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5月新刊『呪女怪談 滅魂』(牛抱せん夏)内容紹介・試し読み・朗読動画

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人気怪談師・牛抱せん夏が怪異に寄り添い、
口寄せした実話怪談集!

「田舎の山で迷子になった私を助けてくれた少女には
顔がなかった…」 (「山形にて」より)

女優怪談師・牛抱せん夏が、此の世に蔓延る恐怖体験を生々しく綴った実話怪談集!

無料で読める怪談話や怪談イベント情報を更新しています

あらすじ

「順番」

マンションで漂いはじめた異様な臭気。恐怖がヒタヒタと忍び寄る、リアルタイム事故物件談!

「霊媒家族」

娘に悪霊を憑依させ… 怪現象に悩んだすえに呼んだ霊媒師たちが行なった驚きの除霊方法

「滝つぼ」

TVのロケで心霊スポットを訪れた女性タレント。一見何も起きないが突然に瀬戸際の怪事が襲う!

「ボルゾイ婦人」

優雅にボルゾイを散歩させている老婦人。仲良くなったが、ある日不思議な真実を知る…

「ひとりで住む」

離婚してひとり暮らしを始めた男性が住んだのは、怪奇現象が頻発する凶悪物件だった!現在進行中の恐怖…

「旅行」

ルームメイトと旅行中、行く先々で異常事態が畳みかける!それは帰宅しても… 不条理な恐怖に満ちた連作

「まる変」

警察官が語った変死体の凄惨さ…そして、科学的には説明のつかない怪現象のはなし

「多目的室」

劇団仲間に恐ろしい怪異が…筆者・牛抱せん夏の眼前でリアルに巻き起こった戦慄の出来事

著者コメント

YouTubeで怪談を発信するようになってから、毎日のように怪談投稿をいただくようになりました。これまで怪談に興味のなかった層がたまたま目にした一話の怪談がきっかけとなり、むかしご自身で体験されたことなどを思い出されるようです。

