マンスリーコンテスト 2021年12月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2021年12月結果発表

最恐賞
「御頭憑き」雨森れに

    

  「閃輝暗点」饂飩
佳作
「大掃除のお化け」小糸(天神山)
「からみ餅」かおる
「乳母車の女」夕暮怪雨
「一味」ふうらい牡丹
「御頭憑き」雨森れに

 あかりさんの家は、商店街で魚屋を営んでいる。

 年末になると特に忙しい日々。
 幼少期のあかりさんも店に並び、ゴミ集めなどの簡単なお手伝いをした。
 刺身の注文がよく入り、刺身を担当している祖父は忙しく動いていた。
 サクで身を切り出せば、あとの骨やら頭はゴミ箱行き。そのはずだった。

 日も暮れて大晦日の営業が終わる。次は年が明けて五日からの営業だ。
 いつもより丁寧に掃除を終わらせ、父は商店街の役回りへ。女手は台所へと向かった。
 あかりさんがふと店のほうを見ると、祖父が何やら作業をしていた。
「おじいちゃんはこれから包丁研ぐから危ないわよ」
「これからやるの?」
「その年のケガレを落とすんだって。ほら行くわよ」
 もう一度店を見ると、祖父は陳列台に魚の頭を並べていた。
 包丁を研ぐこととは全く違う行為に目が離せなくなる。
「あかり! 早く来なさい!」
 動こうとしないあかりさんを、母親はひきずるようにしてその場から離した。

 年越しの慌ただしさの中、祖父が団らんに混ざったのは年が変わった頃であった。

 元旦の朝、あかりさんは陳列台に並べていた頭を思い出す。
 店をこっそり覗くと、うす暗い店内で何かの音がしていた。
 ぱ…ぱ……
 ぱ……ぱ…ぱ……
 シンクに水が落ちるような音が気になり、歩き出した。
 店の中ほどまで来ると、音の正体がわかった。

 ―――魚の頭が、動いている。

 陳列台でに並べられた沢山の頭。
 それが口をぱくぱくとさせて、震えているのだ。
 目は生きているかのようにギョロギョロとこちらを見つめてくる。

「おぉ、動いたな」

「おじいちゃん!何これ、生きてるよ!」
「これは商売繁盛の神様が憑いたんだ。だからここから逃げないようにしないとな」
 そう言って祖父は柳刃包丁を手にした。
 研ぎたてなのだろう。長い刀身がてらてらと光り、狙いを定めてから振り下ろされる。
 脈打つように震える頭を一心不乱に刺す、祖父の姿。
 次第に何も聞こえなくなり、店には静寂が訪れた。

「これで、今年も商売繁盛だ」

 団子のように串刺しになった頭。
 動くことはなく、まさに死んだ魚の目をしていたという。

 あかりさんは年末年始が近付くと、毎年この光景を思い出すらしい。
 今では代替わりして父親が大晦日に包丁を研いでいるというが、けして店を覗かないようにしていると言っていた。

「閃輝暗点」饂飩

 仕事の同僚のAさんから聞いた話である。

 年の暮れ、Aさんはかなり忙しい時期で、毎日働き詰めだった。
 夜になってある時、PCの画面を見ていると、あれ?と思った。画面上の顧客の電話番号、最後の一桁だけがなんだか見えない。
 まわりのスタッフに画面を見てもらうと、ふつうに見える、と言う。おかしいな、と思ってAさんは見る角度をかえたりして眺めてみても、一番右側の数字がどうしても一つ欠ける。右目を押さえて見てみると、左目はちゃんと見える。どうやら右目が何かおかしい。
 スタッフの一人が、網膜剥離じゃないですか?と怖いことを言うので、Aさんはすぐさま眼科に行くことにした。

