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7月新刊『「超」怖い話 辛』(松村進吉、深澤夜)内容紹介・試し読み・朗読動画

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体験者からの聞き書きに拘り、
彼らの遭遇した怪、
体験した恐怖を通じて怪に侵食される人生、
ひいては人間そのものを炙り出さんとする実話怪談集。

――いまだ色褪せぬ恐怖の記憶を取材した全24話!

「私はここで待ってるから、どうぞ…」

旧家の<奥の間>を掃除するバイト
家の者は入れないというそこに一体何が…(「奥の間」より)

怪に侵蝕された人々に取材した聞き書き恐怖譚!

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あらすじ

「奥の間」松村進吉

神棚が祀られている旧家の納戸を掃除するバイト。家の者は立入禁止だというのだが…

「つまみ子」松村進吉

神社から父におぶわれて帰る道すがら、シャツの裾をくいくいと引いてくるものが…

「虫干し」松村進吉

祖父が定期的に行う蔵の中の虫干し。和箪笥の中の着物を出そうと手を入れると…

赤いバスタブ」松村進吉

地下階で残業中、煙を纏って彷徨う謎の人々の群像に遭遇する…!青森市内のとある役所の実話。

「仏壇を捨てる」深澤夜

ある日叔母が「このままだと大変なことになるから」と言って持ってきた仏壇は…

「サイコロステーキ」深澤夜

ステーキ店から自転車でデリバリー中に遭遇した事故現場。慌てて警察官に通報するが…

営業、最後の日」深澤夜

閉店を決めたパチンコ店。最終日のホールに現れた〈地主〉と呼ばれる者たちの正体は…

「ミハルはもういない」深澤夜

親には見えない友達、〈ミハル〉と遊ぶ娘。カレンダーに丸の付けられた日に何が…

編著者コメント

昨今の、人との接触が憚られる情勢になって以降、新たな怪異の体験談も少なくなっている。外出の機会が減るのだから当然と言えば当然かもしれない。とは言え、幼い頃の思い出や、住居の中での異常な体験といったものは例年と変わらず、今も一定数寄せられている。この「赤いバスタブ」などは最たるもので、こんなご時世なのだから、せめて自宅くらいは安全であって欲しいと思うが――そうでない人も、いるようだ。

試し読み 1話

赤いバスタブ 松村進吉

 曽合君は大学中退以降、アルバイトを転々として暮らしている。
「親に愛想尽かされたんで、もう実家にも帰れませんし。どうにかこうにかその日暮らしでやってます」
 幸い、インターネットさえあれば貧しさは苦にならないという。
 衣も食も住も、最低限のもので良い。
「……まあそのうち、どこか正社員にしてもらえそうなところが見つかったら、キチンとしたいとは思ってますけど。多分無理でしょうね、今の世の中じゃ」
 厭世的に笑い、彼は肩をすくめる。
 今住んでいるのは築三十年になるワンルームマンションの四階で、家賃は三万円。
 かなり安い。
「隣の部屋は、五万円らしいですよ――ええ、つまりそういうことです」
 彼が夜勤を終え、重い足を引き摺って帰宅すると、風呂場から音がする。
 ドドドドドドド、と浴槽に湯がたまる音である。
 ハァーッ、と嘆息してから上着を脱ぎ、風呂場の電気を点け、ドアを開けた瞬間にその水音は止む。
 ――無音。
 湯気も立っておらず、当然ながら人の気配などもない。
 ただ、パッ、と視線を送ったバスタブの中が、真っ赤な色に染まって見える。
「…………」
 それは数回瞬きをすれば消える。
 わざわざ覗き込むまでもない、カラリと乾いた浴槽。
 彼が出かける前と何ひとつ違いはない。

 午後、カーテンを閉め切った薄暗い室内。
 毛布にくるまって寝ていた曽合君は、ジュッ、ジュッ、ジュッ、と果物を絞るような音で目を覚ます。
 瞼は開けない。
 余計なものが見えるからだ。
 ――しかし、そのまま放って横になっていると、今度はしわがれた呻き声が始まってしまう。数分以内に身体を起こし、室内を見渡したりせず、速やかにカーテンを開けなければならない。
 初めの頃はそうと知らず、この音は一体どこから聞こえるのだろうと、四つん這いになって耳を澄ませたりしていた。
 ふっ、と衣装ケースの陰から覗く目と視線が合ったのは、そんな時である。
 フローリングの床に、女の頭の上半分だけが置いてあり、それが彼を見ていた。
 その目は黒目がどこだかわからないほど充血していた。

 昼夜逆転の生活に馴染めないせいか、彼の食事の時間は定まらない。
 もうながらくの間、腹が減った時に食う、というような状態である。
 スマホをいじりながら、八十円で買ってきたカップ麺を啜っていると、出し抜けに思い鉄のドアが〈ガンガンガンガンガンガンッ!〉と殴りつけられる。
 こればっかりは毎回、ギクッと飛び上がってしまう。
 慣れない。食べ物をこぼしてしまうこともある。
 驚いたあとは当然腹が立ち、外廊下へ飛び出したりもするのだが、それで犯人を見つけられたということは一度もない。

 珍しく誰かと電話をしたりすると、その通話音声に、苦しそうな呼吸音が混じる。
 話が長引けば長引くほど、それの音量も上がっていく。
〈ゲエエエ……、ゲエエエ……、ゴフッ、ガフ、ゲ、ゲエエエ……、ゲエエエ……〉
 相手は不気味がり、ほどなく通話を切られる。
 向こうにも聞こえているのだ。

「――まあ、この辺まではまだ、我慢できますよ。我慢できるようになってくるんです、住んでるとね」
 ただ――どうしても不安に感じてしまう要素というのもある。
 このままではマズいかも知れない、あと数万円高くなっても、引っ越したほうがいいのだろうかと考える瞬間。
 それは、たとえば休みの日の明け方――。
 生暖かい風が下から顔を撫で上げ、ハッ、と彼は正気に戻る。
 薄汚れた灰色のビル群が、薄明の中で亡霊のように並んでいる。
 曽合君はいつの間にか、自分がベランダに立っているのを知る。
 寝ぼけたのだろうか。
 いや、横になった記憶はない。
 安い缶コーヒーを飲みながら、スマホで漫画を読んでいた筈だ。
 一体いつの間に立ち上がり、窓を開け、外に出たのか。
 まさか自分は、ここから、飛び降りるつもりだったのか――。
 足の裏は土ぼこりでザラザラして、髪の毛も口の中も埃っぽい。
 シャワーでも浴びようと浴室へ行くと――また、バスタブが真っ赤に染まっている。

 できるだけ早く引っ越したほうが良いと忠告したが、それなら引っ越し代を都合してくれと言われた。半端な善意はいらないんですよ、と。
 なるほど、そうかも知れない。
 こちらが言えることはなくなり、彼も口をつぐんだので、取材は終わった。

(了)

朗読動画(怪読録Vol.95)

【竹書房怪談文庫×怪談社】でお送りする怪談語り動画です。毎月の各新刊から選んだ怖い話を人気怪談師が朗読します。

今回の語り手は 松永瑞香 さん!

【怪読録Vol.95】まるで予知能力!?弟が持つ不思議なチカラの話——松村進吉、深澤夜『「超」怖い話 辛』より【怖い話朗読】

商品情報

著者紹介

松村進吉(まつむら・しんきち)

1975年、徳島県生まれ。2006年「超-1/2006」に優勝し、デビュー。2009年から老舗実話怪談シリーズ「超」怖い話の五代目編著者として本シリーズの夏版を牽引する。主な著書に『怪談稼業 侵蝕』『「超」怖い話 ベストセレクション 奈落』など。近著共著に丸山政也、鳴崎朝寝とコラボした新感覚怪談『エモ怖』がある。twitter@out999

深澤夜(ふかさわ・よる)

1979年、栃木県生まれ。2006年にデビュー。2014年から冬の「超」怖い話〈干支シリーズ〉に参加、2017年『「超」怖い話 丁』より〈十干シリーズ〉の共著も務める。単著に『「超」怖い話 鬼胎』(竹書房文庫)、松村との共著に『恐怖箱 しおづけ手帖』(竹書房文庫)がある。

シリーズ好評既刊 

「超」怖い話 甲(きのえ)

年2回狩りたての恐怖を世に送り出している「超」怖い話シリーズであるが、10年に及んだギリシャ文字編がΩ(オメガ)をもって終了した。そして一足先に「干支」編をスタートさせた冬に引き続き、夏もいよいよ新たな伝説の一歩を踏み出した。名付けて「十干」編、さらなる進化を目指す次の10年への幕開けである。\たった独りで夏を取り仕切る松村進吉入魂の新章は、攻撃的でありながら静謐、人間の本能に直接訴えかけるような恐怖に満ち満ちている。シンプルに怪を抉り、奇の本質に迫らんとする実話怪談の凄み、とくとご覧いただきたい。

「超」怖い話 乙(きのと)

「超」怖い話、つまりここに収録されている話は、超ド級に怖いという意味である。そしてもう一つ、、怖いという概念をすでに「超えている」とも解される。よくわからない恐怖感、ふいに膝の力が抜け、そのまま立てなくなってしまったような恐ろしさ、瞬きしたらいきなり何も見えなくなっていたような心許なさ……。理解不能な事態に陥り、なす術もなく放置されたような感覚が、本著を読んでいるとたびたび襲ってくる。此岸と彼岸、生者と死者の境界が曖昧になり、気づけば我々の心の安全地帯が侵されているのだ。くれぐれもあちらに乗っ取られぬよう、用心されたし…。

「超」怖い話 丙(ひのえ)

1991年の誕生より五人の編著者がバトンを渡し、脈々と受け継がれてきた実話怪談シリーズ……それが「超」怖い話である。実に今年で25年、集められた話はゆうに1500を超えるが、怪の泉はいまだ尽きぬらしい。だから本書が存在する。誰かが体験した恐怖を聞き書きするというシンプルな手法は、いつの時代も我々を魅了し、虜にしてきた。怪談は恐ろしく、危うく、そして面白い。現実の話だから凄い。この奇妙な興奮と高揚を今夏もたっぷりと皆様にお届けする…。

「超」怖い話 丁(ひのと)

松村進吉、深澤夜、原田空。怪に導かれ縁を結んだ三人がついに集結。各々の魂をふるわす怪談を追い求め、体験者と向き合い、真摯に全てを記録した渾身の書き下ろしを持ち寄った。生者死者問わず、人の魂と人生に深く切り込んでこそ見える恐怖がズラリと並ぶ。\将来を過去形で語る少女の秘密…「ゆいちゃんの夢」、鬱の女性の部屋に現れた謎の数字…「鬱を数える子供」、山奥に眠る工場に纏わる根深き怪…「廃工場・三部作」ほか、鮮やかな衝撃が脳をぶち抜き、恐怖が毒のごとく全身を掛け巡る珠玉の全31篇!

「超」怖い話 戊(つちのえ)

石を食う男、謎の言葉を話す幼児、指を捨てた女性、不思議な予言をする老婆、不気味なアパートに暮らす若者……実在の人物から聞き集めた奇妙な話、空恐ろしい話を集めた実話怪談集。\\恐怖とは非常にプライベートな心的体験であり、記憶の底に沈めて無かったことにしたいと思う体験者も多いだろう。だがその重さゆえ、誰かに打ち明けることで解放されたいと願う人もいる。本書はそうした体験者の心の吐露をそっと掬い、零さぬよう紙面に流し込んだものである。\\怪談を読むことは間接的であるにせよ、誰かの心の深い部分に触れることに他ならない。そこには畏れと恐れ、言うに尽くせぬ昂揚がある。生々しき29の心奥、真摯に味わい尽くしてほしい。

「超」怖い話 己(つちのと)

令和となり、シリーズ生誕28年目を迎えた「超」怖い話、最新作。\\五代目編著者・松村進吉を筆頭に、深澤夜、原田空が支える究極のトライアングルが描き出すリアルで禍々しい恐怖のうねり。体験者の記憶と魂に限界まで肉薄し、彼らの人生そのものを怪奇とともに炙り出し、紙面に焼き付けた話の数々は、いっときの怖気やスリルを超えた永久不滅の衝撃がある。\\我々が日常、何気なく呼吸する空気には死者たちの残留思念。怨み、妬み、憎しみ、痛み……それに気づいた時、本書に収められた実話の数々が真の恐怖となってあなたの胸に落ちるだろう。

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