マンスリーコンテスト 2022年7月結果発表

★お知らせ★
8月31日に予定しておりました「怪談マンスリーコンテスト8月」結果発表は、都合により9月1日に延期いたします。
楽しみにしてくださっていた皆様、まことに申し訳ございません。ご了承くださいませ。

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2022年7月結果発表

最恐賞
懐かしい味高倉樹
おはぎおがぴー
佳作
「母の粥」おまつ
「思い出のシュークリーム」あんのくるみ
「老婆の汁モノ」大佛太郎

最恐賞「懐かしい味」高倉樹

これは、戸嶋さんが通う大学で、つい昨年起きたことだという。
戸嶋さんは3回生になって、研究室に所属したばかりだった。その矢先、困ったことが起こるようになった。
ゼミ生の食事が盗まれるのだという。

感染症対策のために集団で食事をしないように、と言われているので、あれこれ議論するゼミ生たちも、食事をするときだけは弁当などを持って隣の空き教室に移動する。そこで、例えば消毒を怠ったことを思い出して一度席を外したとする。
――戻って来たときには、弁当のおかずのいくつかがなくなっていた、というのだ。
目を離したのは、ほんの1分にも満たない時間だ。消毒スプレーを取りに行った。運悪く電話がかかってきた。ともかく一瞬だけでも弁当から離れると、蓋が開いている――。
そういうことが何回が続いた。
弁当の蓋が開いているだけで、何もなくなっていない場合もあったそうだ。
とはいえ、口に入れるものだ。被害にあったゼミ生の多くは、気持ちが悪くて、そのまま捨てざるを得なかった。

どうにも困ってしまって、戸嶋さんは、自分たちで犯人を捕まえようとした。見張りを置くことにしたのだ。きっと犯人は苦学している学生だ。
とにかくも弁当から目を離さなければいい、と思ったのだ。

ところが、被害はむしろ加速した。空き教室でのおかず窃盗が減ると、まるで足りないぶんを補うかのように、隣のゼミ室でも食べ物が消えるようになったのだ。
ゼミ室は、まず誰かがいる。
なのにおかずが消えるのだ。
ここまでくると、ただの盗っ人とは思えない。きちんと専門家に相談しようということで、守衛さんを呼んできた。守衛さんは経緯をじっくり聞いたあと、被害にあった学生だけを集めて、彼ら彼女らの出身を尋ねたのだそうだ。
本人の出身、あるいはご実家のルーツを。
そうして「犯人は九州の子だったんだなぁ」と結論付けた。

対策はシンプルだった。
週に1度くらいでいいから、九州ルーツの子に、家庭の味付けでおかずを作って、空き教室に置くように、という。
期待していた見張りなどとは似ても似つかない対策に、戸嶋さんは大いに戸惑ったそうだ。しかし、やってみると、被害はぴたりと止まった。
弁当は荒らされない。消えるのは、空き教室に備えた九州ふうのおかずだけだ。

説明を求めた戸嶋さんに、守衛さんはあまり多くを語らなかった。
「きっと懐かしい味が食べたかったんだね」
としか、言ってくれなかったそうだ。

最恐賞「おはぎ」おがぴー

千葉で和菓子店を営む直也さんが高校生の時。
ある土曜日に直也さんは商店会の会合で出かけた父親に代わって店番をしていた。
店の造りはシンプルで、和菓子の入ったガラスケースの奥は住居を兼ねており、直也さんは店に直結している和室の畳の上でごろんと横になっていた。
ふと店先に視線を向けた時だった。

「あれ?お祖母ちゃん?」
ガラスケース越しに田舎に住んでいる祖母の姿が見えた。祖母が来るという話は聞いていなかった。
「お祖母ちゃん!」
呼びかけても祖母はこちらを向く事なく、何かを夢中に食べている
よく見ると、それはおはぎだった。
店のおはぎを食べている!? 直也さんは慌てて起き上がって靴を履き店に出た。
「あれ?」祖母がいない。店の外も探したが祖母の姿は何処にもなかった。

