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7月『拝み屋備忘録 怪談火だるま乙女』(郷内心瞳)内容紹介・試し読み・朗読動画

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拝み屋に最大の危機!?

「焼身自殺をした娘が悪霊になって…」
初めて世に公表される、封印されし禍話「火だるま乙女」収録!

東北の拝み屋・郷内心瞳が綴る大人気シリーズ〈拝み屋備忘録〉第5弾!

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あらすじ

「ひとりこっくりさん」

心霊マニアの男性が部屋で独り、こっくりさんを行なうが、十円玉が予想外の動きを…

「赤い女と青い家」

宮城県北へ拝み屋の仕事で赴いた著者が、意図せず山中に迷い込み、おぞましい怪異に追い縋られる!

「白き異界」

ベッドに迫る霊、此の世ならざる看護師、走り回る異形など、入院中の著者自身に起きた戦慄の恐怖の数々

「仕返しラーメン」

国道沿いにある寂れた店で出されたラーメンは、酷い出来で…。怒って飛び出てきた男性に不可解な仕打ちが!

「視えるを描く」

墓場で幽霊を模写!?拝み屋になりたての著者が体験した、恐ろしいしっぺ返し!

「禁魚を飼う」

友人から譲り受けた天然記念物の鉄魚。飼育をはじめるも、突然一尾が謎の死を遂げ、さらに恐ろしい事態に…

「衝突死」

田舎町を恐怖のどん底に突き落とした人魂騒ぎが、突如終息を迎えたが、その不可解な経緯とは…

「火だるま乙女」

〈全身火だるまとなった世にも恐ろしい姿で…〉地元の屋敷に纏わる嘘の恐怖譚をでっち上げた少年の周りで、不可解で恐ろしい出来事が起き…。事態の凄惨さから著者が長年封印していた最凶の禍話!

著者コメント

 怪を語れば怪至る。平素は起こりそうでなかなか起こり得ない怪異という事象も、一定の条件さえ満たせば、時に容易く顕現される場合がある。
 お盆の夕べ、身内同士で怪談話を語り合うさなか、その場に居合わせた全員の前で怪異が勃発してしまう「燃える話」も、おそらくはそうした「条件」を満たしたことで起こり得た凶事なのだと思う。彼女は一体、どんな話を語りだそうとしていたのだろう。
 新刊『拝み屋備忘録 怪談火だるま乙女』は、表題作を基軸として、火にまつわる怪異を作中の要所に散りばめてみた。茹だるような真夏の盛りに火炎絡みの怪談など、いかにも暑苦しくてうんざりさせてしまいそうだが、蓋を開けばなかなかどうして。
 怪異がもたらす妖しい炎は熱いどころか、心胆を寒からしめるほど冷酷にして陰惨である。あるいはなまじの幽霊譚などより、はるかにぞっと感じられるかもしれない。
 殊に表題作の『火だるま乙女』は、長らく公にすることをためらい続けてきた、曰くつきの一遍ということもあり、掛け値なしに恐ろしい。興味を抱かれた方は、本書をぜひお手に取っていただき、この世ならざる怪奇の炎で、肌身を蝕む真夏の暑さを吹き飛ばしていただければ幸いである。

試し読み 1話

燃える話

 美容師の円さんが、未だに目に焼きついて忘れられないという話を聞かせてくれた。
 今から十五年ほど前、彼女が高校三年生の時だという。
 お盆の夕方、遠方に暮らす父方の叔父一家が円さんの家に泊まりに来た。
 一家は叔父と叔母、それから中学一年生になる娘の三人。精霊棚を祀った奥座敷にて、円さんの家族と夕餉を共にしながら、先祖にまつわる思い出話に花を咲かせた。
 そうした話をしているうちに戸外も次第に暗くなり、話の内容も先祖の思い出話から、いつしか怪談話へと切り替わっていく。
 父と叔父が、小さい頃に見たという人魂のことを話したり、母が学生時代に体験した金縛りのことを話したり、内容自体は他愛もないものが大半だったが、その場に揃った大人たちの口から途切れることなく次々と怪しい話が飛びだした。
 怪談話に場が盛りあがってしばらくすると、叔父の娘も「あたしにも話させて!」と名乗りをあげた。なんでも、とびきり怖い話があるのだという。
「そんなに怖いのなら、ぜひどうぞ」ということで、彼女が話すことになる。
「えーと、じゃあ、本当に心して聞いてください。この話はわたしの……」
 満面に笑みを浮かべ、勿体ぶった口調で話し始めたとたん、ぼわりと大きな音がして彼女の頭が橙色の炎に包まれた。
 たちまちみんなの口から悲鳴があがり、娘も巨大な火柱をあげる頭を振り乱しながら金切り声を張りあげる。
 彼女の隣に座っていた叔父が、着ていたTシャツを脱いで燃え盛る頭の上に被せると、幸いにも火はすぐに消えたのだけれど、娘の髪の毛は根本辺りまでちりちりに焼け崩れ、ほとんど坊主のようになっていた。
「お前、何を話そうとしていたんだ?」と叔父が尋ねても、娘は泣きじゃくるばかりで、まともな答えは返ってこなかった。
 結局、今でも彼女が何を話そうとしていたのかは分からないまま、円さんの脳裏には、突如として頭から火を噴いたその顔だけが、強烈な印象として残っているのだという。

