竹書房怪談最恐戦|第2回怪談最恐戦

「怪談最恐戦2019 ファイナル」
優勝は、下駄華緒!!

1月18日(土)渋谷ユーロライブにて行われた「怪談最恐戦ファイナル」において、5分+7分+15分の怪談を語り切り、決勝では壱夜との決戦を僅差制した下駄華緒が「怪談最恐位2019」に輝きました。

ファイナル トーナメント表

「怪談最恐戦ファイナル」レビュー

レビュー執筆:卯ちり

第1ステージ<Aブロック>

シークエンスはやとも

霊感が強いということは、苦しんでいる人のために、恐怖に立ち向かうことである——怪異に対して、頼もしすぎる言葉が出てきてしまうほどの、強烈な体験談。幽霊一家に生まれついた軽快なエピソードから始まるこのお話。冒頭にて霊感の強い人間のリアルを提示することで、常人とは次元の違う怪異、まるで受肉しているかのような幽霊と対峙する、はやともさんの臨場感ある恐怖が感じられる構成も含めて、見事な5分語りでした。霊感の強い自分が、亡くなった友人に呼ばれたと語っていますが、ご自身がゼミで該当の事件を研究していた時点で、はやともさんにも少なからず、その家との縁があったのでは? とも感じるエピソードでした。

匠平

「今日は自分のために怪談をやらせてください」怪談勝負に挑む、匠平さんの冒頭の一言。 自分のための怪談とはつまり、勝つために怖がらせ楽しませる王道の怪談ではなく、自分自身のこだわりや思い入れの強い一話を携えてきたのでは?と思った人も多いのではないでしょうか。話数もステージ数も豊富な匠平さんが敢えて話す、父親との確執にまつわる怪異。さぞかし思い入れが強いであろう話に違いないと聴き入っていると、最後の「ごめんなさい」の一言で、「自分のために」この場で語った真意が判明するという、匠平さん流の生贄探しの儀式でもある怪談でした。父親よりも、「やっぱりお前がいい」と死神に愛されている匠平さんですが、はたして匠平さんよりも魅力的に映る、死神の生贄は簡単に見つかるものでしょうか……?

夜馬裕

「娘を返して…」という言葉と、首を吊った女の子の影が揺れている鮮烈な映像から始まるお話。まるで映画の冒頭のような掴みで、聴き手は「厭な話」全開の夜馬裕ワールドに引きずり込まれます。首吊り人形だらけの部屋で、木村さんが笑っている不気味な光景だけでなく、怪現象は収まっていないのに除霊に成功したと思い込む狂気の片鱗、遺品をぞんざいに扱う木村さんの無自覚な悪行、突き放したように木村さんを嘲笑するかのような同僚の態度、人形を娘と呼ぶ亡くなった女性、隅々まで仕込まれている「厭」の気配が、「女の子が人形に見え始めた時、彼にかかっていた呪いは完成されていた」の一言で、一つの鋭利な恐怖となって、聴き手にトドメとして突き刺さる怪談でした。

第1ステージ<Bブロック>

下駄華緒

ご自身にとっての忘れられない、葬儀屋の職務体験だからこそ、強烈な印象を残してノックダウンされるこのお話。5分の短さながらも、初戦で切り札を出してきたような潔さも感じる怪談でした。幼くして亡くなった息子。率先して話をするタイプの妻と、それにおとなしく従う夫の夫婦。亡くなった息子役を夫が演じていたわけですが、夫婦共に狂気に堕ちていったのか、息子を偲ぶ妻が夫を巻き添えにしたのか、それとも……。下駄さんと社長さんの苦労と恐怖を思うと、人怖とも取れる怪談ですが、心霊か人間の狂気かを、あえて議論する余地すら与えない、ただただ目を背けたくなる話、という類の一編でした。

ごまだんご

ホテル怪談と予知夢のハイブリットで、恐怖と厭さが倍増するこのお話。予選会からのブラッシュアップは出演者全員されていますが、特にごまだんごさんの語りには磨きがかかっていたように思います。話を聞く限りでは、予知夢のおかげで実際に泊まる羽目にならなくてよかったとも取れますし、水滴という怪異の発生している証拠を目にする間接的な体験とも解釈できますが、予知夢ながらも「すでに体験してしまった怪異」という後味の悪さが残ります。まだ泊まっていないのに、泊まった時の心霊体験を夢で前もって見てしまうのも迷惑な話ですが、あのまま泊まっていたら……という選択肢も気になる怪談でした。

小森

「へその緒」という題名が最後に語られることで、不可解な箱の中身を知る構成に鳥肌が立つ一編。書籍等の媒体であれば、最初に題名でオチが見えてしまうものですが、語る怪談の題名が公表されない、今大会ならではの構成が粋だと思いますし、語り口と話す怪談の風合いがフィットしている心地よさもありました。安定した低いトーンの、淡々とした小森さんの語りで、訪れた家の不気味さと暗さがいっそう引き立ちますが、木箱のへその緒は、はたして公園にいた少年のものなのか、玄関先の赤子と少年の「かずや」は同一人物か、また廃墟の平屋にいた女性は母親なのか、他人なのか…。へその緒を見ることで話が締まっているようで、怪異には決着がついていない、宙ぶらりんの不安が残るお話でした。

第1ステージ<Cブロック>

田中俊行

小泉怪奇さんが取材されたお話をもとに、田中さんが5分語りで挑んだ一戦。道連れ式で、絶対に関わりたくない類の幽霊譚ですが、あまりにも奇妙なお話でもありました。まるで冬虫夏草のように、つくし状の何かが生えて顔になり、口をパクパクさせて消え、蝉の抜け殻のような身体が残る。実際に語った場合、その描写で恐怖を呼び起こし、聴き手に幽霊の姿をイメージさせるのが難しいかと思いますが、そこは流石、田中さんの個性で化学変化が起きていたのだと思います。つくし現象と粉瘤、同僚からのバトンタッチといい、予測のつかない展開が恐ろしい怪談でしたが、この強烈な怪異は引っ越し程度で、逃げ切れるものなのでしょうか…?

悠遠かなた

宇土殺、前編。勝ち上がっていれば、中編や後編も聴けたのか!? という悔しさもありますが、5分間の前編だけでも十分に怖いです。かなたさんのフットワークで掴み取ったとも、降りかかってしまったとも言える宇土殺ですが、配信での臨場感あふれる体験だからこそ迫り来る恐怖があり、YouTuberとして本領発揮、強みが存分に発揮されている怪談でもありました。数々の心霊スポットを訪れている手練れのかなたさんすら、家の中に入れなかった物件、余程の場所ですね……。この話を念頭に置きつつ、かなたさんの宇土殺動画を鑑賞するのは格別の怖さがあり、(怖がりじゃない方には)大変オススメです。また、筆者がレビュー執筆中に家鳴りと耳鳴りに唯一悩まされたのも、このお話です。

鏡太郎

語り始めた瞬間、解き放たれたかのようにパワー全開で話をお届けしてくれる鏡太郎さん。鏡太郎さんの語りはライブ・配信問わず、圧倒的な聴きやすさで親しみやすいのも魅力です。路上で彷徨い続けているのであろう、磁石のようにとり憑く女の幽霊。磁石のようにベタッと貼りついたり、剥がれ落ちて地面に染み込むように消えたりと、不思議な動きをする幽霊ですが、腕を回すのは首だったり腰だったりするので、人によっては腕や足にもひっつくのかもしれませんし、もしも短時間のうちに剥がれ落ちなければ、幽霊は誰かにくっついたまま、長距離を移動するのかもしれませんね。ティッシュ配りの体験者はしばらく肩が重かったとのことですが、首にずっと、腕を回し続けていたのでしょうか……?

第1ステージ<Dブロック>

壱夜

鼈甲の牛のキーホルダーと、お婆さん。殺意の強力な怪談ですが、準優勝の壱夜さんが決勝までに話った4つの話のうち、唯一家族にまつわる怪談ではない、赤の他人から降りかかってくるお話でもあります。道端で最初に出会ったお婆さんの正体が、ゆきさんにしがみついていたお婆さんなのでしょうし、亡くなった「あのぉ」と追いかけてくるサラリーマンは、おそらく取り憑かれていたのでしょう。「お婆さんは自分のことを隠すために、キーホルダーと人ひとりの命を使った」という表現があまりにも恐ろしい。お祓いにゆきさんは現れなかったそうですが、隠れる必要のなくなったお婆さん、一体ゆきさんに何をしたのでしょうか。結末を知らない方がいい怪談なのかもしれません。