「見間違えじゃないのか?」
帰ってきた父親は「連絡も無く来るはずがないよ」と信じてくれなかった。
「でも誰かがガラスケースからおはぎを取ったなら、衛生的にまずいなぁ」
おはぎの数は減っていなかったし、ガラスケースは客側からは開かない。これも見間違えだろうと言われた。

しかし万が一にも食中毒を起こすわけにはいかない。そこでおはぎだけケースから下げて家族で食べる事にした。
「うえっ 不味い」
母親も入れて3人で食べたおはぎの味は、なんとも言えない味だった。
腐っているのとも違う。味が薄いような…それは言葉にしにくい味だった。
念のためにとチェックした他の和菓子は無事だった。

祖母の姿を見たという直也さんの話もあり、安否が心配になった父親がすぐに電話を掛けたが祖母は出ない。虫の知らせという言葉が頭を駆け巡る。
直也さんと父親は車で祖母の家に向かった。

「なんだ…この臭い」
祖母の家は房総の山にあって近くに民家はない。車から降りると、なんとも言えない悪臭がした。
「お…おばあちゃん?」
愛用の作務衣を着ていなかったら気づけなかったほど、祖母の肌は真っ黒だった。

「死後一週間経っていたそうだ」
直也さんの祖母は健康そのものだった。恐らく当人もこんな死が訪れるなんて思っていなかっただろう。
死因は餓死だった-
転倒による頸部骨折により動けなかったと検案書にあった。
「見つけてくれって言いに来たんだと思うんだよね。でもおなかも空いてたんじゃないかなぁ。それで店のおはぎを食べたんだと思うよ。だって大好物だったからね」
祖母が好きだったおはぎは今でも直也さんのお店の一番人気である

総評コメント

7月のお題は「食べ物」。良い作品が集まったことと、怪談の夏ということで、事前にお知らせしておりませんでしたが最恐賞を2作選出いたしました。
1作目、「懐かしい味」(高倉樹)は怪談としての派手さはないですが、怪異を丁寧に描写しており、自然なリアリティを感じさせる作品。多くを語らぬ終わり方も実話怪談らしく、不思議と記憶に残る味わいがありました。
2作目は「おはぎ」(おがぴー)。こちらは怪談らしく、ぎょっとするような怖さはないものの展開に華があり、良く纏まっていたと思います。因果関係の考察も嫌味がなく、はっきりしてはいるもののリアリティも損ねていない点を評価しました。
佳作も良作揃い。「母の粥」(おまつ)は文学的な味わいがあり、読ませる怪談。心情含む描写に力が入っている分、怪異色が薄くなりすぎているのがやや勿体ないところ。「思い出のシュークリーム」(あんのくるみ)は体験者が怪異をすんなり受け止めている所に若干の違和感を覚えますが、思いもよらぬ展開に引き込まれました。「老婆の汁モノ」(大佛太郎)はラストでぐっと恐怖感が出てくる作品で、そこに至るまでの展開も読み手を引っ張ります。同じ味しかしないというのは、どの味なのか(老婆の出してくれた汁の味と受け取りましたが)はっきりさせてもよかったように思います。
その他、謎多き恐怖として、「おいしい鍋」(山賀忠行)、独特の風習として「漁師の挨拶」(かおる)も印象に残りました。
今回は、色々な食物、料理、食事に関する怪談が集まりましたが、傾向として面白く感じたのは「甘いもの」に纏わる話が多いように感じられたことです。単に菓子というだけでなく、果物や、ごはんやお粥などの甘さも含め、味覚の中で「甘い」という表現が際立ったように思います。甘いものには郷愁があり、霊魂もまた現世への郷愁を掻き立てられるのかもしれません。生者と死者、あの世とこの世を甘いものが繋いでいると思うと実に興味深く、「甘露」という言葉が頭をよぎりました。
以前も総評で書いているかと思いますが、今回はとくにオチの説明、怪異・因果の推測が蛇足になってしまっている作品が目立ちました。この怪異はこれが原因であるといった説明は実話怪談にとっては余分になってしまうことがえてして多いのです。読者の想像に任せる余地を残して書き終えることも余韻を残す手法のひとつになりますので、ぜひ検討してみてください。最近は基本的な文章力は備えている投稿者さんばかりで、読みにくさを感じることはほとんどありませんが、よく読むと一文の中に同じ言葉が二度使われているケースはかなりあります。例をあげますと、「もう」「まだ」「そっと」「など」あたりが頻出です。「~たり」は基本的に「~たり、~たり」と2つセットで使う表現ですので、一つだけ使用するのは正確ではありません。語尾の過去形連続もよく見られます。確かに「あったこと」を書いているので、すべて過去形ではあるのですが、~だった。~思った。~した。と過去形の語尾が続くと、文が単調になり、読ませる怪談には物足りなくなってしまいます。「再現して書く」という意識で、現在形の語尾も混ぜつつ、リズムテンポのよい文章を目指すとよいかと思います。

★最終選考に残った作品 ※順不同
「チョコレート菓子」キアヌ·リョージ
「思い出のシュークリーム」あんのくるみ
「懐かしい味」高倉樹
「怨念クッキング」岡嶋克彦
「供物」飛幡一聖
「老婆の汁モノ」大佛太郎
「おかずの瞬間移動」若林明良
「母の粥」おまつ
「喉が渇く」更紗アンナ
「おいしい鍋」山賀忠行
「供物の代償」雪鳴月彦
「黴饅頭」影絵草子
「おはぎ」おがぴー
「漁師の挨拶」かおる

★二次通過作品 ※順不同
「チョコレート菓子」キアヌ·リョージ
「思い出のシュークリーム」あんのくるみ
「お隣さんのスイカ」池田青葉
「懐かしい味」高倉樹
「怨念クッキング」岡嶋克彦
「供物」飛幡一聖
「老婆の汁モノ」大佛太郎
「練り物」鬼志仁
「馴染みの味」菊池菊千代
「ヤギ汁」夕暮怪雨
「おかずの瞬間移動」若林明良
「通夜振る舞い」アスカ
「母の粥」おまつ
「リンゴのおまじない」山本れえこ
「喉が渇く」更紗アンナ
「おいしい鍋」山賀忠行
「供物の代償」雪鳴月彦
「黴饅頭」影絵草子
「おはぎ」おがぴー
「漁師の挨拶」かおる
「林檎が落ちる」影絵草子

★一次通過作品 ※順不同
「チョコレート菓子」キアヌ·リョージ
「思い出のシュークリーム」あんのくるみ
「お隣さんのスイカ」池田青葉
「タイ料理屋」都平暢
「懐かしい味」高倉樹
「怨念クッキング」岡嶋克彦
「供物」飛幡一聖
「腐る」キアヌ·リョージ
「老婆の汁モノ」大佛太郎
「練り物」鬼志仁
「梅干し黒豆」青葉入鹿
「馴染みの味」菊池菊千代
「ヤギ汁」夕暮怪雨
「食うものは食われるもの」更紗アンナ
「おかずの瞬間移動」若林明良
「通夜振る舞い」アスカ
「想い出の店」影絵草子
「母の粥」おまつ
「ういろう」おまつ
「リンゴのおまじない」山本れえこ
「食べ物の怨みは怖いのだ」更紗アンナ
「喉が渇く」更紗アンナ
「闇鍋」墓場少年
「おいしい鍋」山賀忠行
「たまくさ」古森真朝
「いでっ!」雪鳴月彦
「上海蟹」宮ノ下龍司
「供物の代償」雪鳴月彦
「枯れ葉ご飯」渡戸章五
「黴饅頭」影絵草子
「おはぎ」おがぴー
「漁師の挨拶」かおる
「林檎が落ちる」影絵草子

次回8月は「通勤通学」に纏わる怖い話。口に入れるものは安全に…。
皆様の力作、お待ちしております。

現在募集中のコンテスト

【第70回・募集概要】
お題:草木に纏わる実話怪談

締切 2024年04月30日24時
結果発表 2024年05月15日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
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