マンスリーコンテスト 2024年1月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2024年1月結果発表

最恐賞
「橋の上」ホームタウン
佳作
「砂嵐」雨水秀水
「ままごと」吉田六
「猟犬」高崎 十八番

最恐賞「「橋の上」ホームタウン

五十代になる美絵子さんが、今から三年ほど前に体験したお話。
美絵子さんが住んでいる街は、四方を川に囲まれているため橋が多い。
自宅から会社までは徒歩通勤で、その間に二つの橋を渡る。
一つは短い橋、もう一つは大きい橋。
大きい橋は長さ二百メートルほどで、歩行者用の道幅も広く、途中に川を眺められる休憩用のベンチが置いてあった。
ある晩その橋を渡っていると、ベンチの辺りで大好きなジャガイモのお味噌汁の匂いがした。
周りを探すが匂いの元は当たらず、ベンチでは浮浪者が横になっているだけだった。
家に帰ると、リモートワークで仕事をしている旦那さんが夕飯を作っていた。
もしかしてと思い、旦那さんに今日の献立を聞くと「今日は寒かったからシチューにした」と言われた。
橋の上でジャガイモのお味噌汁の口になっていたので、少し残念だった。

それから数日後の帰宅時、その橋を渡っているとまたベンチの辺りで、今度はカレーの匂いがした。
周りを探すが匂いの元は見当たらず、ベンチには相変わらず浮浪者が横になっていた。
家に帰ると、旦那さんが夕飯を作っている。
すっかりカレーの口になっている美絵子さんは旦那さんに今日の献立を聞くのだが、「今日は大根安かったからおでん」と言われた。

それからまた数日後の帰宅時、橋の上のベンチの辺りでハッとした。
すき焼きの匂いがするのだ。
そして毎回、常にしているマスク越しに嗅ぎ取れる事に違和感を覚えた。

その晩、警察から電話が掛かってきた。
保育園の時に生き別れて以来行方知らずだった母親が、孤独死をしていたという連絡だった。

橋の上で嗅いだ、ジャガイモのお味噌汁、カレー、すき焼きは、全て美絵子さんが覚えている母親の手料理だ。

「出て行ってから全く会って居なかったので、正直なんの感情も湧かなかったんですよ。でも”挨拶”に来たんですかね。寂しい人生だったのかな」

亡くなった母親と対面した際、すき焼きの匂いがしたあの日にいつもベンチで横になっていた浮浪者が、立ち上がってじっとこちらを見ていたのを思い出した。

母親だったそうだ。

総評コメント

今回のお題は「母」。子育て幽霊に鬼子母神、母と怪談・異談は縁の深いテーマであると思います。
また虐待に纏わる怪談も近年は多く、応募作の中にも愛憎入り乱れた怪談(ヒト怖含め)が数多く寄せられました。
最恐賞は、「橋の上」ホームタウン。母の味とよく言われるように、母親の作る料理に纏わる怪談も今回多かった題材ですが、「橋の上」はその匂いが暗示的に出てくる怪談です。話の着地点としては意外性もあり、それでいてエモさに頼りすぎることもなくバランスのよい怪談であったと思います。怖さよりも不思議な話ですが、深みのある読後感と強い印象を残しました。
佳作1作目は「砂嵐」雨水秀水。こちらは不気味さ、怖さでもっとも印象に残った作品です。母の異様な行動を目撃してしまった気まずさや恐ろしさが良く伝わり、ぞっとする終わり方も良かったと思います。
佳作2作目は「ままごと」吉田六。こちらもまったく意味不明な怪異で、因果を想像することすら難しいのですが、不思議とそんなこともあったのだろうと思わせる誠実さを感じました。方言のセリフもいいアクセントになっていました。
佳作3作目は「猟犬」高崎 十八番。こちらは応募作では少数派の動物の母に纏わる怪談。仔を孕んでいて殺された猪の呪いか、猟犬に訪れる恐ろしい結末が何とも不気味で怪談らしい怪談であったと思います。
受賞作以外にも、母がテーマならではのエモーショナルな作品、無条件に子に愛を注ぐ存在というイメージ(先入観)から逸脱した母の顔の恐ろしさを描く作品、心に残る怪談がたくさんありました。母から派生しての男性が持つ母性的な何か、大いなる存在、地球的な母など、チャレンジングな作品も楽しませてもらいました。
最終的な決め手は、やはり母というテーマにいかに肉薄しているか、母が主役として立っているか、他のテーマ(事故物件、呪物、予知etc)が色濃い場合、母というテーマが負けていないかというところを見ました。テーマに囚われず「良い怪談」であればまた違った作品が浮上してきたと思われますし、それぐらい全体のレベルは高かったと思います。初めてご投稿いただく方も多く、ぜひまたチャレンジしていただけましたら幸いです。
今月の最恐賞作品は、6月発売「たらちね怪談」に収録されます。おめでとうございました!
その他、選考過程は以下の通りです。

●最終選考対象
「蛍光灯が切れると不機嫌になる母」宮代あきら
「砂嵐」雨水秀水
「成長した娘へ」あんのくるみ
「橋の上」ホームタウン
「母の威嚇」井上回転
「ままごと」吉田六
「猟犬」高崎 十八番
「再演」宿屋ヒルベルト

●二次選考通過
「蛍光灯が切れると不機嫌になる母」宮代あきら
「砂嵐」雨水秀水
「シャボン玉」小祝うづく
「成長した娘へ」あんのくるみ
「伴走者」梵天堂ブラフ
「橋の上」ホームタウン
「母のメモ帳」中村朔
「過去から来た母」鬼志仁
「帯刀」夕暮怪雨
「晩ご飯を作るのを手伝ってくれる?」黒川錠
「母性」影絵草子
「母の威嚇」井上回転
「ままごと」吉田六
「夢と夕飯」佐藤橙
「取り違い」猫科狸
「猟犬」高崎 十八番
「再演」宿屋ヒルベルト
「子守唄」月の砂漠
「母の声」おがぴー

●一次選考通過
「蛍光灯が切れると不機嫌になる母」宮代あきら
「砂嵐」雨水秀水
「気に掛けてくれるから」高倉樹
「シャボン玉」小祝うづく
「成長した娘へ」あんのくるみ
「伴走者」梵天堂ブラフ
「あんまり騒がんとき」大和かたる
「橋の上」ホームタウン
「残り香」千穂
「縁切り」夕暮怪雨
「母のメモ帳」中村朔
「過去から来た母」鬼志仁
「母の言葉」佐藤健
「帯刀」夕暮怪雨
「晩ご飯を作るのを手伝ってくれる?」黒川錠
「母性」影絵草子
「晦日の恐怖」水剣水鏡
「母親の夢」唎酒師のカズ
「母の威嚇」井上回転
「母がつぶやく」ユカ
「ままごと」吉田六
「夢と夕飯」佐藤橙
「灯篭」Parade556
「取り違い」猫科狸
「息子の好物」碧絃
「卵と鶏」ミスミ マサカズ
「猟犬」高崎 十八番
「再演」宿屋ヒルベルト
「子守唄」月の砂漠
「箪笥」岨野蜩
「見知らぬ女性」筆者
「母の声」おがぴー
「通夜に来ていた」宿屋ヒルベルト
「トリカワリ」沫
「夢オチ」墓場少年
「禁制」佐々木ざぼ

さて、3月のお題は「散歩」です。締切は3月31日、発表は4月15日です。
皆様の挑戦、引き続きお待ちしております!

現在募集中のコンテスト

【第70回・募集概要】
お題:草木に纏わる実話怪談

締切 2024年04月30日24時
結果発表 2024年05月15日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。 応募フォーム

お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp