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【書評】怪談玄人ならではのオールラウンダーぶりに喝采——「「忌」怖い話 小祥忌」加藤一【卯ちりブックレビュー】

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5月28日発売の文庫『「忌」怖い話 小祥忌』の書評です。

今回のレビュアーは卯ちりさん!

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書評

 実話怪談編著者として長らく活動している加藤一の単著新刊、年に一回発行のソロワークである。今年は「弩」怖い話ベストセレクションの発売、怪談文庫主催の配信ライブ「電網の怪宴」での登壇、6月末には「恐怖箱」シリーズの最新作が刊行と、例年以上に活躍中なのはご存知の通り。

 実話怪談本が続々刊行される中で、各々の作家が描き出す怪談を色々と読み比べてみて感じるのは、文体や描かれる恐怖の質といった作家性の違いだろう。現在の実話怪談は様々なスタイルの怖さに溢れていて、怪談作家にはそれぞれの持ち味があるが、加藤一の最新単著を読み終え収録作を一望して感じたのは、怪談玄人ならではのオールラウンダーっぷりである。取材し集めた怪談のバリエーションの広さに対し、ソツがないと言えばいいのだろうか。短い話もヘヴィーな話も、古い話も新しい話もある。人が多く死ぬ話もあれば、不可思議な話もある。力作ばかりを揃えるのではなく、かといって小品の連なりを小綺麗に磨き上げるわけでもなく、ざっくばらんだ。お洒落に言い換えるなら「こなれ感」。取材時の会話のやり取りの軽快さやツッコミの一文など、実話の雑味を程よく残しつつ、大ネタの話はしっかり怖い。こだわりはあれど凝り過ぎない作り込みが、実話の持つ生々しい輪郭を形作っている。

 今回の大ネタを挙げるなら、終局の2篇「団地」と「占いと猫」だろう。「団地」はその名の通り、昭和40年代の板橋区の清掃工場の社宅であった団地の連続死を扱っている。当時急速に建てられた団地群と、そこに埋められ忘却された荒神様との因果。高度成長期における、経済発展と暮らしの豊かさの裏側を炙り出すような怪談である。「占いと猫」は、禁術のトランプ占いで人の死を予言的中させてしまうという事象を扱っていながらも、「不吉な占いを当てる」こと以上に怖いものは何かが示されることで、怪談として成立している。超常的な話だが、原因が霊的なものかどうかさえわからず、深淵を覗くような怖さをひしひしと感じた(そしてこの話は、深淵がこちらに介入した怪談である)。卜占という行為に潜む、神秘というには禍々しい話である。

怪談ブームがますます過熱している昨今において、実話怪談界の屋台骨を支え続ける彼の次回作、箱詰め職人としての仕事も引き続き楽しみにしようと思う。

レビュワー

卯ちり

実話怪談の蒐集を2019年より開始。怪談最恐戦2019東京予選会にて、怪談師としてデビュー。怪談マンスリーコンテスト2020年1月期に「親孝行」で最恐賞受賞。

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