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【書評】どこまでも実話怪談として丁寧に扱い怖く語る——「怪談社書記録 闇語り」伊計翼【卯ちりブックレビュー】

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5月28日発売の文庫『怪談社書記録 闇語り』の書評です。

今回のレビュアーは卯ちりさん!

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書評

 怪談社における書記係、怪談ライブで語られる数々の話を読み物として毎度編纂している伊計翼の新刊である。今回は大小様々な怪談を、「ない」づくしの題名で、ぎっしり71篇収録。全国津々浦々、様々な話を取材しては怪談ライブで披露している怪談社ではあるが、昨今はライブで怪談を聴くことは難しい反面、こちらの新刊で多くの仕入れたての怪談堪能できることには感謝したい。

 多くの怪談ファン同様に、既刊を拝読し、また怪談社による怪談語りの両方を堪能している身としては、収録されている話を語りで聴くのも面白く、ライブで聴いた語りを活字の形で触れるのも新しい発見がある。怪談社は、新しい怪談、日々更新される怪異をキャッチし、どこまでも実話怪談として丁寧に扱い怖く語るというスタンスに思えるが、今回は、読み物として存分に面白く、怪談の個性を感じたものを3つほど挙げたい。

 昆虫採集好きの少年が火の玉を捕まえた話「採っていない」は、間近で見た火の玉の描写や泡が残されていたという報告の興味深さもさることながら、珍しいものを捕まえたいという少年の好奇心が引き起こした体験談には、子供時代の思い出の郷愁と瑞々しさがあり、「耳嚢」のくだりが記されていることで、しっかりと王道の怪談に仕上がっている。

 弟の失踪事件にまつわる連作「誰もいない」「笑っていない」「言葉じゃない」は、体験者が見た2人の女性の形をした「ゆうれい」と、神隠しの如く消えた弟をめぐる、救いどころのない話だ。「ゆうれい」の、幽霊というよりは都市伝説的な化け物じみた特徴と、家族が行方不明となったことによる当事者たちの苦しみが生々しく、子供が消えるという恐怖が、より現実的なもの、誰にでも起こり得るものとして実感されるのがなんとも恐ろしい。

 本書の最終話「愛を知らない」は紛れもなく怪談ではあるが、アウトローな短編小説の趣がある。人間が死せるときに何かしらの霊的な力でメッセージを伝えるのは、心霊現象としてはごく当たり前のことかもしれない。しかしながらその一回の現象が、伝えた先の相手にとって重要で忘れえぬものになり、その後の人生すら左右する。怪談は、常に生きている人間の人生に付きまとうのだ。

 これらの話が怪談ライブでも楽しめることを心待ちにしつつ、日常が少しずつ動き始めつつも不自由をなお感じてしまうこの現実を前に、今しばし、視えないものたちへ思いを馳せたい。

レビュワー

卯ちり

実話怪談の蒐集を2019年より開始。怪談最恐戦2019東京予選会にて、怪談師としてデビュー。怪談マンスリーコンテスト2020年1月期に「親孝行」で最恐賞受賞。

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