マンスリーコンテスト 2020年1月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2020年1月結果発表

最恐賞
親孝行卯ちり
拒まれる井川林檎
佳作
「逆の二階」鈴木捧
「雪女、或いは濡れ女」かごさんぞう
「飲酒運転撲滅宣言の家」菊池菊千代

「親孝行」卯ちり

 都内で働く三十代の希さんは、実家の父親が入院したという連絡を受け、約三年ぶりに帰省した。
 父親は自宅の庭で雪かきをしていた際に転倒して頭を打ったらしい。幸い大事には至らなかったものの、希さんの両親は還暦を過ぎた年齢である。これまで両親共に健康だっただけに、父親の入院は不安極まりなく、希さんは有休を取り、東北の豪雪地帯に位置する実家へ帰ってきた。
「お盆や正月は親戚付き合いがあるので、多忙を理由に帰省を避けていたんですよ。この年齢で独身、しかも一人っ子の身だと、肩身が狭くて。実家には定期的に電話していましたし、わざわざ帰らなくてもいいやと、のんびり構えていただけに、入院は辛かったです」
 母親の家事を手伝いつつ、病院を往復し、父親の代わりに雪かきをする。やることだらけで疲れてしまい、夜は早々にベッドに入り、久しぶりに戻ってきた実家の二階の自室にて、希さんはぐっすり眠っていた。

 夜中に、部屋のドアノブをガチャリと回す音で目が覚めた。
 耳をすますと、階段を下りていく足音が聞こえたので、母親が部屋を覗きに来たものと思い、希さんは再び眠りについた。
 しかしその翌晩も、夜中にふたたびドアを開ける音がする。
「お母さん、どうかしたの? 」
 希さんが身体を起こしてみると、開けられたドアの隙間から、階段を降りていく赤いパジャマを着た子供の後ろ姿が目に入った。
(あっ)
 希さんはベッドから飛び起きて、その子供を追いながら一階へ下りる。
 一階のリビングにも台所にも子供の姿は見えなかったが、床の間には母親がひとり、布団を敷いて就寝している。
 その掛け布団がもぞもぞと動き、母親とは別の膨らみが布団に現れると、母親が寝返りを打つ。
 母親は寝相を変えながら、布団に入った何かを抱くように腕を回して自分に引き寄せて、気持ち良さそうな寝息を立てて、ふたたび眠り始めた。

 それを見て、希さんはぽろぽろと涙を零したという。
「赤いパジャマ、私が小さい頃に着ていたものだから……きっと、あの子供って、私なんですよ。昔、二階の部屋で寝るのが怖くて、しょっちゅう夜中に母親の布団に潜り込んでいましたから」

 父親の退院後も希さんは定期的に帰省するようになり、最近は介護や相続についても、両親と相談しながら良好な親子関係を築いているとのことである。

「拒まれる」井川林檎

 弟夫婦が両親と同居を始めて以来、年末年始は帰省しないことにした。
 大晦日、会社の寮はいよいよ寂しくなった。
 酒でも飲むかと思っていたら、インターホンが鳴った。同じ課のUさんだった。

「今夜は寮は、うちらだけだよー」
 Uさんはコンビニの袋からビールやらつまみを出して並べた。
「なんで帰らないの」と、わたしは言った。早くもビールを一缶空け、Uさんは酔っていた。

「帰る家がないの」
 Uさんは言った。

  **

 五年前、Uさんは田舎に帰省しようとした。けれど、できなかった。
「電車に乗って、故郷まで行こうとした。×駅で降りたら実家はすぐだから。でも」

 どういうわけか、電車が×駅で停まらない。

「最初は乗り間違えたかと思った。駅を行き過ぎたと判ったら、すぐ降車し、再度、×駅に向かう電車に乗った」

 だが、どの電車も×駅に停まらない。
 車掌を捕まえて、この電車は×駅に停まるはずでしょうと抗議してみたら、「さっき停車しましたよ」と答えらえたという。

 そんな馬鹿な、とUさんは憤慨した。
 Uさんは何度でも電車を降りては再び乗り、×駅で降りようと試みた。
 しかし、気づいた時には、もう電車は×駅を通過しているといった有様で、どうしても目的地にたどり着けなかったそうだ。
「まるで、故郷に拒まれているみたいだった」

 Uさんはついに別の駅で降り、そこで宿を求めた。
 実家に電話をしたが、なぜか誰も出ない。

 今日帰省するはずだったから心配しているだろうという焦りもあり、Uさんは電話をかけ続けた。
 真夜中の0時頃、電話にやっと人が出た。
「●町で泊まってる。明日はそっちに行くから」
 Uさんは言った。

「あ、U、分かったよ」
 電話に出たのは母親だった。

  **

「あくる朝、テレビをつけたら、ニュースで火事が報じられていた。木造二階建てが全焼、住人は皆、連絡がつかないと」

 Uさんはビールを飲みほした。酔った目は妙に冷静だった。

「わたしの家だったの、それ」

  **

 もしあの日、×駅で降車し、実家に帰省していたら、Uさんも火災に巻き込まれていた。

「それにしても電話に母が出てくれた時刻、うちは燃え盛っている最中だったはずなんだよね」

 突然のUさんの打ち明け話に、どう反応したら良いか、わたしは戸惑った。
 除夜の鐘が、ごうんと厳かに鳴り響いた。

総評コメント

 明けましておめでとうございます。令和二年最初のコンテストのお題は「帰省」。実際に、年末年始帰省された方も多かったことと思います。ちょうどそこで聞いた話なんです……と、鮮度の高いお話を送ってくださった方も数名いらっしゃいました。
 全体としては、お題から受ける印象の通り、ノスタルジックでどこかセンチメンタルな怪談が多く寄せられました。また、各地方地方の特色、風習、その土地の心霊スポットなど具体性のある怪談もあり、興味深いコンテストとなりました。
 最恐賞は毎年恒例のお年玉ということで、本年も2作を選ばせて頂きました。1作目は、長らく帰っていなかった実家で見た時空を超えたもの「親孝行」。もう1作は、なぜか実家に帰れないという怪奇現象の裏にあった親の愛「拒まれる」。どちらも、体験者の心の機微が丁寧に描かれていた点が評価されました。怪異の元にあるのは、いつでも心です。強い念であったり、潜在意識であったり、目に目えぬ「想い」が常識ではあり得ない怪を生む……その不思議さに我々は魅せられ、畏怖するのだと思います。怪談の主役は霊や妖怪、怪現象であると同時に、やはり人なのです。そこをとらえた作品があまたの応募作の中でひとつ抜けて、最後まで印象に残るのだと思います。
 佳作も今回は力作揃いです。「逆の二階」は実家の二階の間取りが逆になるという異空間で体験したメロウな怪奇現象、「雪女、或いは濡れ女」は青森県の特異な雪女伝承に纏わる怪異体験で、実話怪談として非常に興味深い内容でした。最後の1作、「飲酒運転撲滅宣言の家」は唯一のサイコホラー作品で、ぞくりとくるラストが強烈な印象を残しました。
 その他最終選考には、相沢泉見「ムロイのおじちゃん」、雪鳴月彦「深夜の声」、井川林檎「どんどん回す」、佐川真澄「迷信」、ムーンハイツ「離島の夜」、ミケとーちゃん「精霊馬」、緒方あきら「首無し地蔵」の7作。
 今回も語り手が死者であるオチなど創作作品が散見されましたが、怪談マンスリーコンテストは「実話怪談」のコンテストですので、今後もその点を守っていただきますよう重ねてお願い申しあげます。また、テーマの捉え方ですが、無理やりこじつけたり、形だけ舞台を帰省先にしてみるなど、力技で持ちネタを合わせてきている印象の作品も多々ありました。もちろん一概にそれがアウトとは申しません。それもひとつの技で、話自体が面白ければ(怖ければ)当然候補に残ってきます。ただ、やはり10話、5話と絞られていくうちに、本来求めていたテーマ、そのテーマのもとで読みたいと想定していた話にドンピシャな作品があると、それに比べて印象は弱まってきてしまいます。なるべくテーマという的の真中を射るような作品を応募していただけると、受賞に近くなると思います。もっともちょうどよいネタが掴めるかどうかは運次第、というのが実話怪談というものです。日々様々なジャンルのネタを集め、ふさわしいお題が来たときに満を持してその抽斗を開けてくだされば幸いです。
 さて、来月のお題は「食べ物に纏わる怖い話」。これはなかなか広いテーマかと思いますので、皆さんにチャンスがあるのではないでしょうか。怖くて不思議な食べ物のお話、お待ちしております!
 最後にひとつお知らせです。今年も「怪談最恐戦2019 総集編」の文庫発売が3月に決定いたしました。昨年のマンスリーコンテストで最恐賞に輝いた各月の作品が収録されます(受賞者の方には追ってご連絡さしあげますのでお待ちくださいませ)。怪談マンスリーコンテストは、ご自身の作品が本になるチャンスです。これからも奮ってご応募くださいませ! 編集部一同皆様の力作をお待ちしております。

現在募集中のコンテスト

【第30回・募集概要】
お題:樹海に纏わる怖い話

原稿 1,000字以内の、未発表の実話怪談。
締切 2020年10月20日24時
結果発表 2020年10月29日
☆最恐賞 1名
Amazonギフト3000円を贈呈。
※後日、文庫化のチャンスあり。
佳作 3名
ご希望の弊社恐怖文庫1冊、贈呈。
応募方法 下記「応募フォーム」またはメールにて受け付けます。
フォーム内の項目「メールアドレス」「ペンネーム」「本名」「作品タイトル」 を記入の上、「作品本文(1,000字以内)」にて原稿ご応募ください。 応募フォーム
メールの場合は、件名に【怪談最恐戦マンスリーコンテスト10月応募作品】と入力。 本文に、「タイトル」「ペンネーム」「本名」「メールアドレス」を記入の上、原稿を直接貼り付けてご応募ください。 kowabana@takeshobo.co.jp