マンスリーコンテスト 2024年5月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2024年5月結果発表

最恐賞
「数え(かぞえ)」御家時
佳作
「末広がり」夕暮怪雨
「10秒後に来たるもの」天堂 朱雀
「納骨式の日」碧絃

最恐賞「数え(かぞえ)」御家時

北関東のある山村では「霧のかかった〇〇山に入ってはならない」という言い伝えがあった。
山の神か物の怪か、「数え(かぞえ)」という怪異が出るからだ。
その風貌は遭遇した者によって異なるが、皆口を揃えて、それは物音も気配もなく突然現れ「数えたまへ」と語り掛けてくると言う。
言われた通りに何かを数えると、その数えた物がひとつ無くなる。
猟銃の弾を数えると一発、山で採った木の実を数えると一粒、そして呆気に取られているうちに、その姿は跡形もなく消えている。
では、問いを無視して何も数えなければ、もしくは数えられるものを持っていなければどうなるか――たったひとつの命を取られると恐れられていた。

ある時、その村に住む権助という博打好きの若者が仲間と賭けをした。
いわく「数え」から何も取られずに山を降りてみせると言う。
あくる日、彼は身を改めさせた後、皆の前で五つの賽子を右手に乗せ、それを握りしめると、一人、霧がかかった〇〇山へと入っていった。
権助が山に入り、しばらくすると、突如、行く先にみすぼらしい格好をした老婆が現れた。
突然のことに言葉に詰まる権助に、老婆は「数えたまへ」としゃがれた声で言う。
ごくり、と唾を飲み込みながら、権助は右手を開き、持ってきた賽子を「ひとつ、ふたつ、みっつ……」と数えた。すると村を出てから一度も手を開いていないのに、賽子は確かに四つしかなかった。
背筋に冷たい汗が伝うのを感じつつ、賽子から目を離すと老婆は霧に溶けたかのようにいなくなっていた。
ほっと、息をついて下山すると、権助はその最中、口内に隠していた賽子をこっそり手の内に忍び込ませた。
これで賭けは俺の勝ちだと意気揚々と彼は村に戻った。

村人らに囲まれる中、権助は勝ち誇った顔で賽子を握りしめていた右手を開いた。

その瞬間、村人たちは悲鳴を上げた。
権助の手には確かに賽子が五つ乗っていたが、彼の右手からはあるはずの親指が跡形もなく消えていた。
一瞬、遅れて権助も四本指になっている自身の手を見て「ひいっ」と悲鳴を上げた。
不思議なことに親指が消えた痛みや感覚は微塵もなく、切り取られたような跡すらなく、まるで生まれた時からなかったかのようだったという。