今回は全国各地からいただいた投稿を中心に体験者さまの気持ちに寄り添ってまとめさせていただきました。

この本を読むことで遠い記憶が蘇るかもしれません。その際にはぜひご投稿ください。この世の裏側でお待ちしております。

試し読み 1話

原っぱ

「父ちゃん、旅がしたい」

 四十五年ほど前、笠井さんは鉄道少年だった。

 夏休みにどうしても寝台列車に乗って、遠いところまでいってみたかった。

 もちろん家族みんなで出かけるつもりで申し出たのだが、父親は「いってこい」と彼ひとりを送り出した。いき先は父親の実家だった。

 上野駅から夜行列車に乗り、山形県の北部と秋田県の境である新庄駅までいく。そこから乗り換えて釜淵までいく。

 駅に到着すると祖父が迎えにきてくれた。

 山深い集落で二、三十軒程度ある民家の住人はみな祖父の顔見知りだった。

 当時は鍵もかけておらず、近所のひとが来ては「お茶呼ばれようか」と気軽に出入りのできるのどかさが残っていた。

 東京からこどもがきた。

 あっという間に噂は集落中に広まったようで、同世代のこどもたちが物珍しそうに集まってきた。母親が新しく買ってくれた服や靴も都会らしさを高めていたのかもしれない。

 はじめこそ好奇の眼差しで見られていたが、すぐに仲が良くなった。

 毎日のように山の中へ入ってはカブトムシやクワガタをつかまえる。

 川へいけば、カジカを捕まえてその場で串に刺して焼いて食べた。

 都会にいるときにはできなかった遊びがほとんどで、この村のこどもたちと一緒にいることがたまらなく楽しかった。

 八月も中盤に入ったある日のこと。

 数人の友だちと一緒に、山の中へ探検をしにいこうということになった。

 集落のはずれにある畑に脇道があり、そこから山へ入っていく。

 地元のこどもらは何度も来ているのだろう、慣れたようすでどんどん前へ進んでいった。

 笠井少年はあとをついていくので精いっぱいだ。

 そんな彼に対し、ひとり執拗に嫌味を言う子がいた。

 運悪く、この日の山歩きのリーダーがこの子だった。

 道の途中で急に止まると、

「なあ、この実の名前、わがる?」

「知らない。なにかの花?」

「うわあ。ほだなこどもわがんねの? これ、野イチゴ!」

「えっ? イチゴ? 食べられるの?」

「食われるのも知んねの? んだから東京の子はダメなんだ」

 あれは知っているか、これは都会にはないだろう、魚の名前も知らないのか。

 そのリーダーの子はあざけるように言い続ける。

 これまで楽しかった時間が台無しだ。

 もう我慢の限界。歯向かう気にもなれず、急にお腹が痛くなったフリをしてひとり山を下りることにした。

 リーダーの子は一瞬困ったような表情を見せたが、すぐにほかのこどもたちと先へいってしまった。

 さほど深くは山へ入っていないはずだ。来た道を戻れば簡単に帰ることができるだろう。

 そう思って歩き出した。

 ところがすぐに考えが甘かったことを思い知らされた。

 歩けども歩けども、あの畑につながる道に出ない。

 体感で一時間くらい経っただろうか。数分前に通ったはずの道に戻ってしまった。

 慣れない山の中で、完全に迷ってしまった。

 確か来たときからずっと上り坂が続いていたはずだ。下がる方へ意識してまた歩き出す。

 やがて日が傾きはじめてきた。

 水筒も持ってきていない。喉はカラカラだ。

 途中、気休め程度にしかならないが、ムカつくあいつに教えてもらった野イチゴで水分を摂る。

(――困ったな。もう二度と家に帰ることができないかも)

 汗と涙でぐちゃぐちゃになりながら帰り道を探す。

 それからどのくらい歩き続けただろうか。

 突然視界が開けて、広い原っぱに出た。

 風が吹いてザァッと草木がなびく。

 そこに、ひとりのおんなの子がしゃがみ込んで泣いていた。

 同い年くらいだろうか。

 原っぱには小さなお地蔵さんが何体かあり、おんなの子はまるで囲まれるようにしてしゃがんでいる。

 集落の子たちはほとんど知っていたが、初めて見る子だった。

 笠井少年は迷子になった不安感と、ほかにもひとがいることによる安心感でまた涙が出てきた。今度は我慢しきれず声が漏れてしまう。涙で視界をゆがませ、おんなの子のもとへ歩み寄った。

 笠井少年に気づくと彼女は顔をあげて、驚いたように立ちあがった。

 この子もおそらく自分と同じく道に迷ったのだろう。

 しばらくの間ふたりでただひたすらに泣いた。

 おとこだからこんな情けない姿を見られたくないという恥じらいはあった。しかし、もうどうしようもなく、次から次へと涙が出てくる。

 そのうちにおんなの子は泣くのをやめて、笠井少年の腕を掴んで歩き出した。

 背中をさすってなだめてくれる。

 笠井少年は両のこぶしで涙をぬぐい「ありがとう」と言って顔をあげる。

 おんなの子の姿はそこになかった。

 視界の先の木立ちの脇に踏み固められた、けもの道が見えた。

 おんなの子がどこへいったのか気にはなった。それ以上に自分のことで頭がいっぱいで彼女を探す余裕もなく、無我夢中でひたすら道を進んだ。

 ほどなくして入ってきた畑の脇道に出た。

 日暮れ前にはなんとか家に帰ることができそうだ。

 その直後「おうい」と山へ一緒に入った友だちに呼び止められた。

 迷子になっていたことは隠し、さきほど原っぱで会った少女のことを聞いてみたが、みなそんな子は知らないと口を揃えて言うだけだった。

 家に帰って晩ご飯を食べようとして、急にあのおんなの子のことが気になり出した。

 自分は今こうして無事に家に帰ってきて、お風呂にも入りおいしいご飯を食べることができる。あの子は家に帰れただろうか――。

 ご飯を口に押しこむと、祖父母に今日のできごとを話す。

 祖父は原っぱの地蔵尊のことを聞くと「戦争のどぎのお地蔵さんだ」と、遠い目をしてつぶやいた。

 第二時世界大戦のとき、隣町に軍事工場があったため、そこを狙った空襲がたびたびあった。のどかで小さな村でも多くの死者が出た。原っぱの地蔵尊は、戦後、地元の住民たちの手によって戦没者を偲んで建てられたものだという。

 祖父の話を聞いて笠井少年は、地蔵尊に囲まれるようにして泣いていたあの子が変わった服装をしていたことを思い出した。

 ところどころ穴だらけになったもんぺ、頭には防空頭巾をかぶっていた。

 あのときは自分のことでいっぱいであまり気にしていなかった。

 すぐ隣を歩き背中をさすってなだめてくれた。何度かその姿を見ていたはずだが、なぜか顔を思い出せなかった。

 今、ようやく思い出すことができた。

 笠井さんはひと夏の間、村にいた。

 しかしあの少女に出会うことは二度となかった。

(了)

朗読動画(怪読録Vol.84)

【竹書房怪談文庫×怪談社】でお送りする怪談語り動画です。毎月の各新刊から選んだ怖い話を人気怪談師が朗読します。

今回の語り手は 怪談社の 糸柳寿昭 さん!

【怪読録Vol.84】枕元に忍び寄る恐ろしいおんなに鳥肌必至!-牛抱せん夏『呪女怪談 滅魂』より【怖い話朗読】

商品情報

著者紹介

牛抱せん夏 Senka Ushidaki

女優業と並行して怪談師として活動。主催で怪談イベントを開催するほかYouTubeでの怪談配信、こども向けのおはなし会なども行っている。著書に『実話怪談 呪紋』『実話怪談 幽廓』『呪女怪談』、共著に「現代怪談 地獄めぐり」シリーズなど。

シリーズ好評既刊 

実話怪談 呪紋

怪談師として憑依的な語りで魅了する牛抱せん夏。自身の体験も含む43話の怪談を披露する。多額の借金を背負った夫婦の家に現れる着物姿の女とは「貧乏神」、とある因縁の心霊スポットに踏み込んでしまったために起きる惨劇「因果応報」、濁った瞳を持つアンティーク人形の怪異「ビスクドール」、昼過ぎなのに夜のように暗い家。何かがおかしい、そう感じたとき玄関に誰かが来た! 「式神」など。ふとした日常にぽかりと口を開ける暗闇、誘われて踏み込めばもう戻れない。

実話怪談 幽廓

気鋭の怪談師・牛抱せん夏が綴る恐怖の数々!女子高にある開かずの間。そこに現れたおぞましい姿とは…「礼法室」、お寺でホラー映画の撮影中、女優のもとに遊女の霊が迫る!「いじわる」、呪いは終わっていなかった…前作『呪紋』で衝撃をもたらした恐怖体験の後日談「続・式神」、奇妙な怪事が立て続けに起こる物件――著者自らの仄暗い実体験「アパート」などの怪奇譚が語られる。心の底まで恐怖が吹きつける牛抱怪談に貴方もとり憑かれる――。

呪女怪談

人気女流怪談師が、体験者の生々しい恐怖、戦慄、不可思議を、憑き動かされるように書き下ろした実話怪談集!幼い娘がクレヨンで描いた、居たはずのない〈おねえちゃん〉の正体とは…「湖」、物心ついたときから家のなかに居る家族以外のだれか。その奇怪な姿とは…「もひとさん」、興味本位で行った心霊スポットのトンネルで、予想だにせぬ最悪の事態に陥る「トンネル」、自分しかいない寒い家のなかで扉がひとりでに鳴りだして――著者の祖母が在りし日に語った郷愁を誘う恐怖体験「足音」など多数収録。肌身に刺さる怪異の恐怖は、言霊となって伝染していく。いま、あなたの後ろにも――。

現代怪談 地獄めぐり 羅刹

メディアやイベント等で活躍中の怪談巧者が結集し恐怖譚を書き下ろす豪華アンソロジーシリーズ最新刊!地上波で司会業を務めながら怪異を追究する徳光正行、DJ活動を展開する傍ら怪談蒐集家として活動する響洋平、TV番組に引っ張りだこの霊感お笑い芸人・シークエンスはやとも、女優業と並行しながら怪談師として活動する牛抱せん夏、そして怪談ライブバー・スリラーナイト歌舞伎町の筆頭怪談師かつ俳優の村上ロックが満を持して初参加!怖い話のプロ達5名が綴る極上の恐怖は、残虐な羅刹のように読み手に喰らいつく!

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