【日々怪談】2021年6月16日の怖い話~盆体質
【今日は何の日?】6月16日:和菓子の日
盆体質
「また今年もお盆が来るんですねぇ……」
お盆は毎年来るだろ、と突っ込むと後輩の針谷は暗い顔をして言った。
「俺、お盆はちょっと……みんな帰って来るから……」
お盆休みと言ったら夏休みのピーク。そりゃ、みんな帰って来るだろ、と再び突っ込むと、針谷は幽霊みたいな青い顔をして言った。
「いや、人間じゃないほうです。ご先祖様とかそういう、そっち系の」
詳しく訊いてみる。
「盆になると、部屋の中が狭く感じるんですよ。自分しかいないのに、人がどっさりいるような。人口密度が高い感じってやつですか?」
そりゃ、何かいるんじゃないの? と茶々を入れると、針谷は真顔で言った。
「あ、それです。出ます。家の中を歩き回るんですよ。ぺたん、ぺたんって足音がするんです。幽霊だと思います」
言葉を失って黙っていると、針谷は続けた。
「それにですね、夜中に俺の名前呼ぶんですよ。〈おい! 針谷浩介! 起きろ!〉とか。フルネームで呼ばれるんですよ。幽霊に」
うわあ、それはたまらんなあ……と呟くと、針谷はさらにこぼした。
「たまらんです。布団入って寝ちまおうと思うじゃないすか。で、天井見あげると……天井に人が密集してるんですよ。天井いっぱいに、びっしり貼り付いてるんです。宙に頭だけ一個、ポカンって浮いてることもあるし、お供えに人間の歯形が付いてたりするんですよ。饅頭とか、ガブっとやった痕が」
それはおまえ……どうなんだ、それはと、もう問いかけにも何にもならないようなことを口籠もると、針谷は涙目になった。
「そこまで見えるのって、家族中で俺だけらしいんです。親とか兄貴は、うっすらとわかるかどうかってくらい。お供えは……まあ、歯形残ってますから、みんな見ましたけどね。みんな何となく気付いてるから、〈お前が食ったんだろ〉なんて言わないんです」
そして針谷は、大きく溜息をついた。
「でも、お盆の間だけなんです。先輩……お盆て、キツイですよ。怖いです」
針谷には、大いに同情した。
――「 盆体質」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ―』より