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【書評】凶鳴怪談

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4月27日発売の文庫『凶鳴怪談』の書評です。

 

今回のレビュアーは卯ちりさん!

早速ご覧ください!

書評

 怪談は、それを発表する人間を選んで集まってくるのだろうか。岩井志麻子と徳光正行、タレントでもある二人が蒐集して織り成す怪談は、語弊があるかもしれないが「華やか」である。様々な人間が集う芸能界という活動フィールド故か、彼らの元に集まってくる怪談には、人々の蠢き――金銭や性への欲望、生きることへの獰猛な執着が渦巻いている。強烈な人生を歩んだ体験者が多いおかげで、物騒で猥雑な話が炸裂しているのだが、まるで危険であることが恐怖の源であり真骨頂と言わんばかりに、この本では「人怖」と「怪談」が肉薄している。

昨今では、怪談・怖い話における恐怖の定義の一つに、「人怖」が台頭している感がある。怪奇現象ではなく、生きている人間から感じる恐ろしさ。科学的に解明できない事象を扱う怪談のカテゴリーに人怖を含めるかどうかは議論があると思うが、本書の体験談を知った後では、心霊現象そのものと、生きている人間の憎悪や執着が引き起こす行動や事件、はたしてどちらが怖いのだろうかと思ってしまう。そもそも怨念や殺意といった人間が抱く恐ろしい感情に、生きているか死んでいるかの違いはあるのだろうか……?

岩井志麻子の、見開き2ページにぎっしり書かれた怪談50話の圧力は、1話ごとにショットグラスを一つずつ空けるような濃密さがあるのだが、アジア圏の話も多く、「腰痛」のように海外特有の物騒さを感じるエピソードは、彼女ならではのチョイスと言える。また、「奇妙な思い」「そっくりな他人」のように、違う世代・別の土地でありながら同一人物らしき人間がいた、という報告が出てくるのは興味深い。徳光正行「風子さんの家」も、明らかに世代がズレているSF的なエピソードだが、少年であった体験者の初恋がノスタルジックで心地良く読める、本書では数少ない「いい話」の怪談だ。

いうまでもなく、この本の怪談ではろくな死に方をしない人間、浮かばれない末路を辿った人間が数多く報告されているわけだが、その中でも「4のゾロ目」は厭な幕引きである。4という数字に付きまとわれる偶然が引き起こした不幸ではあるが、数字が不幸を予言していたというよりは、数字に囚われヒステリーになったせいで不幸になったのでは、という疑念が残る。

怪談か、人怖か。人間の恐ろしい行いが怪談を生むのかもしれないし、超常的なものに囚われることで人間は狂うのかもしれない。この本を読む限りでは、その境目は私たちが思っている以上に、複雑で曖昧である。

レビュアー

卯ちり

実話怪談の蒐集を2019年より開始。怪談最恐戦2019東京予選会にて、怪談師としてデビュー。怪談マンスリーコンテスト2020年1月期に「親孝行」で最恐賞受賞。

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