その後、権助は「数え」の怒りに触れたとして村人らから忌避され、また親指が欠けた状態では仕事もままならず、いつの間にか村から姿を消したという。

※ラジオ朗読の際、○○山を単純に山と読ませていただきましたことをご了承ください。

総評コメント

今回のお題は「数字に纏わる怖い話」。かなり難しいテーマだったようで、応募作も通常よりやや少なめでした。
また、数字と言うテーマにドンピシャである作品も相対的に少なく、他のお題でも出せる作品に数字が出てくるかな、というぐらいの絡み具合である場合も多かったように見受けられます。しかしながら、テーマに合わせようという心意気や、ある意味、強引に合わせてくる力業はコンテストでは大事なことなので、臆せずご応募いただきたいと思います。
最恐賞は民話的な味わいの怪異譚「数え(かぞえ)」御家時。山怪談の恐ろしさと民話的なほの暗さがマッチした怪談であったと思います。
佳作1作目は「末広がり」夕暮怪雨。八という数字に異常な執着を見せる一家の怪談で、謎めいた怖さがありました。不気味な描写、解明のできぬ怪異の取り扱い方が巧みでした。
2作目は「10秒後に来たるもの」天堂朱雀。怪異なのか妄想なのか、虐待される兄弟の体験した恐怖と秘密感、ダークファンタジーのような怪異談の中に漂う静謐さが印象に残りました。
3作目は「納骨式の日」碧絃。骨壺に書かれた数字の由来という一瞬で引き込まれる題材と、思いがけない幕引きのアンバランスさが実話怪談らしく、興味深く読ませていただきました。
今回のテーマはどうしても「謎解き」に走ってしまう怪談が多かったのが全体の印象でした。もちろん、それがあっての怪談であった作品もたくさんあります。しかし、読者に想像させる余地を残さず、推論、推測を述べることに字数の三分の一ぐらい使ってしまっている作品もあり、それは実話怪談とは違う怪談考察になっているように思います。怪談は、あったること、起きた怪異をそのまま紹介して、恐いな、不思議だなと腹の底から思わせていただければよいので、その意味や原因を自分なりに解釈して披露するのは怪談とは違う論考のジャンルに入ってきてしまうと思います。例えば、最恐賞の作品でいえば、5つあったはずの賽子が4つになり、こっそり口の中に隠していた賽子を足して5つに戻したら、親指が消えたということに対して、なぜそうなったのか自分の推論を述べる必要はないということです。「数え」の怒りに触れたというのは村人の考えでありそれはいいのですが、「思うにこれは、山の神の存在を否定した行為に対して、神罰が下り、親指をとられたのだろう」であるとか、そのような書き手の推論は不要ということです。読者が読者なりに何かを察せるように書けばそれでいいのです。
そのあたりを心にとめて、「怪の考察」ではなく「怪談そのもの」をご執筆いただけましたら幸いです。
引き続き6月「猫」のお題のご応募もお待ちしております。

●最終選考対象7作
「際の決断」千稀
「末広がり」夕暮怪雨
「10秒後に来たるもの」天堂 朱雀
「ちのつく日」黒川錠
「二十を越えず」筆者
「十になったら」雪鳴月彦
「納骨式の日」碧絃
「数え(かぞえ)」御家時

●二次選考通過12作
「ガラケーの声」小祝うづく
「12789」おがぴー
「棚卸し」ホームタウン
「際の決断」千稀
「1と8と そしてゼロ」沫
「末広がり」夕暮怪雨
「赤い数字」中村朔
「10秒後に来たるもの」天堂 朱雀
「5.5階に住む者」L・美炎徒
「ちのつく日」黒川錠
「二十を越えず」筆者
「深夜ラジオ」ぶしこ
「齢(よわい)の痣」影絵草子
「元日女とモテない先輩」宿屋ヒルベルト
「五秒のレッドライト」緒方さそり
「十になったら」雪鳴月彦
「納骨式の日」碧絃
「数え(かぞえ)」御家時

●一次選考通過
「ガラケーの声」小祝うづく
「12789」おがぴー
「棚卸し」ホームタウン
「際の決断」千稀
「模写」千稀
「六階」沫
「1と8と そしてゼロ」沫
「末広がり」夕暮怪雨
「赤い数字」中村朔
「10秒後に来たるもの」天堂 朱雀
「ほら!」釜揚げウド
「5.5階に住む者」L・美炎徒
「ちのつく日」黒川錠
「鍵」黒川錠
「二十を越えず」筆者
「深夜ラジオ」ぶしこ
「でたらめな九九」ユカ
「今年ももうすぐ」月の砂漠
「まだ、居る。」那雪 想
「餐」のっぺらぼう
「齢(よわい)の痣」影絵草子
「元日女とモテない先輩」宿屋ヒルベルト
「五秒のレッドライト」緒方さそり
「十になったら」雪鳴月彦
「納骨式の日」碧絃
「数え(かぞえ)」御家時
「3の復讐」ZZ・倶舎那

現在募集中のコンテスト

【第73回・募集概要】
お題:祭りに纏わる怖い話

締切 2024年07月31日24時
結果発表 2024年08月15日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。 応募フォーム

お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp