マンスリーコンテスト 2018年4月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2018年4月結果発表

最恐賞
ぼんじょのぬくろ鳴崎朝寝
佳作
「Sちゃんのママ」三石メガネ
「落雁」春南灯
「うちに来た人形のこと」なぬく

「ぼんじょのぬくろ」鳴崎朝寝

 友人のE子さんが小学生の頃、家に帰ると汚れた布袋のようなものが転がっていた。綺麗好きの祖母がいたので、そんな物が床に転がっていること自体、珍しかった。
 頭の大きなてるてる坊主のようなものに、ごく雑にマジックで目鼻が描かれている。人形なのだと――それも、玩具というよりは誰かのお土産か何かだろうなと思った。

『アハハハ!!』

 手に取ると突然それから笑い声がして、E子さんは身を竦めた。
 機械を通したような甲高い声だった。ただ、持った感じ、中は何かぶよぶよとしたものが入っているようだ。
 触ると、何か音が出る仕組みなのかもしれない。

 家には誰もいなかった。
 両親は働きに出ているし、祖母は入院している祖父のところへ行っている時間だ。ひとつ上の姉はまだ帰ってきていない。

『ハハハハッ!!』

 持っているだけなのに、また笑う。じわりと持っていた手が濡れる感触があった。
 そのとき、姉が帰ってきた。同じクラスのYちゃんも後ろにいる。

「ただいまー」

 暢気にそう言った姉は、玄関を入ってすぐの廊下に座り込んでいるE子さんを見るなり、唐突に怒鳴り声をあげた。

「ちょっとあんた、何してんの!!」

 それに、ひぃ、というYちゃんの奇妙な悲鳴が重なる。
 二人の反応に驚いたE子さんの手元で人形が笑った。

『ギャッハハハ!!』

 E子さんに駆け寄った姉は、物凄い勢いで彼女の手からそれを叩き落とした。
 同時に声がやみ、家の中がしんと静まる。
 人形から声がした。

「邪魔すんな、ぼんじょのぬくろが」

 低くて抑揚のない、聞き覚えのない男の声だった。
 後半の言葉の意味はわからないが、どこかの方言のように聞こえたという。
 目をやると、先程までの出鱈目に描かれた顔ではなく、布の中から浮き出たような白い顔が姉を睨んでいた。
 姉は気が強い性格だったそうで、それを乱暴に蹴るとE子さんの腕を引いて外に出た。

 ドアが閉まると同時に三人はわんわん泣き、それに気づいた隣家のおばさんが保護してくれた。
 E子さんが「濡れた」と思った手は、泥水のようなもので茶色く汚れていた。姉は最初それを血だと思ったらしく、それでE子さんを怒鳴りつけ、駆け寄ってきたのだと言う。

 家族が帰ってきて、すべて片付けられた後にE子さんたちは中に戻ったが、その人形については家族の誰も心当たりはなかったそうだ。話は半ばタブー的になり、親は未だに中身について教えてくれない。

 一度きりの出来事だという。

総評コメント

 第1回のお題は、怪談の王道というべき「人形」。中には実話としてのリアリティに欠けるものもありましたが、実に様々な作品が寄せられました。最恐賞の「ぼんじょのぬくろ」は得体の知れぬ不気味さと、怪異は怪異として答えのないところに実話の面白み、本質があったと思います。佳作「Sちゃんのママ」は一定の因果を予感しながらも、最後までは踏み込めなかった体験者の心境がよく伝わり、そこに怖さが感じられました。「落雁」は寺に伝わる人形の怪が静謐な文章で綴られ、どこか物悲しい読後感が印象に残りました。「うちに来た人形のこと」は軽妙な語り口が面白く、起きた怪事(不幸)をある意味クールに見つめる体験者の視線が良かったと思います。第2回もこれまでにない実話を期待しております。

現在募集中のコンテスト

【第70回・募集概要】
お題:草木に纏わる実話怪談

締切 2024年04月30日24時
結果発表 2024年05月15日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。 応募フォーム

お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp

現在募集中のコンテスト

【第70回・募集概要】
お題:草木に纏わる実話怪談

締切 2024年04月30日24時
結果発表 2024年05月15日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。 応募フォーム

お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp