【日々怪談】2021年7月9日の怖い話~生爪

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【今日は何の日?】7月9日:泣く日

生爪

 ダンボールを取ろうとしたら手が滑った。
「痛っ!」
 あっ、と思ったらもう遅かった。
 刺すような衝撃。
 左手の中指に焼くような痛みが走る。
 見ると、生爪が剥がれている。
 ネイル・ペイントをしたばかりの自慢の長い爪は、根元のごく一部がかろうじて指先につながっているだけだ。
 くっつけて戻るものでもないし、瘡蓋で癒着したら取り除くときかえって辛い。
 思いきって完全に剥がすことにした。
 毛抜きと爪切りを使って、ぶら下がった爪をつかむ。
 深呼吸して息を止め、ひと思いに引き抜いた。
「うっ」
 唇を噛んで耐えた。
 剥ぎとった爪には鮮血とピンク色の肉片がこびりついていた。
 消毒しなくちゃ、と指のほうを見た。
 爪が剥ぎ取られた後の剥き出しになった肉の中に、妙なものがあった。
 血の塊のように見える。
 毛抜きで突いてみるが、その塊に触れても痛みはない。
 そのまま抉りだす。
 傷口からほじり出されたそれは、意外に固かった。
 頭の大きな人のような形をしている。
「なんだろ、これ……」
 なんだかわからないので、爪と一緒にベッドの脇のごみ箱に捨てた。




 その晩のこと。
 ――ほぎゃほぎゃほぎゃほぎゃほぎゃ
 赤ん坊の泣き声が聞こえる。
〈どこの子供が夜泣きをしているんだろう〉
 最初はそう思った。
 だが、声は自分の部屋の中から聞こえている。
 しかも近い。
 耳を塞いでも声は小さくならない。
 声は、あのごみ箱の中から聞こえている。
 まるめたティッシュの下に赤ん坊が入っていそうな気がして、どうしても確かめることができないまま、朝まで夜泣きは続いた。

――「生爪」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』より

#ヒビカイ #泣く日

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