【日々怪談】2021年2月15日の怖い話~悲しい予感
悲しい予感
風の強い日のことだった。隆は彼女の景子と、当てもなくドライブをしていた。海にも山にも向かうことなく、ただ白昼の市街地を車は進んだ。時折思い出したように交わされる他愛のない会話は別段弾むこともなく、隆は景子との別れも時間の問題だろうと予想していた。
二人はショッピングモールに寄り、遅めの昼食を摂ることにした。広大な駐車場は平日でも沢山の車が停車していた。車から降りると、強風に小雨が混じっていることに気が付いた。
隆は彼女の手を握り、駐車場からモールへ向かって歩いた。
「ああ、悪い。財布を車に忘れた……」
「いいわよ。あたしが出すから……」
「そういう訳にもいかない。買い物もしたいしな」
景子の手を離して、車に向かった。
「……お前」
車の助手席に景子が座っていた。
振り返ると、五十メートルほど先に、さっき手を離したばかりの景子がこちらを見て立っていた。表情は、窺えない。
助手席の景子は顔をクシャクシャにし、涙していた。
――「悲しい予感」高田公太『恐怖箱 百眼』より