マンスリーコンテスト 2021年4月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2021年4月結果発表

最恐賞
黒漆喰の土蔵鬼志 仁
佳作
「今そこにある呪詛」丸太町 小川
「神棚」鳥谷綾斗
「ぴい君」緒音 百

「黒漆喰の土蔵」鬼志 仁

 友人のK実家のそばには、M寺という古いお寺があるという。
「本堂の裏手に黒漆喰の小さな土蔵があってね。小さい頃から絶対に近づくなと和尚さんに言われていたんだ」
 土蔵は大人が十人ぐらい入れるぐらいの大きさで、北側に入口があった。周囲をしめ縄で囲っていて、立ち入り禁止の立て札がいくつも立てられていたという。
 ある夜、Kは兄に誘われて、肝試しにその黒漆喰の土蔵に向かった。そこで一生忘れられない光景に出くわした。
「土蔵の周り、あのしめ縄の内側だけが白い靄に覆われていてね。とてもこの世のものじゃいないと思った」
 家に戻ると二人は父親に「二度と近づくな。お前たちだけの問題じゃないんだ!」と、こっぴどく叱られた。
 数か月後、夜中にかなり大きな地震が発生した。Kの父親は家を飛び出して、寺へ向かった。徒ならぬ様子だったので、Kが後を追うと、土蔵の前に和尚やKの父親の他、近所の男たちが集まっていた。
 和尚が土蔵の扉を開けると、白い煙のようなものが流れて来たという。
「中を覗くと、黒い棺が棺台から落ちて床にひっくり返っていた。蓋が外れていて、白い細い足が見えていた。たぶん若い女だったと思う」
 床には遺体の腐敗を防ぐためのドライアイスが散らばっていた。あの靄の正体は気化したドライアイスだったのだ。
「お寺だからご遺体があってもおかしくないんだけど、それにしては大人たちの雰囲気が物々しかったんだ」
 大人たちは何も教えてくれなかった。だが、土蔵の噂話はKの通う学校内に広まり、やがて彼の耳にも届いた。
 「あそこ、呪い殺された遺体を置いているって」
 そんな遺体は、ちゃんと呪いを解かないと、関わった者たちに災いをもたらすという。あそこでは除霊のようなことをやっていたらしいのだ。
 さらに、呪われた遺体は、うっかり床に置くと、そこから呪いが地面に移って、その場所も呪われるというのだ。だから、棺を棺台に乗せて地面に着かないようにしていたらしい。
「あの土蔵は、地震の後、取り壊されたよ。跡地には呪いを浄化するためか、大きなソメイヨシノが植えられたんだが……」
 ソメイヨシノは毎年、満開の時には見事な一本桜となったが、なぜか近くで愛でる者はいなかった。
「近くで見たら、自分がその桜で首を吊っているシーンが頭の中にパッと浮かぶらしいんだ。もちろん俺は試したことないけど」
 今年もその桜は、満開になったが、相変わらず近寄る者はいないという。

総評コメント

「呪い」とは恨み、憎しみから相手の不幸を強く念じ、願う結末が訪れるように仕掛ける装置のようなものと言えます。時にそのターゲットは不特定多数に及び、無差別に作動する負の装置となることも……。今回集まった呪いに纏わる怖い話も、特定に人物に向けて放たれた呪いから、テロのごとく無差別に作動し、また連鎖してしまうものまで、様々なパターンの呪いがありました。人間の負の感情が極まってこその呪いですから、ヒトコワと言える作品も多く見受けられました。
 最恐賞は鬼志仁「黒漆喰の土蔵」。呪いそのものではなく、呪いを清める儀式の話という切り口から、そう簡単には消えない念の強さが窺えるラストまで、展開が秀逸で引き込まれました。
 佳作には「今そこにある呪詛」丸太町小川、「神棚」鳥谷綾斗、「ぴぃ君」緒音百の3作を選出。「今そこにある呪詛」は家族の在宅介護が舞台。人間の心の闇を垣間見てしまった瞬間のぞっとする感覚をとらえ、現代のごく身近な生活の中に潜む呪いの種というべきものをうまくとらまえていたと思います。「神棚」鳥谷綾斗は会社の女性社員たちの習わしに関する話。こちらも現代社会の抱える問題に密接した呪いで、生々しさがありました。呪詛譚はどういうわけか女性が呪う話が圧倒的に多いのですが、これはまさしく女性ならではの呪いでしょう。「ぴぃ君」緒音百は、海外の呪い絡みの作品。一時の感情で人を憎めば、それが取り返しのつかないことになる場合もあるという話。心の底から呪おうとして呪わずとも、負の感情を察した何かが先回りして動く場合もあるという恐ろしさがありました。
 呪い話の場合、まず理由があって誰かを憎む。何かで見聞きした方法、或いはそれにアレンジを加えたオリジナルの方法で呪いの儀式をする。呪いがきく。自分にも不幸が帰ってくる。いわゆる人を呪わば穴二つという展開のお話が非常に多くなります。或いは、呪いの成就にほくそ笑むところで終わるパターン、こちらも多いです。つまりワンパターン、ありがちな話になる危険性が高いテーマと言えます。
 無論、人を呪うことのひとつの結末であり、実話怪談としてはありのままの事実を描いたとも言えますが、その反面、実話怪談もエンターテインメントの一つであり、如何に読者に飽きさせない先の気になる展開に仕立て上げるかは大事なところだと思います。誰かを呪う心情に肉薄し、感情移入してしまうようなドラマティックな描き方をする、取材者として冷静な目で観察し、告白者(呪った人)のディテールを積み上げ、リアリティあるヒトコワとして見せる……等々、色々なアプローチがあると思います。
 一方、呪われた側から話を聞いた場合はもう少し幅があるように思います。呪われているという疑いを持つに至る経緯から、呪われることの恐怖など、怖いという感情を表現するのは比較的容易です。誰が呪っているのか最後に種明かしされるパターンなどサスペンス的な仕上がりになっている作品もいくつかありました。霊能者や宗教関係者など、呪いを断ち切る役を果たす人物が登場し解決する話も多かったです。
 典型に陥りがちなテーマをどうオリジナリティをもって料理するか、そこを意識して書くだけでもだいぶ違ってくると思います。しかし、矛盾するようですが型にはまった結末への満足感というのも存在します。特に呪われてしかるべき悪人が相応の報いを受けるという結末。そこには一定のカタルシスがあり、意外性はないかもしれませんが、読者の満足度は高い場合が多いと言えます。実話怪談ですから典型にはまる結末となってもそれはそれでいいのです、ただ見せ方を工夫することでワンパターンの海から頭一つ抜けることができると思います。呪いは特に人間の感情に深く絡む恐怖譚ですから、人間の描き方、生々しい心の動き、それを表す表情や仕草などで違いが出てくると思います。ワンパターンを恐れず、オリジナリティを出す皆さんのチャレンジに今後も期待しています。

次回募集テーマは「奇妙な風習」。田舎、島、村、あるいは都会でもかまいません。地域独自の奇妙で恐ろしい不気味な風習に纏わる怪談を大募集。○○地方、○○県など教えていただけると◎です! 
ご自身の体験でも、人から聞いた話でも構いません。ルールはひとつ、実話であるということ。創作不可。
発表は5月31日のYouTube「井戸端怪談」内にて、作品朗読をもって発表させていただきます。こちらのチャンネル登録もぜひよろしくお願い申し上げます。収録が遅れる場合、同日Twitter、当HPにて発表とさせていただきます。

◎YouTube「井戸端怪談」➡チャンネル登録

現在募集中のコンテスト

【第70回・募集概要】
お題:草木に纏わる実話怪談

締切 2024年04月30日24時
結果発表 2024年05月15日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
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