【日々怪談】2021年6月30日の怖い話~葬式帰り
【今日は何の日?】6月30日:酒酵母の日
葬式帰り
高校時代の友人が交通事故で亡くなった。
横断歩道を渡っていたときに、信号を無視した車に轢かれたのだそうだ。
葬式帰り。前園さんは一軒の寿司屋に入った。
カウンターに座り、まず茶を啜る。
「おい、兄さんよ。あんた葬式帰りだろ!」
突如、隣に座っていた見知らぬ男性客がそう怒鳴った。
「え? はい、すみません」
喪服姿で線香臭い、ではマナー違反だったろうか?
そして、男は椀に入った日本酒を前園さんに差し出してきた。
「まず、見ろ!」
ここはこの酔っ払いの言う通りにしてやり過ごそう。言われるままに椀に注がれた酒の水面を見つめた。
「あれ? 何すかこれ?」
椀の中で酒がグルグルと渦を巻いており、いつまで経っても回転が止まらなかった。
「次は呑め!」
椀を持ち、止まらない渦の回転に口を付けた。
「酸っぱ!」
椀の中身は酸味と雑味の塊で、とても呑めたものではなかった。
「あんたが連れてきた奴のせいだぞ! 大将! 塩振ってこいつ帰せ!」
「悪いね。お客さん、もう店閉めるから」
大将に丁重に頭を下げられ、前園さんは店を出る外なかった。
――「葬式帰り」高田公太『恐怖箱 百聞』より