マンスリーコンテスト 2021年7月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2021年7月結果発表

最恐賞
「小屋の中」月の砂漠
佳作
「札付きの恋」影絵草子
「少女食らう神」雨森れに
「裏山のひと」高倉樹
「フィルムケースの友情」緒音百

「小屋の中」月の砂漠

 Jさんという四十代の男性から聞いた話だ。
Jさんは小学生の頃、E君という同級生の家へよく遊びに行っていた。
 E君は町の地主の一人息子だった。趣味の野球をきっかけに親しくなり、家に招かれるようになったのだ。
 E君の家は近隣で一番大きく、お屋敷と呼ぶのにふさわしかった。庭も広く、Jさんたちはそこでキャッチボールを楽しんだ。

 その庭に、一件のプレハブ小屋が建っていた。
 E君は「いらなくなったものを置いてあるだけの単なる物置小屋」と言っていたが、Jさんは何となく気になった。家屋の豪華さと比べて、その小屋はいかにもみすぼらしく、屋敷の中で明らかに浮いていたのだ。

 ある時、Jさんはこっそり、小屋の窓から中を覗いてみた。黒いカーテンが引かれており、中の様子は伺えなかった。
そこをE君に見つかり、Jさんは怒鳴られた。
「やめろ、見るな! 小屋に近付くな!」
 E君のあまりの剣幕にJさんは戸惑った。E君がこんなに怒るのを初めて見たのだ。
 素直に謝りその場は収まったが、小屋の中を覗きたいという好奇心は、むしろ高まった。

 それから数日後のこと。E君の屋敷の庭で、いつものようにキャッチボールをしていた時だ。
E君は爪が割れてしまい、治療のため一人で屋敷の中に戻った。
 今が好機と思ったJさんは、小屋に足を向けた。ダメ元で窓を開けてみる。意外なことに鍵はかかっておらず、ギシギシと音を立てながら開いた。
 はやる気持ちを抑えながら、黒いカーテンをずらす。わずかな隙間から中を覗いた。
 そこには、E君が立っていた。
 Jさんは混乱した。E君は屋敷に戻ったはずで、小屋の中にいるはずがない。
 E君は無表情で、ガラス玉のような目をJさんに向けていた。
ふいに、E君のくちびるがかすかに動き、何か言葉を発しようとした。Jさんはなぜか、それを聞いてはいけない気がして、あわてて窓を閉めた。
 やがて屋敷の方からE君が戻って来た。Jさんは素知らぬ顔で迎えた。

 それ以降も今に至るまで、JさんとE君の交流は続いている。あの小屋も、E君の屋敷の庭にまだある。
だが、Jさんはあれから一度も、小屋の中を覗いていない。
「友だちが嫌がっていることをするのは、やっぱり良くないですから」
とJさんは苦笑いする。
 それでも、Jさんは時々「いらなくなったものを置いてあるだけ」というE君の言葉と共に、あの日見た小屋の中のE君を、思い出してしまうという。

総評コメント

今回は良作多く、佳作4名となりました。総評は後日追記いたします。

〈最終選考〉
「飛ぶ女」ツカサ
「札付きの恋」影絵草子
「もんちゃん」墓場少年
「小屋の中」月の砂漠
「秘密の質問」水曜
「噤む」天堂朱雀
「少女食らう神」雨森れに
「裏山のひと」高倉樹
「卵」あんのくるみ
「フィルムケースの友情」緒音 百

〈一次選考通>
「かもしれない」中野前後
「じっか」影絵草子
「飛ぶ女」ツカサ
「赤子の腹部の黒いモヤ」いまいまり
「札付きの恋」影絵草子
「もんちゃん」墓場少年
「送らないでください」中野前後
「うせもの屋」影絵草子
「悪鬼の匂い」雨森れに
「小屋の中」月の砂漠
「秘密の質問」水曜
「許す理由」天堂朱雀
「噤む」天堂朱雀
「二十歳の誕生日」安田鏡児
「少女食らう神」雨森れに
「猫の忠告」水道橋御堂
「裏山のひと」高倉樹
「卵」あんのくるみ
「○に丼」緒音 百
「フィルムケースの友情」緒音 百
「鬼」あんのくるみ

※投稿日時順

さて、次回8月の応募は本日よりスタート!お題は「スポーツ、運動」に纏わる怖い話。学生時代の部活のこと、運動会の奇妙な思い出、運動部の寮や合宿中の恐怖体験、スポーツ観戦中に起きた怪奇事件、日々のランニングやウォーキング中に遭遇する怪などなど。

皆様のご参加、心よりお待ちしております!

現在募集中のコンテスト

【第76回・募集概要】
お題:運動会・体育祭に纏わる怖い話

締切 2024年10月31日24時
結果発表 2024年11月15日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム

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