怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2021年5月結果発表

最恐賞
「屑福さん」墓場少年
佳作
「煙糸」影絵草子
「鏡の中のパクパク」丸太町 小川
「樫沢さん」ぺぺいけ

「屑福さん」墓場少年

 愛媛県に住む僕が、中学生の頃に友人のK君から聞いた話。
 風習ではないが、唯一無二の奇妙な慣習だと思う。

「物を粗末に扱ったら屑福さんに怒られるぞ」が口癖だったK君の祖母は、何やらよくわからない信仰を持っていた。神様の名は屑福神。
 八百万の神の一つかもしれないが、大人になった今検索サイトで調べても一切引っかからない。家族を含め他の誰からも聞いた事がないと言っていたので、あらゆる物には魂が宿るとする神道の概念を独自に解釈したものなのかもしれない。

 K君が9才の時、祖父が亡くなった。通夜の準備を手伝っていたK君は、ふと気になって祖母に不謹慎な質問をしてしまった。
「婆ちゃん、何にでも魂って宿るんだよね」
「そうやで」
「じゃあ、死んだ人には?」
「爺さんの体は今空っぽよ。だから他のもんが入って来んように、明日の葬式まで見張っておかんとな。その為のお通夜じゃ」
「他のもんって?」
「例えば…屑福さんとかな」
 K君は驚いた。屑福というのは良い存在だと思っていたからだ。
「屑福さんが入ったら、どうなるの?」
「そりゃもう大ごとよ。不用意に火葬なんかしたら、どえらい祟りがあるかもしれん。お家が断絶するくらいの」
 小学生に断絶の意味はわからなかったが、良くない事なのはわかった。
 その後、祖母は通夜の準備が整った祖父の周囲に紙で作った形代を何枚も並べた。父母は怪訝な顔をしていたが、それで祖母の気が済むのならと放っておいた。

 翌日、葬儀は滞りなく行われ、無事に祖父は火葬された。
 火葬場から帰る車中、K君は祖母に言った。
「屑福さん来なかったね」
「いや、来たで」
「え、いつ?」
 祖母はすまなそうな顔でこちらを見た。
「明け方にな、閉め切った部屋の形代が全部吹き飛んだ。
ぺらぺらの紙じゃあ騙されてくれんかったわ。
咄嗟におまえの部屋のおもちゃ箱を取ってきてな、引っくり返して爺さんの周りに並べたんよ。その一つを気に入ったみたいで、何とか事なきを得たわ。
お坊さんに事情を話して玩具は持ち帰ってもらった。
ほら、おまえの好きな何とかライダーの人形。
あれ、朝まで動いてたで。爺さんの周りを歩き回っとった。
新しいの買ってやるから勘弁してや?」

 大好きなライダー人形だが、動力源無しに自立歩行する姿など絶対に見たくなかった。
 結局、後にも先にも屑福という名も慣習も聞く事はなかったが、地域ごとに違った形で日本中に存在するのかもしれない。

総評コメント

今月は奇妙な風習に纏わる怖い話。難しいお題だったようで、いつもより若干応募数が少ない結果となりました。ただ、ひとつひとつは大変興味深く、土着の祭事に纏わる話などご当地怪談に入れたい作品も多数ございました。
最恐賞は墓場少年「屑福さん」。耳慣れぬ神様の名前と、葬儀時の独特の風習に纏わる話。細部のしっかりした内容にリアリティを感じるとともに、得体のしれない恐ろしさを感じました。
佳作1作目は影絵草子「煙糸」。集落一の富豪の家に伝わっていると思しき儀式。豊かさの影にある闇を見たような、怪談らしい作品が評価されました。2作目は丸太町小川「鏡の中のパクパク」。こちらはある地方の風習とタブーに纏わる話。少女期の恐ろしい記憶から、大人になってから直面した怪奇との奇妙な符合。2段構えの構成が面白かったと思います。3作目はぺぺいけ「樫沢さん」。こちらは地方や血族といった括りとはまるで違う、あるマンションの住民たちの間で共有されてお題を出させていただくかと思いますが、必ず霊的な事象、科学や理屈では説明のつかない不可解な現象、いる風習という、一風変わった趣の話。謎は明確には解明されませんが、奇妙なこと、狂気じみたことが身の回りの日常で繰り広げられている不気味さが刺さりました。
今回、様々な地方の変わった風習を送っていただきましたが、怪談ではなく、紹介で終わっている作品がかなり見受けられました。こちらのお題の出し方も曖昧であったと反省しておりますが、あくまで実話怪談のお題としての奇妙な風習ですので、そこから何某か霊的なものであったり、怪奇的な現象が起こる話を募集しておりました。今後も、様々なお題を出させていただくと思いますが、必ず霊的な話や、科学や理屈では説明のつかぬ不可思議な現象に結び付く実話怪談ということで、ご応募のほどよろしくお願いいたします。
今月はテーマがテーマなので、地方の村、閉鎖社会の話が多かったのですが、そうした中で集落の誰か、或いは他所からその村に来た人間が死ぬ、忽然と消えるといった内容がよく見受けられました。怪奇現象としても怖いですし、隠蔽されていくことの恐ろしさもそれに加わってくるのですが、実話怪談としては比較的派手な展開になりますので、どこまで信憑性を持たせることができるかが鍵となってきます。とくに話の結びの印象は大切で、妙に物語っぽい語り口になってしまったり、死や失踪の理由についてのご自身の解釈を、恐らく~であろう、~であったに違いないと断定的に披露してしまったりすると、読者は強引に感じて興ざめになってしまうこともありますので要注意です。事実だけを淡々と記したほうが往々にして恐怖は増す場合が多いのです。
また子供の頃の記憶など、すべてが完全再現ドラマのように描かれている作品よりも、多少記憶のあやふやな部分はあっても、この1点だけは焼き付いてしまって離れないといった話のほうが真実味があります。その記憶にこびりついた1点だけを鮮やかに克明に再現(表現)するとぞくっとした何かが生まれてくるように思います。
その他、最終候補作品はこちら。本当に今月は甲乙付けがたい良作揃いでした。
「子返しの女」青葉入鹿
「犬の墓石」ふうらい牡丹
「なすび水」高倉樹
「田んぼのお札」soo
「霊屋の島」鬼志仁
「ミシャグジ様」雨森れに
「赤い糸」宇徳みなみ
「棺を回す」月の砂漠
「骨喰み」芳春
「民間療法」墓場少年
「仮宿」影絵草子

