【日々怪談】2021年4月30日の怖い話~松の上に
【今日は何の日?】4月30日: 図書館記念日
松の上に
小学校にはバスで通っていた。
駅前のロータリーはバスの発着場になっていて、いつもそこでバスを待っていた。
駅のすぐ隣には小さな稲荷神社があって、その敷地内には結構な数の松が生えていた。
しかし、どういう訳なのか、一本だけ神社から少し離れてロータリー側に生えているものがあった。
道路はその松を避けるように作られている、そんな不自然さを感じさせた。
ある日の昼下がり。
図書室から借りてきた本を読みながら、バスを待っていたときのこと。
呼ばれたような気がして顔を上げた。正面にはあの松の木。
吸い寄せられたようにその一点から目が離せなくなった。
上部の枝に何かいる。丸い――猫か? いや、違う。
頭だ。
一筋の乱れさえなくピシっと髷を結った、武士の頭部が乗っている。
やや斜め横を向いた顔の、目だけがぐりっと動いてこちらを見た。
怖くはなかった。
ただ、何故己がそこにいるのか分からずに酷く戸惑っている、そんな顔をしていた。
――「松の上に」ねこや堂『恐怖箱 百眼』より
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