 夜の道路を渡っている際に、右目に異変が現れた。次第に大きくなる天の川のようにキラキラした模様が右眼のなかにひろがっていった。Aさんは眼科に急いだ。
 診察してもらうと、どうやら閃輝暗点という症状で、ストレスなどで出ることがあるらしい。眼球自体に問題があるわけではなく、脳が原因で起きるもので、一ヶ月くらい続くようであれば脳外科に行くことを勧められた。
 とりあえずほっとしたAさんは眼科からの帰り道、交差点で信号待ちをしていると、おさまっていた症状が右目にまた出始めた。はじめは夜の信号やネオン、車のライトのせいかと思っていたが、右眼の中で流れ星のようにすぅーっと光が下に文字を書き出した。

「し」

 そのあと光は、誰かが筆を運んでいるようになめらかに動いて、

「ぬ」

 とゆっくり書いた。

 Aさんは怖くなって声をあげそうになったが、どうにもならない。手で押さえて目をつぶってもその字は消えていかない。
 そして、

「よ」

 とうとうAさんは信号待ちの時に蹲って声を上げてしまったそうだ。その後は周囲にいた人に助けられて、なんとか仕事場まで戻った。

 Aさんは長期休暇を取ることにした。

「警告だったのかな、でも眼の中に文字を書かれるってのはねぇ、はじめてで、怖かったよ」
 とAさんは語った。

総評コメント

 12月、本年最後のお題は「年末年始」に纏わる怖い話。個人的に年末の時期に体験、遭遇した奇妙な事柄から、クリスマス・お正月といった行事絡みの怖い話までたくさんの投稿が集まりました。力作が多く、皆さまに読んでいただきたかったことと、ちょっと早いお年玉ということで最恐賞2作、佳作4作、選ばせていただきました。優秀作(最終選考)も初めて選出される方も多かったと思います。おめでとうございました!
 最恐賞1作目は、「御頭憑き」雨森れに。魚屋の大晦日の儀式ということで興味深い内容であり、異様な雰囲気、臨場感がよく伝わってくる作品でした。2作目は、「閃輝暗点」饂飩。働きづめの方、本日もまだ仕事終われないという方もいらっしゃるのではないかと思いますが、そんな働きすぎの男性へふいに与えられた啓示、あるいは警告。非常に読みやすく心地よい流れの文に、非常に珍しい怪異ということで印象に残った作品です。
 佳作4選は、大掃除の時期にだけおかしくなってしまう母の話「大掃除のお化け」小糸(天神山)、ある一族がからみ餅を捧げる神のような存在、それが見える人間がいなくなると家が途絶えるという話「からみ餅」かおる、村で赤子の生まれた家が通らねばならぬ大晦日の洗礼「乳母車の女」夕暮怪雨、うだつの上がらない人生を変える一杯となった雑煮の話「一味」ふうらい牡丹。「からみ餅」「乳母車の女」はある一族や村に伝わる風習、奇習の話で、怪談好きとしては大変興味をそそられる内容。「大掃除のお化け」「一味」は日常の風景の中で起きた出来事で、いずれも怖さより奇妙さ、不思議さが際立つ作品でした。
 全体的に文章が整っている作品が多かった今回、ネタ勝負!となりましたが、これまたそれぞれ個性的で大変選考に悩みました。一年の最後にふさわしい回となりましたことを感謝いたします。来年も皆様の力作をたくさん拝読できることを期待しております。

★優秀作(最終選考)※投稿日時順
「メリクリ嫌い」影絵草子
「迷い厠」蛙坂須美
「おじさんの煙草」墓場少年
「火の番」春日線香
「御利益」アスカ
「アワタノハレゲ」怪談夢屋
「洗い地蔵」ツヨシ
「カウントダウン」岡田翠子
「迫り来る」石崎誠
「幸せな大晦日」月の砂漠
「雑煮」キアヌ・リョージ
「あいつのメロディー」月の砂漠
「奇妙な大掃除」鬼志仁
「忘れられた羽子板」あんのくるみ
「年境」高倉樹。

次回、2022年最初のお題はお正月ですので「神仏」。畏れと恐れの実話、お待ちしております。
ふるってご応募くださいませ!

現在募集中のコンテスト

【第70回・募集概要】
お題:草木に纏わる実話怪談

締切 2024年04月30日24時
結果発表 2024年05月15日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。 応募フォーム

お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp