竹書房怪談文庫TOPマンスリーコンテスト2022年11月結果発表
マンスリーコンテスト 2022年11月結果発表
怪談マンスリーコンテスト
ー 怪談最恐戦投稿部門 ー
2022年11月結果発表
- 最恐賞
- 「鼓笛隊」ふうらい牡丹
- 佳作
- 「嘘つきAちゃん」渡戸章五
「エイプリルフール」月の砂漠
「優しい嘘」夕暮怪雨
最恐賞「鼓笛隊」ふうらい牡丹
大学病院で勤務医をしている真司さんは小学六年生の頃、中学受験の勉強漬けの日々を過ごしたという。
毎日塾に通い、土日も補講やテストで休みはほとんどなかった。
同級生からも気を遣われているようで遊びに誘われなかったが、同じクラスの哲ちゃんだけはいつも笑顔で「遊ぼう」と声をかけてきた。
秋の終わり頃、いよいよストレスで辛くなったとき、
「今度の日曜のお祭り、俺、子ども会の鼓笛隊の旗手やるから見に来いよ」
休み時間に哲ちゃんにしつこく誘われ、真司さんは塾のテストをサボって町内の祭りに行ったという。
サボったことへの罪悪感を覚えつつ、沿道の最前列でパレードを眺めながら鼓笛隊が通るのを待った。
ところが、いざ鼓笛隊が通ると先頭の旗手は知らない子で隊列の中にも哲ちゃんの姿は見当たらない。パレードの終点まで追いかけ、休憩する鼓笛隊の中にいた同級生に「哲ちゃんは?」と尋ねると、「哲ちゃんはメンバーじゃないよ」と言われたという。
唖然として帰宅すると塾をサボったことで親に叱りつけられた。そのため翌朝学校で哲ちゃんを見つけた真司さんはすぐに怒りをぶつけた。
しかし哲ちゃんは鼓笛隊の話どころか、「お前を遊びに誘ったこともない」としらを切る。いつもの笑顔とは別人のような冷たい表情だった。
以降、真司さんは哲ちゃんと絶交したまま卒業し、志望した中学に進学した。
十数年経って真司さんが医学部の六年生になり、国試の勉強や卒試の準備に追われていたある日、当時登録していたSNSにメッセージが届いた。
名前を見ると、それが哲ちゃんの本名だと気づいてあのときの辛い思い出が蘇る。
(なんの用だ?)
卒業して一切連絡もとっていないのに、と訝しんでメッセージを開く。
「あのとき嘘ついてごめん」
何を今更、と思いつつ続きを読む。
「本当に鼓笛隊に入りました」
その言葉とともに写真が送られている。
大人になった哲ちゃんがあの頃の笑顔で、子どもたちと同じ衣装を着て鼓笛隊の旗手をしている写真だった。
(何やってんだこいつ)
そう思って画像を見ていたが、真司さんは(あの日だ)と気づいて寒気がした。
写真の中の沿道に子どもの頃の自分が映っていたのだという。
彼は気持ち悪くなって、すぐにそのアカウントをブロックした。
後に小学校の同級生何人かと話す機会があったが、哲ちゃんが今何をしているかを知る人はいなかったそうだ。
総評コメント
11月のお題は「嘘」。実話怪談と相反するようなテーマではありますが、些細な嘘、咄嗟の嘘が原因で本物の怪異を呼び寄せてしまうような事例はままあるように思いました。今回多かったのは、自分の利益優先で嘘をついたところ、不可解な怪異に見舞われ、罰が当たってしまう。怖くなって白状し、懺悔したところ怪異はやむという種類の怪談。ありふれた展開と言ってしまうことは簡単ですが、それよりも類似例が多いことにある種の真実味を感じました。もう一つ目立ったのは、嘘だったはずのことがいつの間にか本当のことになってしまう恐怖を描いた怪談。こちらも得体の知れない不気味さがあり、自分がおかしいのか周りがおかしいのか、混乱していく体験者の心情をうまく表現できている作品は怖い怪談に仕上がっていたと思います。
最恐賞は、一風変わった薄ら寒さが印象的な「鼓笛隊」ふうらい牡丹。不条理な怪、訳の分からぬ不気味さ、真実は藪の中としか言いようがないのですが、まさに「薄ら寒い」という言葉がしっくりくる、静かながらもあくの強い怪談であったと思います。嘘というものの得体の知れぬ怖さがいちばん出ていた作品でした。
佳作1作目は「嘘つきAちゃん」渡戸章五。幼稚園にいた、いつも嘘ばかりのありもしない自慢話をしていた子どもに纏わる怪談で、体験者自身忘れられない記憶ながら、この話をすると嘘つきだと思われる(信じてもらえない)から厭だと思っているという結びまで、「嘘」というテーマをよく捉えた作品でした。2作目は「エイプリルフール」月の砂漠。こちらはタイトルの通り、エイプリルフールにかこつけて仲間の誰かをだます遊び、明るい嘘に端を発する怪談です。予想外の展開に怖さと同時にしてやられた感もあり、印象に残りました。よくできた話ではあるのですが、理由不明、理屈ではない現象が真実味を感じさせました。3作目は「優しい嘘」夕暮怪雨。こちらは善意の嘘から始まる怪談で、体験者は何も悪いことをしていないのに恐ろしい事態に巻き込まれていく厭な話です。間の取り方、描写などもうまかったと思います。
