怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2024年6月結果発表

最恐賞
「猫柱の湯」花園メアリー
佳作
「猫のジャケット」影絵草子
「猫の法話」大和かたる
「ねこちゃ」御家時

最恐賞「猫柱の湯」花園メアリー

大学時代からの友人である彼は、年中出張で日本中をあちこち飛び回る仕事をしており、そのついでに各地の温泉に入ることを趣味にしていました。
その彼が福島県南部にある、古い温泉旅館を訪れたときの話です。
温泉街こそありませんが、四方を山に囲まれ、ゆったりと流れる川のそばに立つ温泉旅館は良い雰囲気で、入ると肌がピリピリするような泉質はいかにも効能が高そうでした。
夜中に入った大浴場にはほかに客がおらず、たっぷりとしたお湯をひとり占めして、大そう気分良く浸かっていたのですが、ふと指先が触れた浴槽の石タイルに、ザワっと毛のような感触がしてビクリとしました。
「ん?」と思って目を凝らしてみても、とくに変わった様子はありません。しかし、もう一度その場所をそっと触ってみると、やはり何か動物の毛皮でも撫でているような手触りが確かにするのです。
急に気持ちが悪くなって、すぐに風呂からあがり、明るい電気のついている部屋へと急いで戻りました。
翌朝、朝食を運んできた中居さんに、「気のせいだとは思うけど」と前置きをして、昨夜の話をしてみました。すると彼女は「それは猫柱さまでねえだが」と困ったように言いました。
「猫柱さま?」
「昔、この辺りでは、大ぎな土木工事するどぎ、人柱を立でる代わりに、生ぎだ猫を埋めてたんです」
「それじゃあ、ここの温泉を掘るときにも?」
仲居さんはあいまいにうなずきました。
「そのせいがどうがは、わがらねえげんとも、お湯の中で猫の背中を撫でだづーお客さんは結構いんです」
「撫でると何か……祟りとか、悪いことが起きたりはしないのかな」ゾッとしながら尋ねた彼に、中居さんは目をそらしながら言いました。
「もぢろん、ねぇです……」
お湯の中で触れたザラリとした毛の気持ち悪さが忘れられず、彼は温泉巡りをそれ以来ピタリとやめてしまいました。

総評コメント

今回のお題は「猫に纏わる怖い話」。猫は猫又など妖怪もおりますし、怪談とは馴染みの深い存在であると思います。かなりの数のご投稿をいただきました。投稿数が多いと類話や傾向など面白いデータが浮かんできますが、まず猫の恩返し的な良い話と猫が祟る系の悪い話の割合はなかなか拮抗していまして、思いのほか心温まる話が多かった印象です。類話傾向としましては、「猫が人の言葉を話す」「当人は猫と思っているが、本当はどうかはわからないモノ」「怪異と関連があると思しき猫の死体があった」「猫を虐待していた者に猫が祟る」の4つが抜きんでており、同じ体験をしている人が多いことは信憑性、説得力を感じるものでもありました。猫の名前は「タマ」「シロ」「クロ」が最多、一般的に不吉とされる黒猫よりも白猫、白猫よりさらに三毛猫が怪異に絡む率が高かったのも面白かったです。

最恐賞は「猫柱の湯」花園メアリー。怪談マンスリーコンテストでは、ですます調の作品は推奨しておりませんが、怪異の面白さ、珍しさで印象に残るものがあり、含みをもたせる最後のセリフも、怪談としてもう一段ざわりとするオチになっており良かったと思います。

佳作1作目「猫のジャケット」影絵草子はかなり短い怪談ですが、一族の因習を扱った業の深さを感じられる内容で、その不気味さを評価いたしました。2作目「猫の法話」大和かたるは聞き書き怪談ながら民話的で人情味も感じられる内容。怖さはありませんが、怪談の心地よさが伝わるお話でありました。3作目「ねこちゃ」御家時は佳作の中ではいちばん日常的な風景の中で起きる怪異で、それゆえの怖さが魅力的な作品でした。

猫と言えば泣き声で、にゃあ、にゃお、ニィ、ナァ、みゃあ、みゃお、等がすぐ思い浮かぶところですが、わりと皆さんストレートに「にゃーん」系を採用されていて、オリジナリティのあるオノマトぺを発見できなかったのが少々残念でした。いかに個性的かつ、確かにそう聞こえるよねという音の言語化をできるかどうかで、印象の残り具合が違ってきますので、ここぞという時は勝負してみていただけると嬉しいです。

引き続き7月「祭り」のお題のご応募もお待ちしております。

●最終選考対象7作
「猫の法話」大和かたる
「タマの仕返し」おがぴー
「歩くモノ」筆者
「応報」天堂朱雀
「猫柱の湯」花園メアリー
「さばねこ」瑞雲閣華千代
「妙薬」千稀
「ねこちゃ」御家時
「落ちてくる」銀杏梨子
「猫のジャケット」影絵草子

●二次選考通過12作
「帰ってきた愛猫」あんのくるみ
「タマ」秋司
「お別れの顔」soo
「猫の法話」大和かたる
「火車」雨森れに
「タマの仕返し」おがぴー
「しゃべる猫」月の砂漠
「妹」薊 桜蓮
「地域猫のマル」鬼志 仁
「猫の意趣返し」L・美炎徒
「鼠の頭」夕暮怪雨
「逢いに来る」沫
「歩くモノ」筆者
「応報」天堂朱雀
「満月の夜に」高崎十八番
「猫柱の湯」花園メアリー
「さばねこ」瑞雲閣華千代
「妙薬」千稀
「お告げ」唎酒師のカズ
「予言」浦宮キヨ
「ねこちゃ」御家時
「落ちてくる」銀杏梨子
「猫のジャケット」影絵草子

●一次選考通過
「名のない猫」夕暮怪雨
「帰ってきた愛猫」あんのくるみ
「ばか猫来訪」さくさく
「タマ」秋司
「お別れの顔」soo
「猫の法話」大和かたる
「最後の煌めき」おがぴー
「火車」雨森れに
「父の大好物」夕暮怪雨
「タマの仕返し」おがぴー
「しゃべる猫」月の砂漠
「妹」薊 桜蓮
「地域猫のマル」鬼志 仁
「位牌を拾ってきた猫」藤野夏楓
「猫の意趣返し」L・美炎徒
「鼠の頭」夕暮怪雨
「逢いに来る」沫
「歩くモノ」筆者
「応報」天堂朱雀
「ありがた迷惑」天堂朱雀
「罪滅ぼし」六月
「申し送り」望月環
「満月の夜に」高崎十八番
「猫柱の湯」花園メアリー
「さばねこ」瑞雲閣華千代
「妙薬」千稀
「猫が鳴く」墓場少年
「雲のさよなら」乙日
「開けろ」ひるなか
「お告げ」唎酒師のカズ
「予言」浦宮キヨ
「ねこちゃ」御家時
「猫のいる旅館」碧絃
「落ちてくる」銀杏梨子
「猫のジャケット」影絵草子
「猫と鼠」影絵草子

現在募集中のコンテスト

【第73回・募集概要】
お題:祭りに纏わる怖い話

締切 2024年07月31日24時
結果発表 2024年08月15日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。 応募フォーム

お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp

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毎月のお題にそった怖~い実話怪談お待ちしております!

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※受賞された方には、ご記載いただいたメールアドレスへ後日個別にご連絡させていただきます。
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