竹書房怪談文庫 > 怪談NEWS > 新刊情報 > 【書評】群馬百物語 怪談かるた

【書評】群馬百物語 怪談かるた

Pocket

4月27日発売の文庫『群馬百物語 怪談かるた』の書評です。

 

今回のレビュアーは卯ちりさん!

早速ご覧ください!

書評

群馬密着型の怪談作家、高崎怪談会を主催する戸神重明による怪談百物語。当然ながら群馬県を舞台にした怪談のみで構成されているが、上毛かるたに見立てられたこの本は、絵札を取る代わりに、五十音順で読み札風のタイトルのついた怪談を一話ずつ楽しめる趣向になっている。上毛かるたについては、筆者は恥ずかしながら存じ上げなかったのだが、地方の名物や歴史文化を読む郷土かるたの代表的なもので、競技大会が催され県民には広く親しまれているものらしい。県民馴染みの名物とご当地怪談を融合させた、郷土愛に満ちた本である。

市街地から人なき道まで、人の訪れるところに怪異ありというべきか。100話収録というだけあって、県内全域から様々な怪談が寄せられている。人々の生活の狭間に潜む怪は、それぞれが「ちょっとした不思議体験」でありながら、同じ場所、似たような現象の報告が重なることで、「曰くつき」の不気味さを纏いはじめるのがわかる。寄せられた体験談の豊富さは、定期的に開催される高崎怪談会という語り場の功績だろう。

また、ありがたいことに、非・群馬県民にとっても訪れやすい、観光スポットに纏わる怪談も多数収録されている。「七十五、未来が写る 富岡製糸場」で未来視のごとく撮影された雪の小山の写真には、倒壊してこの世から消えた史跡への名残惜しさを感じるが、静謐な美しさをたたえている話だ。榛名湖の話は複数あるが、「八十、藻が絡む 夏の榛名湖」は特に恐ろしい。水深が浅いにも関わらず、水死体が上がりにくいとされるこの湖の底には、触手のように藻が群生しているという。釣り糸に絡まり、這いながら襲いかかる髪の毛のエピソードは、一見すると奇妙に感じられるものの、髪の毛に水死体と絡みつく藻のイメージが重なり合うことで、幽霊以上に気持ち悪い存在に思えてくる。

上毛かるたは、本書のまえがきに記されているとおり、戦後GHQにより禁じられた、学校での戦前の地理歴史教育に代わるものとして誕生した経緯がある。故に、上毛かるたは遊びのかたちをとった地域学習として機能していたに違いないが、上毛かるたに擬えた本書は「怪談を切り口にした郷土史」と捉えることができるのではないか。怪談は無形で、もちろん科学的に証明する手立てはない。しかしそこに暮らす人々の間で噂され語り継がれ、地域の歴史に呼応して生まれる話というものは、その土地・地方を知る上で決して無用ではないはずだ。

怪談は郷土史の一部になりうるか――。怪談本の史料的価値という側面について、考えさせられる。

レビュアー

卯ちり

実話怪談の蒐集を2019年より開始。怪談最恐戦2019東京予選会にて、怪談師としてデビュー。怪談マンスリーコンテスト2020年1月期に「親孝行」で最恐賞受賞。

この記事が気に入ったら
フォローをお願いいたします。
怪談の最新情報をお届けします。

この記事のシェアはこちらから


関連記事

ページトップ