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【書評】蝦夷忌憚 北怪導

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4月27日発売の文庫『蝦夷忌譚 北怪導』の書評です。

今回のレビュアーは卯ちりさん!
早速ご覧ください!

書評

北海道密着型の怪談作家、服部義史による道産子実話怪談本「恐怖実話 北怪道」に、待望の続編が登場した。道内全域の、住まいと生活圏内で発生した怪異に的を絞った「蝦夷忌憚 北怪導」。怪談好きの北海道民にとっては、特に朗報の一冊である。

好評を博した前作「北怪道」では、道内全域の観光地や史跡を含む、曰く付きの場所での体験談の報告に徹していた。伏字とはいえ明確に場所を記し、著者自身の怪談の好みよりも実録としての機能性が優先されており、道内全土にわたる怪談の列挙は、ガイドブック的な実用性があった。

そんな、心霊スポットガイドとしても有用な「役に立つ怪談本」であった前作とは一変して、今作ではより小さな怪異磁場、「生活空間に纏わる怪異」に焦点を当てた採話がなされている。自宅内での話が多数を占め、庭や畑、近所の公園やコンビニ、通勤先といった、日常空間を舞台にした36編の怪談が綴られている。

暮らしの中で起きた怪異は、家族に纏わる話が多い印象だ。亡くなった家族の魂が長年暮らした家にとどまり、残された家族に対して何かを伝えようとして引き起こされた怪異が、実に様々な現象として顕れている。恐怖のみならず、愛情に裏打ちされた無念や哀しみをたたえた描写は胸が詰まる。文章から滲み出る情感と怪異現象の不可思議さは、前作の読み口とは全く趣を異にしている。

また、家の中というありふれた場所、全国どこでも起こりうる類の怪談であれば、わざわざご当地の暖簾を掲げる必要はあるまいと考える人もいるかもしれない。しかしこの本に於いては、具体的な場所は匿名であっても、道内全域から採話され、一つ一つの話に市町村や区名が明記されているのが肝である。発生場所の万遍なさという、誰にとっても平等な「怪までの物理的な距離感」が、自分にも起こりうる怪談としての恐怖を、道民読者に植え付けるのではないだろうか。特に札幌市内の話は、東西南北の区を網羅して札幌市民の逃げ道を塞いでいるのが、趣味悪くも親切である。

前作における、外出先での「怪」の遭遇から、家の内側に潜む怪異へとシフトした「北怪」シリーズであるが、我々もまた、現在コロナウイルス禍によって外出が制限され、家に居ることを余儀なくされている状況である。そんな時だからこそ、自分自身が住まう空間に潜む恐怖に思いを馳せては如何だろうか。本書は「Stay Home」のフィーリングに寄り添える、貴重な一冊である。

レビュアー

卯ちり
実話怪談の蒐集を2019年より開始。怪談最恐戦2019東京予選会にて、怪談師としてデビュー。怪談マンスリーコンテスト2020年1月期に「親孝行」で最恐賞受賞。

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