旭堂南湖

出場者きってのベテラン、旭堂南湖さんのお話は母娘の幽霊が出る心霊スポットの、一軒家にまつわるエピソード。話芸の確立されている講談の語り口だからこそ、現代怪談お決まりのフォーマットも、新鮮に聴ける魅力があります。オチを先に語りつつも、2人しかいないはずの幽霊の3人目が判明する瞬間の戦慄、それから更に車がない、赤ん坊が10人いるという「話が違う」オチを重ねていき、見事な三段オチを決める技巧。最恐戦という勝負の場で、トリプル技を仕掛けてくる、攻めた展開でした。赤ん坊の泣き声の生々しい不気味さと奇妙さもあり、アドリブもあり、予選会から引き続き、余裕と遊び心で、笑いを含みつつも存分に怖がらせてくれる怪談でした。

石野桜子

5分間で語られた話とは思えないほどに濃縮された、Aちゃんの思い出話と悲しい顛末。父親から虐待されていたために、怯えがちで無口だったAちゃんと、彼女と仲良くしていたBちゃん2人のやり取り、そして最後の「に、げ、て」の一言が、聴き終わった後に痛切に胸に残ります。また、Aちゃんを殺した父親の、裏声でバイバイと言うカモフラージュにゾッとする怪談でもありました。赤いお化けは果たして本当にお化けだったのか、苦しむAちゃんの幻覚だったのかは判断に迷うところですが、「今日は泊まりに来て」と懇願する、死の運命が目前に迫っているAちゃんにSOSを出させた、隙間から覗いた赤いお化けは、必ずしも邪悪なものではなかったのかもしれません。

第2ステージ(準決勝)

シークエンスはやとも

「霊感が強い」という特殊すぎるスキルによって繰り出される、自身のとんでもない霊体験を軽快に語るスタイルのシークエンスはやともさん。しかしこの勝負では、自身の霊感の強さとは無関係に、偶々怖い思いをした体験を語っています。想い人に夢を見せ続けることで、相手を死に追いやることさえ出来てしまう女性の存在は、まるで現代の六条の御息所のような、強烈な霊力と執念を感じますし、はやともさんの強い霊感でさえ対処ができないのは厄介です。夢を見続けないためには、女性本人に「きつく言って夢を見させないようにする」以外に方法がない点では、人怖の要素も濃厚な怪談。信じがたい話ほど、語り手に対する親しみや信頼がなければ話が届かない側面もありますが、毎度必ず笑わせつつも怖がらせてくれるはやともさんは、聴く人を信頼させてくれる語り手だと思います。

下駄華緒

戦慄の葬儀屋体験、第二弾。死人の身体に触れるという「穢れ」に否応なく殴られるような、忌避感覚を刺激されるこの怪談。死人の口からゴキブリの触覚か髪の毛かわからないものが出ていて、気づいたら消えていた——今大会で語られた怪談の中では、現象それ自体はさりげなくも、怪異一つを、葬儀屋の職務を、こんなにも恐ろしく語ることができるのかと驚愕してしまうお話でした。ゴミ屋敷だから葬儀をあげられない、マンションのエレベーターがない、階段の踊り場が狭くて棺が通らない、というトラブルが次々と降りかかり、追い詰められたかのような状況に陥り、遺体を背負う羽目に。そして階段を1階ずつ登っていくたびに、どんどん遺体に対する気味悪さが増していく展開。迫り来る恐怖こそ怪談の醍醐味であり、怪談とは単に怪奇現象のみで語られるものではないのだなと、改めて考えさせられます。

田中俊行

一回戦に引き続き、小泉さんから聞いた怪談を披露する田中さん。姪に謝らなければいけない……という不穏な懺悔から始まるのは、とある絵にまつわる怪談。その絵に魅入られた人は命を取られ、絵の中に書き加えられてしまうという、都市伝説のような直球の怪談ですが、田中さんの語りの味わいも相まって、掴みどころのない不可解さに満ちています。いかにも曰くのありそうな絵画ではなく「B4サイズのキャンバスに、クレヨンで描かれた余白の多い、売り物にならない稚拙な絵」という特徴が面白くもあり、怪異の元凶も一切不明、ただただ人が死ぬ被害が出てしまうのが厭な話。また、最初から絵に描かれていた女の子と大人の女性の謎もありますし、余白が多いということは、まだ何人も人を殺せる絵なのでしょう。キャンバス一面に人が描かれ尽くすまで、誰かの命を狙っているのでしょうか。

壱夜

娘は私のもの、母は私のもの。選ばれた娘と、選ばれなかった子供たち。我々にしてみればぞっとする幽霊と歪んだ親子関係であるはずなのに、嬉々として語る体験者の中には揺るぎない相思相愛があり、手出しのできない怪談。体験者のみりさんは、母親の自殺という壮絶な光景が目に焼きついて離れず、記憶の奥底に留めていたのだろうと思いますが、母親と同じホステスの道を歩み始めてから、母親と生まれなかった兄弟の幽霊を見るようになったというのも、その意味について考えさせられます。大阪予選会で語られていたお話と同様に、怪異で紡がれた歪な親子の絆が根底にある痛切なお話でしたが、決して幸福な人生を歩んでいない人間の奥底にある渇望や孤独を浮き彫りにする、体験者に寄り添ったこの怪談は、壱夜さんの真骨頂と言ってもいいのではないでしょうか。

第3ステージ(決勝)

壱夜

奇しくも「おばあちゃんの話」で対決となった決勝戦。先攻の壱夜さんは、孫を愛さなかったおばあちゃんの怪談でした。準決勝では、肉親の絆が強烈な、他人が介入できない狂気を孕んだ怪談を語っていましたが、決勝では一転して、家族の無償の愛が裏切られる、後味の悪いお話。ともさんが連れ子であったことが判明するくだりからの急降下は凄まじく、「愛情も血のつながりもなければ、他人である」ゆえに、唯一の肉親である最愛の息子を亡くしたおばあちゃんが拠り所を失くし、一家全滅の末路を辿った恐怖に慄いてしまいます。「くやしぃねえくやしぃねえ」の台詞や「トゥー」といった擬音など、語りのパフォーマンス面も魅力的な壱夜さんですが、家庭内の状況や苛立つ母親の様子といった家族の描写が、ものすごく簡潔で的確でもあります。人間と向き合い、愛憎や心の機敏を怪談として昇華できる壱夜さん。最恐戦ではベテランやビッグネームと対戦しつつも勝ち進み、準優勝となりました。全4話、準優勝に相応しい怪談を語られていたと、心から思います。カオスさん監修のDVDも楽しみですね。

下駄華緒

葬儀屋時代に体験した鬼気迫るエピソードで勝ち進んできた下駄さんは、自身の怪異原体験ともいうべき話を、最後の勝負、最恐戦最後の語りで披露していただきました。孫を愛していた、相思相愛の、下駄さんのおばあちゃん。このお話、下駄さんの実力であれば、15分よりも短い尺で存分に語り切れる怪談かとも思いますが、冒頭の思い出話が挿入されることにより、手を握って励ましていたはずのおばあちゃんが、実は取り憑かれていて危険だった……という、終盤のやりどころのない恐怖が倍増し、15分の怪談として、最初から最後まで釘付けになる怪談でした。送り人ミュージシャンとして、葬儀屋怪談をメインに語り勝ち上がってきた下駄さんですが、最後のこのお話では、葬儀屋ならではの怖さではなく、自分で祖母の葬式を上げることができたという、「この仕事をやってて良かったと思える」体験として語っていたのが素敵です。勝利を掴むに相応しいお話だったと思います。

怪談最恐戦2019開催日程
ファイナル(決勝戦):2020年1月18日(土) @ユーロライブ 開場18:00 開演18:30 開催終了しました。
東京予選会:2019年11月1日(金) @スペースY 開場18:00 開演18:30 開催終了しました。
大阪予選会:2019年11月3日(日) @ロフトプラスワンウエスト 開場17:30 開演18:30 開催終了しました。
怪談最恐戦ファイナル/ルール
(1)第1ステージは、本選出場者12名をA〜Dまで4ブロック3名ずつ)に分け、各ブロックの勝者1名ずつが第2ステージに上がる。
(2)第2ステージはトーナメントで、第1ステージのAブロックの勝者とBブロックの勝者、Cブロックの勝者とDブロックの勝者が対決する。 各勝者が第3ステージに上がる。
(3)第3ステージは1対1の対決で、勝者が優勝。 第3ステージに関しては、先攻後攻に関して、その場でくじ引きで決定。
(4)第1ステージの制限時間は5分。 第2ステージの制限時間は7分。 第3ステージの制限時間は15分とする。
(5)審査員などの得票の満点は6ポイント。内訳は後日発表。 制限時間を超えた場合は減点。 得点が同点で割れた場合は、最終的には竹書房・溝尻審査委員長が決定。
(6)制限時間を1秒を過ぎるとマイナス0.1ポイント。11秒を過ぎるとマイナス0.2ポイント。 以降10秒ごとに0.1ポイントづつ減点される。 制限時間内であれば短い分には減点対象ではないが、出来るだけ時間をフルに使い、そのボリュームに合った話でお客様を魅了すること。
(7)話の内容のレギュレーションに関しては予選会に準ずる。
お問い合わせ先 kaidan_saikyosen@takeshobo.co.jp