その他、最終選考の作品はどれも甲乙つけがたい力作でした。なるべく類話がない、嘘というテーマがより生きているという点で選びましたが、どの作品も怪談として読み応えのあるものでした。
来月は、いよいよ今年最後のマンスリーコンテストとなります。テーマは「占い」。我々人間は遠い昔より占いと共に生きていたと言っても過言ではないでしょう。今ではエンタメの要素が強くなりましたが、不安定な原始の時代はあらゆる運命を左右するものでありました。多種多様な占いは呪術とも近しく、怪異は大いにそこに潜んでいると思われます。霊感占いというジャンルもありますね。そんな占いに纏わる怖い話を大募集いたします。
次回も、作品の中の一人称(私、僕、俺など)は投稿者ご本人のみというルールで開催させていただきます。、一人の方が複数の作品をご投稿されている場合、ある作品では一人称が若い女性であったのが、別の作品では中年男性になっているというのはルールに反している(創作の疑いがある)と判断しまして、選考の対象外といたしますので、皆さまこの点どうぞお気をつけください。当然のことながら、一人称の死にオチ、行方不明オチなどは論外となります。
また、実話怪談投稿は、プライバシーの観点から、人名は実名でなく仮名でお願いします。仮名を前提とさせていただきますので、「仮にこの人を○○さんとする」といった但し書きは必要ございません。ただでさえ1,000字という限られた分量ですから、余計な情報は抜きで伝えるべきところに字数をつかっていただければと思います。
一次選考から最終選考までの選考過程は以下の通り。
●最終選考に残った作品 ※順不同
「見えていた女の子」蒼ノ下雷太郎
「優しい嘘」夕暮怪雨
「吐き溜め香」雨森れに
「ひとつだけ書き換えて」宿屋ヒルベルト
「エイプリルフール」月の砂漠
「嘘つきAちゃん」渡戸章五
「夢か現か」おがぴー
「オボンサマ」大佛太郎
「鼓笛隊」ふうらい牡丹
「鯉」あんのくるみ
●二次審査通過 ※順不同
「部屋に海を創造する」影絵草子
「嘘?」岡田翠子
「見えていた女の子」蒼ノ下雷太郎
「石鹸の臭い」雨森れに
「優しい嘘」夕暮怪雨
「ダメ男」夕暮怪雨
「吐き溜め香」雨森れに
「知らない子」墓場少年
「ひとつだけ書き換えて」宿屋ヒルベルト
「エイプリルフール」月の砂漠
「嘘つきAちゃん」渡戸章五
「向かいの家」鬼志仁
「夢か現か」おがぴー
「オボンサマ」大佛太郎
「スクウ」天堂朱雀
「鼓笛隊」ふうらい牡丹
「鯉」あんのくるみ
●一次審査通過 ※順不同
「万年桜の噂」影絵草子
「部屋に海を創造する」影絵草子
「嘘?」岡田翠子
「手を振る」影絵草子
「ピンチヒッター」ミトハルカ
「見えていた女の子」蒼ノ下雷太郎
「石鹸の臭い」雨森れに
「あんずの味」ホームタウン
「偽名の代償」夕暮怪雨
「優しい嘘」夕暮怪雨
「ダメ男」夕暮怪雨
「吐き溜め香」雨森れに
「嘘事故物件」かわしマン
「知らない子」墓場少年
「子守禿」雨森れに
「等価交換」夕暮怪雨
「ひとつだけ書き換えて」宿屋ヒルベルト
「三人の登山客」月の砂漠
「エイプリルフール」月の砂漠
「嘘つきAちゃん」渡戸章五
「向かいの家」鬼志仁
「オバケアパート」やえがしたまも
「夢か現か」おがぴー
「姉の影」おまつ
「オボンサマ」大佛太郎
「ある事件の関係者から聞いた話」キアヌ・リョージ
「スクウ」天堂朱雀
「なんで、僕」天堂朱雀
「何も見ていない」青葉入鹿
「鼓笛隊」ふうらい牡丹
「鯉」あんのくるみ
それでは次回も、皆様の力作をお待ちしております!
現在募集中のコンテスト
【第76回・募集概要】
お題:運動会・体育祭に纏わる怖い話
締切 | 2024年10月31日24時 | |
---|---|---|
結果発表 | 2024年11月15日 | |
最恐賞 | 1名 Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス |
|
優秀賞 | 3名 竹書房怪談文庫新刊3冊セット |
|
応募方法 | 下記「応募フォーム」にて受け付けます。 フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム | お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp |