マンスリーコンテスト 2023年8月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2023年8月結果発表

最恐賞
「学祭公演」宿屋ヒルベルト
佳作
「ぜひとも見てやってください」井上回転
「虫の知らせ」雪鳴月彦
「祖父の葬儀」唎酒師のカズ

最恐賞「学祭公演」宿屋ヒルベルト

 野上さんは高校時代、演劇部に所属していた。
 高二の時、学祭公演でホラーをやろうと盛り上がり、その頃話題になっていた『リング』と『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』をいい加減に混ぜたようなオリジナル脚本が出来上がった。2000年頃の話だ。
 森の奥にある呪いの井戸を大学のオカルト研究会が調査に行くという筋書きで、野上さんの役は「知らない古井戸の夢を見て、そこから顔を覗かせた女に『おいで』と誘われる女子大生」だった。舞台に設置する、直径一メートルほどの大きな石積みの丸井戸の張りぼても、段ボールと粘土で作られた。
 ある日の放課後、野上さんが委員会の仕事で遅れて、稽古場の多目的教室に入るといきなり怒鳴り声が飛んできた。
「あんたたちはさぁ!」
 見ると、他の演者の子たちがうなだれて並んでいて、先生に怒声を浴びせられている。あらら……巻き込まれるのが嫌だったので、野上さんは説教が終わるまで遠巻きにしていようとその場で立ち止まった。
 先生の怒りはヒートアップしていく。
「信じる心が何にもないじゃない!みんな本気で信じてないでしょ?それじゃ伝わらないよ!本当にここが森で!井戸で!女が死んだんだって本気で思ってないでしょ!?」
 彼女は教室の中央に置かれた井戸のセットを指さしてヒステリックに言う。
 誰かが真剣さに欠いた振る舞いをして、逆鱗に触れたのだろう。まだ本番には日があるのにそんなに怒らなくても……と野上さんが思っていると、
「本当にここが井戸だって信じることができてたらね!本当になるんだよ!」
 そう叫んで、先生は丸井戸にぴょん、と飛び込んで――そのまま視界から消えた。野上さんはぎょっとした。セットの高さはせいぜい三〇センチ、膝くらいで大人が屈んで身を縮めたって見えなくなるはずがない。
 ややあって、じゃぼんっ……という水の立つ音が教室中に響いた。
 その瞬間、無言でうなだれていた部員たちがハッとしたように顔を上げ、互いを見合わせる。野上さんも、「それ」を急に思い出した。
「――ねえ、今の人誰?」
 知らない女だった。なのになぜか、その場にいた全員が「それ」が井戸のセットに消えるまで顧問の先生だと思い込んでいた。もちろん、井戸を覗いても教室の床があるだけだった。

 そんなことがあって「ホラーはやめとこう」ということになり、学祭公演は急ごしらえで作った『ロミオとジュリエット』のパロディの喜劇をやって、ハチャメチャに滑ったという。

総評コメント

●最終選考対象
「釣瓶の世界」雨水秀水
「何がなんだか」浦宮キヨ
「悪夢の意味」キアヌ·リョージ
「おいで」夕暮怪雨
「呻く家」ホームタウン
「溜め池」沫
「井戸会社の営業」おがぴー
「牛の鳴き声」月の砂漠
「嫁入り」夕暮怪雨
「祖父の葬儀」唎酒師のカズ
「おまわしさん」藤野夏楓
「かもしれない」猫科狸
「闇バイト」春日線香
「恋愛相談」FUMUSHI
「- ごやしょう -」天泣 白雨
「シンクロニシティ」影絵草子
「虫の知らせ」雪鳴月彦
「学祭公演」宿屋ヒルベルト
「ぜひとも見てやってください」井上回転
「魚鱗」影絵草子

●二次選考通過
「いたずら」あんのくるみ
「釣瓶の世界」雨水秀水
「何がなんだか」浦宮キヨ
「悪夢の意味」キアヌ·リョージ
「おいで」夕暮怪雨
「骨井戸」渡戸章五
「呻く家」ホームタウン
「遊女屋の中庭」柩葉月
「溜め池」沫
「蝉時雨」筆者
「井戸会社の営業」おがぴー
「古井戸の餌」浦宮キヨ
「願い事」月の砂漠
「牛の鳴き声」月の砂漠
「嫁入り」夕暮怪雨
「ぽっちゃん」アスカ
「追憶の井戸」墓場少年
「祖父の葬儀」唎酒師のカズ
「おまわしさん」藤野夏楓
「古井戸フレンド」緒方さそり
「かもしれない」猫科狸
「黒兎」雨森れに
「闇バイト」春日線香
「恋愛相談」FUMUSHI
「- ごやしょう -」天泣 白雨
「シンクロニシティ」影絵草子
「虫の知らせ」雪鳴月彦
「学祭公演」宿屋ヒルベルト
「ぜひとも見てやってください」井上回転
「魚鱗」影絵草子

●一次選考通過
「いたずら」あんのくるみ
「釣瓶の世界」雨水秀水
「何がなんだか」浦宮キヨ
「卒業アルバム」キアヌ·リョージ
「悪夢の意味」キアヌ·リョージ
「おいで」夕暮怪雨
「骨井戸」渡戸 章五
「呻く家」ホームタウン
「遊女屋の中庭」柩葉月
「四番の石垣」沫
「逆井戸」沫
「溜め池」沫
「神域」沫
「蝉時雨」筆者
「じいちゃんち」おがぴー
「井戸会社の営業」おがぴー
「古井戸の餌」浦宮キヨ
「願い事」月の砂漠
「マネキンヘッド」月の砂漠
「牛の鳴き声」月の砂漠
「息抜き」夕暮怪雨
「嫁入り」夕暮怪雨
「ぽっちゃん」アスカ
「追憶の井戸」墓場少年
「祖父の葬儀」唎酒師のカズ
「おまわしさん」藤野夏楓
「祭囃子の井戸」藤野夏楓
「古井戸フレンド」緒方さそり
「かもしれない」猫科狸
「黒兎」雨森れに
「井戸のない家」宿屋ヒルベルト
「闇バイト」春日線香
「恋愛相談」FUMUSHI
「- ごやしょう -」天泣 白雨
「シンクロニシティ」影絵草子
「虫の知らせ」雪鳴月彦
「学祭公演」宿屋ヒルベルト
「三つ子のこと」絵草子
「ぜひとも見てやってください」井上回転
「神隠しの顛末」影絵草子
「打首の絵」影絵草子
「下町の銭湯」影絵草子
「井戸屋の仕事」影絵草子
「魚鱗」影絵草子

さて、9月のお題は「後悔」に纏わる怖い話。何となく後味の悪さを予感させるテーマですが、じっとりするような恐怖実話をお待ちしております。ふるってご応募くださいませ。
なお、応募数の増加により結果発表が延期になることが多く、皆様には大変ご迷惑をおかけしてまいりました。しっかりと選考する時間をとるために、次回の応募より発表日を翌月15日とさせていただきます。ご投稿いただいている皆様、結果を楽しみにしてくださっている皆様、何度もお待たせして申し訳ございませんでした。心機一転取り組んでまいりますので何卒よろしくお願い申し上げます。

現在募集中のコンテスト

【第70回・募集概要】
お題:草木に纏わる実話怪談

締切 2024年04月30日24時
結果発表 2024年05月15日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。 応募フォーム

お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp