マンスリーコンテスト 2022年12月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2022年12月結果発表

最恐賞
「三つ編み」卯ちり
佳作
「20」ミトハルカ
「ゴク」れん
「蟻占い」緒方陽司

最恐賞「三つ編み」卯ちり

 亜美さんは小学生の頃、TV番組で見たダウジングに興味を持ち、自分でもやってみようと思い立った。
 L字型の二本の金属棒を両手に持ち、地面に向けるだけで地中の鉱脈や失せ物探しができるダウジングの手法は、不可思議ながらも子供の自分でも容易に行えそうに見えたのである。
 自宅にあったハンガーの針金を曲げて二本の棒を作り、亜美さんは散歩をするたびにそれを持ち歩いて、針金が勝手に動き出し宝物を発見できることを期待した。
ここに何かありそう、という場所を見つけては針金を取り出して意識を集中させるが、当然ながら何の反応もない。
 上手くいかず亜美さんは気落ちしていたが、通学路の一角に差し掛かった時に、針金ではなく彼女の髪の毛――右側に下ろした三つ編みを、くいっと引っ張られる感触があった。
 右側を振り向くと目の前に自販機があり、釣銭口にある五百円玉を発見した。

 それを期に、亜美さんはちょっとした失せ物探しができるようになった。針金を持ち意識を集中させると、おさげにした三つ編みの左右どちらかが引っ張られる感触がある。引っ張られた方向を辿っていくと、探していたものを見つけられるのだ。
 母親が宅内で失くした指輪や、友人が学校で落としたペンなどを次々と発見した亜美さんは、感謝される度に自尊心がくすぐられ、毎朝早起きしては左右に三つ編みを作って登校するのが日課になった。

 ある休日、亜美さんは自宅で針金を取り出して遊んでいると、下に強く髪を引っ張られる感触があった。
 二階の自室の真下にある仏間に入ると、仏壇の中に白いものが置いてある。
 それがもぞりと動くので目を凝らしてみると、手首から先の、爪を黒く塗った女性の手が位牌と共に鎮座していた。
 その手がぎゅっと、細いものを掴む動きをすると、亜美さんの三つ編みがぐいっと引っ張られる。
 亜美さんは仏間から逃げ出して、洗面台で泣きながら自分の三つ編みを鋏で切り落とした。

「ダウジングの能力は私の手柄じゃなくて、全部アレの仕業だったんだなあって。あの時は怖いやら悔しいやらで……」

 亜美さんは現在、占い師として生計を立てている。
 タロットカードの上にペンデュラム(振り子)をかざしてカードを選ぶ占いはよく当たると評判で、長い修行の末に身に着けたのだと、彼女は言う。
「これ、占いを始めてからずっと愛用しているんですよ」
 天然石のペンデュラムを見せる亜美さんの白い手には、黒いマニキュアが塗られていた。

総評コメント

 12月のお題は「占い」。まず女性の応募者の割合がいつもより高かったように思います(お名前からの類推ですので正確なデータではございませんが)。お話に出てくる占いの種類では手相が最多、御神籤に纏わる話も目立ちました。あとは突出したものはなく、タロットからホロスコープ、易、ローカルなオリジナルルールのまで多種多様でした。
 残念ながら今回ははっきりとした創作怪談も多く、誰から聞いた話かも不明のまま語り手の主人公が死んで終わる話や、異世界に飛んでしまう話などは選外といたしました。ただ全体的にはドラマティックな展開の話や、あまり聞いたことがないような珍しい話が多く、読んでいて大変面白かったです。
 最恐賞は「三つ編み」卯ちり。編んだ髪の房が何者かの遠隔操作でダウンジングのような役割をするという一風変わった話。作者の他作品2点も面白く全体としてレベルが高かったと思います。佳作1作目は「20」ミトハルカ。非常に明快、スピーディーな展開とわだかまる謎が秀逸でした。2作目は、「ゴク」れん。こちらも非常にレア度の高い話でまた恐怖も二転三転する展開の妙がありました。3作目は「蟻占い」緒方陽司。子供の残酷さと人間の悪魔性を感じさせる作品は怪奇であり人怖であり、様々な楽しみ方(怖がり方)ができる作品でした。
 今回は応募数も多く、全体のレベルも非常に高く読み応えがありました。「占い」と「怪異」、どちらも信じない人はまったく信じない世界で、そうした人からみれば胡散臭いと思われるものがダブルで重なった実話怪談をどうリアリティをもって伝えるか、恐怖を与えるかはなかなかの難題です。まずは登場人物の生々しさ、心情のリアルさが大事になってきます。ここが嘘くさいと、怪にリアリティを与えるのは難しいでしょう。次に状況説明、こちらも冷静に事実を綴りつつ、目に浮かぶように表現することが大切です。信じていない人をも何となく不安な気持ちにさせることができれば実話怪談は大成功ですから、不安になる要素を丁寧に積み重ねていくことを心掛けていただければと思います。
 次回2023年最初のお題は「花」。妖しい花のお話をお待ちしております。