(了)

朗読動画(怪読録Vol.92)

【竹書房怪談文庫×怪談社】でお送りする怪談語り動画です。毎月の各新刊から選んだ怖い話を人気怪談師が朗読します。

今回の語り手は 松永瑞香 さん!

【怪読録Vol.92】逃げられない!湯船の中から幽霊が…郷内心瞳『拝み屋備忘録 怪談火だるま乙女』より【怖い話朗読】

商品情報

著者紹介

郷内心瞳(ごうない・しんどう)

宮城県出身・在住。郷里の先達に師事し、2002年に拝み屋を開業。憑き物落としや魔祓いを主軸に、各種加持祈祷、悩み相談などを手掛けている。2014年『拝み屋郷内 怪談始末』で単著デビュー。「拝み屋備忘録」シリーズ『怪談双子宿』『怪談首なし御殿』『ゆきこの化け物』『怪談腹切り仏』(小社刊)のほか「拝み屋怪談」「拝み屋異聞」各シリーズなどを執筆。

シリーズ好評既刊 

拝み屋備忘録 怪談双子宿

東北でリアルに拝み屋を生業としている郷内心瞳が、自らの体験も含めた怪異の数々をしたためた一冊。
誰がどのように届けたのかわからない、黒く煤けたダンボール箱の恐怖「宅配便」、
魔除けの札を求めてきた女性の部屋にあったのは奇妙な人形。それに込められたおぞましい邪気とは「エコケ人形」、
療養のために著者が訪れた山間の温泉旅館での奇妙な出来事「双子宿」など55話を収録。
怪異は誰の身にも起こり得る。そして決して他人事ではないのだ――。

拝み屋備忘録 怪談首無し御殿

拝み屋を生業にする郷内心瞳が書き下ろした、大人気シリーズ拝み屋備忘録の第2弾!
日夜現れる異形の医者に身体をボロボロにされていく恐怖と絶望を綴った三部作「診察」「往診」「再来」、
迷い込んだ神社で遭遇した、記憶に留めたくないほど恐ろしいおんな「忘れ去りたい」、
依頼を受けて著者が訪れた怪しい気配が蠢く戦慄の館。そこに隠された因果とは…「首なし御殿」など、著者自らの体験を含めた数多の怪奇譚を収録!

拝み屋備忘録 ゆきこの化け物

東北で拝み屋を営む著者の元に集まる、様々な怪異を書き綴る大人気シリーズ〈拝み屋備忘録〉第3弾!階下の住人が亡くなってからというもの、夜ごと不気味な女が現れる「あなたの番です」、彼氏を亡くし失意のどん底にいた女性にさらなる恐怖と絶望が降りかかる「呼び寄せる」、そして、郷内の元にたびたび相談に来ている女性たまこ。彼女が男のために自ら堕ちていき、やがて起こる悲劇と戦慄の結末までを連作で綴る人の因業と生み出される怪異の数々――本当の祟りとは? 憑き物とは?

拝み屋備忘録 怪談腹切り仏

東北で拝み屋を営む郷内心瞳のもとに集まる怪異の数々を綴った大人気シリーズ〈拝み屋備忘録〉第4弾!
・病魔で弱っていたところに次々と怪異が襲う著者自身の恐怖体験…「忍び寄る者たち」
・喧嘩した彼氏の横に佇む得体の知れぬ女、その正体とは…「アンノウン」「正体判明」
・長年の心霊スポット巡りの恐ろしい代償…「一生お詫び」
・人を呪い殺してほしい――過日断った依頼主からの再びの着信に応じると想像を絶する悍ましい真実が発覚する「腹切り仏」
――など拝み屋稼業に密着した45篇を収録。
怪異の本当の恐ろしさがこの一冊に!

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