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番町皿屋敷・播州皿屋敷(お菊さん)のあらすじ – 現代語で解説 – 古典怪談

古典怪談・皿屋敷のあらすじ

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皿屋敷とは?

『四谷怪談』の「お岩さん」、『牡丹灯篭』の「お露さん」と並んで、古典怪談話の筆頭に数えられるのが『皿屋敷』の「お菊さん」です。詳しい物語は知らない人でも、井戸から「お菊さん」の亡霊が現れ「一枚…二枚…」と恨めしそうに皿を数える場面は、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

落語では『皿屋敷』、または『お菊の皿』という題目で演じられることが多く、定番の怪談落語として現代でも根強い人気を博しています。

民衆に古くから親しまれている『皿屋敷』ですが、実はその起源ははっきりしていません。全国各地に様々なパターン違いの『皿屋敷』が多く存在しており、それぞれ展開や結末が異なりますが、大まかな流れは共通しているようです。

数ある『皿屋敷』の中で特に有名なのが、江戸を舞台にした『番町皿屋敷』と、播州姫路を舞台にした『播州皿屋敷』でしょう。

『播州皿屋敷』の舞台は室町時代、『番町皿屋敷』の舞台は江戸時代です。時代順から『番町皿屋敷』は『播州皿屋敷』から発展したとも言われますが、これもはっきりとした真偽は不明となっています。明確な元となる伝承が分からないからこそ、アレンジしやすい『皿屋敷』は多くの人によって語られてきたのかもしれませんね。

葛飾北斎が『百物語』の中で描いた「さらやしき」


葛飾北斎が『百物語』の中で描いた「さらやしき」

月岡芳年が描いた『新形三十六怪撰 皿やしきお菊の霊』


月岡芳年が描いた『新形三十六怪撰 皿やしきお菊の霊』

ではここからは『番町皿屋敷』と『播州皿屋敷』、そして落語『皿屋敷』の最もメジャーなあらすじを、現代語でご紹介していきたいと思います。

番町皿屋敷のあらすじ

時は江戸時代、火盗改(かとうあらため)の青山播磨守主膳(はりまのかみしゅぜん)の屋敷には、「お菊」という名の16歳の少女が奉公に来ていました。

ある年の正月に、「お菊」は青山家に家宝である10枚の皿のうち、1枚を割ってしまいます。それを知った主膳や奥方は激怒して、「お菊」を手酷く折檻し、右手の中指も切り落としてしまうのでした。

厳しい折檻の後に縄で縛られて狭い部屋に閉じ込められていた「お菊」は、夜に部屋から抜け出して、屋敷の裏にある古井戸へと身を投げてしまいます。

「お菊」が古井戸へと身を投げてから、青山家は怪異が起きるようになりました。深夜になると井戸から「お菊」の亡霊が現れて「一枚…二枚…」と皿を数えるのです。そして「お菊」の亡霊は9枚目を数え終えると、「一枚足りない…」と泣き叫ぶのでした。

さらに、青山主膳の本妻が産んだ子には中指がなかったそうです。奥方は切り落としたお菊の指を思い出し、恐怖を感じます。

この「お菊」の亡霊の噂は瞬く間に広がって、青山家はいつしか皿屋敷と呼ばれるようになり、周りからも忌み嫌われるように。やがて公儀(こうぎ)にも知られることになり、不祥事として主膳は土地を没収されてしまいます。

しかしそれでも怪異は収まらず、井戸の底から響く声は止みません。そこで「お菊」の霊を弔うために、伝通院の了誉上人(りょうよしょうにん)に読経を依頼しました。

了誉上人が読経をしていると、また「一枚…二枚…」と聞こえてきます。そして「八枚…九枚…」と続いたのちに了誉上人がすかさず「十枚」と付け足すと、「お菊」の霊は「あらうれしや」と言って成仏し、これ以降屋敷では怪異も収まったそうです。

播州皿屋敷のあらすじ

永正元年、姫路城の城主であった小寺則職(こでらのりもと)には、青山鉄山という名前の家臣がいました。しかしこの青山鉄山は、主君を謀殺して城を乗っ取ろうと画策していたのです。

この謀略を小寺則職の忠臣であった衣笠元信が勘づきます。衣笠元信は自身の妾である「お菊」を青山家に潜り込ませて、計画を暴くことにしました。

当初、青山家に城を奪われることになりますが、「お菊」の活躍もあり衣笠元信は主君である小寺則職の命を救うことに成功します。

一旦身を潜めて、再起の機会を伺う小寺則職一同。その間も「お菊」は、青山家に潜入し続けるのでした。一方、乗っ取りに失敗した青山鉄山は身内に密告者がいたとにらんで、部下の町坪弾四朗(ちょうのつぼだんしろう)にその調査を命じます。

「お菊」が間者(かんじゃ)だと気づいた町坪弾四朗。かねてから「お菊」に思いを寄せていた町坪弾四朗は、「お菊」に「自分の妾になれば悪いようにしない」と言い寄ります。しかし「お菊」はこれを拒絶するのでした。

拒否された町坪弾四朗は怒り狂い、「お菊」が管理を任されていた家宝である10枚の皿のうち1枚を割り、「お菊」に因縁をつけて折檻するのでした。そして終いには「お菊」を絞め殺して、古井戸に「お菊」の死体を捨てたのです。

この事件以来、古井戸からは夜な夜な「お菊」が皿を数える音が聞えるように。怪異に悩まされる青山家の隙を突き、衣笠元信は主君の城を奪還することに成功しました。

無事に城を取り戻した後に小寺則職は、「お菊」の話を知り、彼女の死を哀れんで、十二所神社の中に「於菊(おきく)大明神」として祀ったと言われています。

姫路城内にある「お菊井戸」

『播州皿屋敷』で「お菊」が投げ込まれたとされる古井戸は、現在の姫路城に「お菊井戸」として現存しており、観光名所として賑わいを見せています。

この井戸は元々は「釣瓶取(つるべとり)井戸」と呼ばれていたそうです。定かではありませんが、実は城外との秘密の経路となっていて、誰も近づかないように怪談の噂を広めたという話もあります。

過去には井戸の中の本格的な調査も行われたようですが、不気味な空気が流れたことで中止したそうで、この井戸がいつから存在しているのかは未だはっきりとしていません。

落語『皿屋敷』のあらすじ

ある若者が、旅先で『皿屋敷』の幽霊話のことを知り、町内の隠居に聞くとこの町に出るという。井戸に身投げをした「お菊」は幽霊となり、夜な夜な皿を数えに出てくるという噂です。若者は好奇心から「お菊」を見に行くことにしました。

隠居からは、「お菊」が9枚まで数えるのを聞くと死ぬので、6枚まで数えたところで帰れと教えられます。丑三つ時になると、「お菊」が「いちま〜い、にま〜い…」と皿を数えはじめました。

「お菊」はよく見るとたいそう美人でいい女ではありませんか。若者は、「お菊」が幽霊とは知りながらも、美人だったので次の日もその次の日も見に行きました。その噂が町内に広まり、どんどん人が集まってきます。興行師はこれに目をつけ、見世物小屋を作って興行にしてしまいました。

しかし、ある夜にちょっとした事件が起こります。6枚まで数えたところで見物客を帰らせる手はずでしたが、人がいっぱいで小屋からなかなか出られません。そうこうするうちに、「お菊」は「しちま〜い、はちま〜い…」と数え続けています。

9枚まで数えるのを聞くと死ぬ…。いよいよ「お菊」が「きゅうま〜い…」と数えます。ところが、そのまま「じゅうま〜い、じゅういちま〜い」と数え続けました。とうとう18枚まで数えてしまいます。

見物客たちは、「皿は九枚までしか数えないはずなのに、なぜ十八枚も数えたのだ」と「お菊」に詰め寄ります。すると「お菊」は、「明日は休みだから二日分数えたんだよ」と応えたのでした。

おわりに

『番町皿屋敷』と『播州皿屋敷』では内容が異なりますが、「お菊」と「十枚の皿」、「井戸」という点は共通しています。落語の『皿屋敷』にもその要素は取り入れられており、「お菊」=「井戸から出てきてお皿を数える幽霊」と認知している方は多いことでしょう。

『四谷怪談』の「お岩さん」と混同している方もいるようですが、お皿を数えるのは「お菊さん」です。「お岩さん」の話には皿も井戸も出てきません。

「お菊さん」は、『四谷怪談』の「お岩さん」、『牡丹燈籠』の「お露さん」と並び、日本三大幽霊に数えられています。『四谷怪談』と『牡丹燈籠』のあらすじも本サイトで紹介しているので、そちらもぜひ読んでみてくださいね。

古典怪談・皿屋敷のあらすじ

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