好評発売中、夏の「超」怖い話 庚(かのえ)の舞台裏に迫る。作者3名による怪談エッセイ連載〈3匹がごにょごにょ〉4
新刊、「超」怖い話 庚。
今回、部屋が怪異の舞台となる話を数多く集めてきたのが深澤夜である。
異端、異色といった形容詞が似合う彼の作風は3人の中でも異彩を放っている。
異彩……また異である。
というわけで、今夜は深澤夜。
それではどうぞ。
はい、無事一周しました。
言い訳なしに本当の話ですが、前回の原稿を書いた時点では連載化するなんて話は全くなくて、前回の原稿をお出ししたところ半ば懲罰的に決まってしまった感じがあります。
文筆業の歴史の中で、懲罰的に始まった連載が過去あったでしょうか。
今もって信じられません。きっと担がれているのでしょう。最悪闇に消える覚悟でこれを書いています。
コーナーの名前何がいいですか、と聞かれて一応僕もアイデアを出してみました。
三人ぶんの情報をギュッと凝縮したあのブログ――との連想から脊椎反射で、あの高名なブログのタイトルをそのまま口から垂れ流したところ、「それはだめ」とけんもほろろに却下されてしまいました。
ですよね。いくら好きだからって、一ミリも捻ってないパクリど真ん中はダメですよね。
僕を叱ってくれる大人がいるから、今日も揉め事が未然に防がれる。有難い話です。
「ハードボイルドなタイトルがいいなぁ」とだけお願いしたところ『三匹がごにょごにょ』という勿体ないタイトルを授かりました。
素敵なドローイングまで描いていただいて、こりゃもう後に引けない。
ごにょごにょするしかない。
他社様のリソースを割いて「ごにょごにょしていいですよ」って言われることは人生でこれっきりだと思うので、全力でごにょごにょさせて頂く所存です。
で、まぁこれは完全に闇に葬られるつもりで展望などを書いておきますと、怪談書き界の水曜どうでしょうみたいな感じを目指したいですね。
心霊スポットに行くみたいなのはもう沢山あるからそういうのではなくて、もっと攻性の組織でありたい。
空っちは野趣あふれるイケメンだからログハウスとか作っても映えると思うんですよ。
そこから事故物件にしていくと。事故物件といっても人死にはちょっと無理なのでその他の瑕疵の方向で。
事故物件といえば、最近面白いお化けアパートの話を聞きまして。
世田谷にある古いアパートで、ここに住んでる知人がいるのですね。
その知人も、IT業界にはよくいる偏屈な変わり者の中でもかなり極まってる人で、物凄く面白い。
若いのに、ほんの腰掛に過ぎないその土地のことをよく調べていて、僕はそのレポートを見せてもらったのですけど、とても感動しました。
そのアパートの彼の部屋は、とにかく出るらしい。
現象の大半は『電話をしてると、いないはずの若い女の声が電話相手にだけ聞こえる』みたいな比較的ありがちものなのですが、これも相当ハッキリ聞こえるようなのでクるものがあります。
その女の言ってることもわかる。
電話相手――この場合は親御さんだったそうですが――親が口籠って、ちょっと言えないような内容だったみたいです。
ありがちだなぁ、と思いつつもやっぱりディテールがついてくるとぞわっとするものがある。
しかも続きを聞くと、わりと僕好みの、何というかワンモアシングもあるらしい。
それはそのアパートに住んでる元芸能人らしいおばあさん。
なんと昭和の芸能界の裏事情に滅茶苦茶詳しい。
で、色んな話が出てくる。
あっ――と途中で僕は思いました。
面白いんだけど、これはちょっと方向性が違う。
そこから他にも面白い話も出てきそうなのですけど、如何せんこれは超怖では書けない。
好みなんだけど、ちょっとワンモアシングの方向性が違う。
というわけで困っております。
しまった、オチがない。
書けないとこ省いて書いたらいいじゃないか――と思うかも知れませんが、もう僕の中ではお化けアパートじゃなくて『昭和の芸能界にめちゃ詳しいばあちゃん』が主役なんですよ。
お化け・アパートに詳しいばあちゃん。
ほらちょっとサザンっぽくなったでしょう。夏ですし。
オチができた。
それでは皆様、良い夏を。
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