【日々怪談】2021年8月15日の怖い話~さすっ手

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【今日は何の日?】8月15日: 親に会いにいこうの日

さすっ手

 帰省したとき、農家の寄り合いに呼ばれた。
 浴びるほど焼酎を飲まされた。
「若いンだから! もっと飲みなせ!」
「若いンだから! もっと喰いなせ!」
 饗応はとことん、というのは田舎のもてなしの典型なのだろう。
 満面の笑みとともに重ねさせられる盃は、そうそう断れるものではなかった。
 もっと飲む! という親父を残し、健一は一足先に引きあげることにした。
「ケンちゃ、一人で帰れるけ。畦道、暗ぇぜ」
 善意の酒責めから逃げるにはこれしかない。
 健一は〈でぇじょぶだ。もう腹いっぺえだ〉と無理矢理笑ってみせた。
 そこから田んぼ二枚分も歩いたところで、猛烈に気分が悪くなってきた。
 こみ上げてくる酸っぱいものに耐えきれなくなった健一は、畦道に屈んで吐いた。
 食べた煮染めが、ほとんどそのまんまの形で出てくる。
 涙と鼻水を垂らしながらゲーゲー吐いた。
 途中、背中をさすられてさらに吐いた。
 さすってもらったおかげでずいぶん楽になったので、口の周りを拭って礼を言った。
「うぇーっぷ……ありがとうね」
 と、顔を上げたところで健一は気付いた。
 ――そういえば、一人で帰ってきたんだっけ。
 辺りには刈り入れの終わった田んぼが広がっているばかりで、人の姿はない。
「あれ? あれ?」
 周囲を見回す。
 と、白っぽい長い長い腕が、空から垂れ下がっているのが見えた。
 腕は、スルスルと巻き取られるように夜空の上の方に縮んでいくところだった。

――「さすっ手」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』より

#ヒビカイ # 親に会いにいこうの日

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