さて、次回6月は、怪談最恐戦【朗読部門】とのコラボ企画。朗読部門に応募される方の原作(朗読原稿)となる怪談を大募集いたします。
テーマは実話怪談であれば自由、字数制限は1500字まで、締切も普段より5日長い25日までとなります。
結果発表(一次選考通過作品)は、7月1日に当サイト及び怪談文庫公式Twitter、怪談最恐戦公式HPにて行います。
通過作品の作者様にはお好きな怪談文庫の新刊1冊をプレゼントいたします!
さらに、怪談最恐戦公式HPでは、一次選考通過20作品の全文を掲載いたしますので、朗読部門に応募される方はこれぞ!という作品をそこから選んで、朗読音声をご投稿ください。
※朗読部門の応募方法の詳細は、【怪談最恐戦公式HP】をご覧くださいませ。

最終的な結果発表は2021年9月5日、「怪談最恐戦ファイナル」イベント内で発表いたします。
グランプリ、準グランプリ、特別賞の各賞に輝いた作品は、朗読者と原作者両方に賞が授与されます。
また、最も多く朗読された原作作品に対する賞のほか、従来のマンスリーコンテストの最恐賞にあたる、朗読には関係なく純粋に作品原稿そのものを評価した怪談文庫賞も、もちろんございます。

詳しくは怪談NEWSの記事「【怪談最恐戦×怪談マンスリーコンテスト】怪談作家になろう!朗読原作コンテスト募集開始」をご覧くださいませ。

皆様のご参加、心よりお待ちしております!

現在募集中のコンテスト

【第36回・募集概要】
お題:怪談最恐戦【朗読部門】の原作怪談

原稿 1,500字以内の、未発表の実話怪談。
締切 2021年06月25日24時
結果発表 2021年07月01日
一次選考通過 20作
お好きな怪談文庫新刊1冊
※お一人で複数作品選ばれている場合は、作品数分の文庫プレゼント
最終結果5賞 各1名
グランプリ1万円、準グランプリ5,000円、特別賞5,000円、最多朗読賞3,000円、怪談文庫賞3,000円 ※すべてAmazonギフトにて進呈
応募方法 下記「応募フォーム」またはメールにて受け付けます。
フォーム内の項目「メールアドレス」「ペンネーム」「本名」「作品タイトル」 を記入の上、「作品本文(1,500字以内)」にて原稿ご応募ください。 応募フォーム
メールの場合は、件名に【怪談最恐戦マンスリーコンテスト6月応募作品】と入力。 本文に、「タイトル」「ペンネーム」「本名」「メールアドレス」を記入の上、原稿を直接貼り付けてご応募ください。 kowabana@takeshobo.co.jp

過去の結果発表

投稿はこちらから

プロアマ不問!ご自身の体験でも人から聞いた話でもかまいません。
毎月のお題にそった怖~い実話怪談お待ちしております!

※ご投稿いただいた個人情報は本コンテスト以外の目的で使用することはございません。
※受賞された方には、ご記載いただいたメールアドレスへ後日個別にご連絡させていただきます。
@takeshobo.co.jpからのメールを受け取れるようにご設定お願い致します。


This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.