【日々怪談】2021年4月4日の怖い話~ パパ
【今日は何の日?】4月4日:交通反戦デー
パパ
前川が小学生だった頃の話である。
クラスメイトに園田という友人がいた。
園田の父は既に自動車事故で亡くなっており、母親と祖父母が彼を育てていた。
園田の家には最新のゲームソフトや玩具が豊富にあるため、前川は頻繁に遊びに行っていた。
その日も園田家で遊んでいた。
どんな会話の流れだったか、
「園田、パパいないんだよな」
という台詞が前川の口から出た。
すると、園田は
「いるよ」
と応えた。
子供ながら友人のその言葉からもの悲しいものを読み取った前川は、話を逸らそうとして黙った。
「見せてあげる」
だが、話題は続行していた。園田は二人で飲んでいたオレンジジュースが注がれたコップを持って立ち上がった。
前川は何かマズイことになっているような気がして、言葉が出なかった。
園田はコップを部屋の隅に置き、前川の隣に座った。
「見てて」
園田がそう言ってからは二人で押し黙り、じっとコップを見続けてから数分後のことだった。
〈ポコッ〉
コップから音がしたかと思うと、一瞬で中身が外へ飛び出した。
まるで、コップを横に倒したような溢れ方だった。
あとには濡れた絨毯と空のコップが残った。
園田は一階へ降り、雑巾を持って戻ってきた。
「これ、パパがやったんだよ」
そう言う友人の顔はまだ悲しげだった。
成人した今も二人は顔を合わせることがある。
だが、その日にあったことを話題にしたことは一度もない。
――「 パパ」高田公太『恐怖箱 百舌』より