰りにはそのドアが立っていないことに気付いた。それ以来、その〈三枚目のドア〉には遭っていない。
大塚さんが成人した頃のこと。家族で話をしていて、彼女が子供の頃の話題になった。
そのときに、〈こんなドアのことを覚えているのだけど、これって何だろうね〉と両親に訊ねた。
「これって妖怪か何か?」
そう問う娘に、父親が言った。
「あぁ、それは妖怪なんかじゃないよ。俺の親父、つまりお前のじいちゃんだ」
何で知っているのかと問い詰めたが、父親は教えてくれなかった。
教えてはくれなかったが、自分が子供の頃に、父親は口癖のように、
「大丈夫。お前はじいちゃんに見守られているから」
そんなことを繰り返していたのを思い出した。
――「三枚目のドア」神沼三平太『恐怖箱 百舌』より
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