【日々怪談】2021年8月26日の怖い話~湯船の男

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【今日は何の日?】8月26日:パパ風呂の日

湯船の男

 ある温泉付きコンドミニアムでの話である。
 大浴場の引き戸を開けると、男性が湯船に俯せになって浮いていた。
 バスケットボールかバレーボールの選手だろうか。背が二メートル近くある。背中にも鍛えられた筋肉が盛り上がっている。
 これは何かの練習だろうか。それにしても邪魔だな。
 そのうちこちらに気付くだろうと、頭を洗い、身体も清めて湯に入ろうとしたが、男は先ほどから全身の力を程よく抜いた状態で浮きっ放しだ。そこで初めてこれは事件かと疑った。
 大丈夫ですかと声を掛けたが、やはりそのまま動かない。
 これはまずいことになった、まずは管理人に連絡――。
 そう思って右往左往していると、
「構わんでいてくれる?」
 と湯船から関西弁が聞こえた。
 声のほうを振り返ると、まだ男は湯に顔を付けたままだ。
 水面には波紋も立っていない。
 そのとき、脱衣所から男が三人、談笑しながら入ってきた。そちらに視線を送り、また湯船に視線を戻すと、もう男は消えていた。

――「湯船の男」神沼三平太『恐怖箱 百舌』より

#ヒビカイ # パパ風呂の日

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