★最終選考対象
「ぱぴぷぺ占い」あんのくるみ
「お迎え」雨森れに
「いいよ、恨まない」薫と猿
「三つ編み」卯ちり
「神主さん」おがぴー
「タフる」ヒサクニ
「20」ミトハルカ
「人相写真」宿屋ヒルベルト
「三度来た女」夕暮怪雨
「ゴク」れん
「水蜂」影絵草子
「蟻占い」緒方陽司
「廊下の奥」井上回転

★二次選考通過
「ぱぴぷぺ占い」あんのくるみ
「お迎え」雨森れに
「いいよ、恨まない」薫と猿
「白紙くじ」雨森れに
「なにがなにやら」おがぴー
「ワンド」卯ちり
「二十六歳」卯ちり
「三つ編み」卯ちり
「神主さん」おがぴー
「四柱推命」若林明良
「星占い」ホームタウン
「失せ物」ザボ
「火難の卦」月の砂漠
「タフる」ヒサクニ
「20」ミトハルカ
「人相写真」宿屋ヒルベルト
「移ろう張り紙」まがむし
「父を占う」ツヨシ
「三度来た女」夕暮怪雨
「ゴク」れん
「水蜂」影絵草子
「蟻占い」緒方陽司
「廊下の奥」井上回転

★一次選考通過
「ぱぴぷぺ占い」あんのくるみ
「お迎え」雨森れに
「いいよ、恨まない」薫と猿
「お天気占い」夕暮怪雨
「白紙くじ」雨森れに
「なにがなにやら」おがぴー
「ワンド」卯ちり
「二十六歳」卯ちり
「三つ編み」卯ちり
「神主さん」おがぴー
「大人のコックリさん」鬼志 仁
「最高の名前」宿屋ヒルベルト
「四柱推命」若林明良
「星占い」ホームタウン
「失せ物」ザボ
「ティキ。」鬼灯
「火難の卦」月の砂漠
「睡蓮の花占い」月の砂漠
「占い師X」夕暮怪雨
「恋みくじ」紫音 咲夜
「タフる」ヒサクニ
「立食い蕎麦屋」宮ノ下龍司
「20」ミトハルカ
「靴飛ばし」ホームタウン
「人相写真」宿屋ヒルベルト
「移ろう張り紙」まがむし
「父を占う」ツヨシ
「三度来た女」夕暮怪雨
「ルーレット式おみくじ機」夕暮怪雨
「ゴク」れん
「死んだ兄」ツヨシ
「Y子、Y子、気づいてY子」渡戸章五
「後ろから」雨水秀水
「水蜂」影絵草子
「蟻占い」緒方陽司
「大予言」影絵草子
「老婆に見える」井上回転
「廊下の奥」井上回転

現在募集中のコンテスト

【第70回・募集概要】
お題:草木に纏わる実話怪談

締切 2024年04月30日24時
結果発表 2024年05月15日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。 応募フォーム

お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp