【日々怪談】2021年4月12日の怖い話~ 反物 四題
【今日は何の日?】4月12日: 日本初の超高層ビルが完成
反物 四題
深夜、帰宅途中の平賀さんは、高層ビルの脇を抜けて地下鉄の出口へと急いでいた。
高層ビルの側面を、幅数十メートルはあろうかと思われる、端を少し巻いた布のようなものが、べろべろと風に舞いながら落下してきた。
このままでは落ちてくる布に巻き込まれてしまう。その場を離れようと駆け出した。振り向くと、巨大な反物は地上に落下する直前にふわりと浮き上がり、そのまま飛び去った。
* * *
白い布が宙に浮いている。その布が風に煽られてどんどん近付いてくる。まるで妖怪一反木綿だ。ただ一反は十二メートルほどあるのだが、それよりは大分短い。一メートル程度であろうか。しかも、その布の片方の端からは二本の細長い紐がTの字に腕を広げるようにして飛んでいる。
空飛ぶ越中ふんどしであった。
* * *
牧島さんの住む部屋のトイレは、内倒し窓というタイプである。下端が固定され、上部を狭く押し開くことのできる換気用の窓だ。
牧島さんがある午後にトイレに入ると、開きっぱなしになっていたその窓の隙間から白い布が入り込もうとしていた。
ここは最上階である。屋上から誰かが悪戯を企んでいるのだろうか。牧島さんはつかつかと窓に近寄り、その布の端を掴んだ。ぐっと引っ張ると、力が掛かっている。布はぐいぐいと引かれて、牧島さんが手を離すと、するすると屋上のほうに消えていった。
屋上で悪戯している奴の顔を見てやろう――窓の隙間から上を覗くと、雲の隙間からずっと垂れ下がった長い長い布が、風にはためいていた。
* * *
仕事から帰宅する車中にて。
あるT字路の一時停止で車の切れ目を待っていたときのこと。
正面にある家の屋根の上を白い布が舞っていた。
ああ、洗濯物のシーツでも飛ばしたのかな。
何げなくそう考えてから違和感を覚えた。
この距離であの大きさだと、六~七メートルはあるんじゃないか。シーツにしては大き過ぎる。
しかもこの辺は平屋が続いている。
その民家の屋根よりも高く、あんな大きさのものが飛ばされるものだろうか。
何より、今日は風が殆ど吹いてない。
そこまで考えたとき、今まで左から右のほうに移動していたものがピタリと動きを止めた。
裾だけがひらひら揺らめいて、その場に滞空している。
シーツじゃない!
そう思った瞬間、裾をはためかせながらまっすぐ上空に舞い上がり、一瞬で掻き消えた。
――「 反物四題」神沼三平太『恐怖箱 百眼』より