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好評発売中、夏の「超」怖い話 庚(かのえ)の舞台裏に迫る。作者3名による怪談エッセイ連載〈3匹がごにょごにょ〉5

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 新刊「超」怖い話 庚の目次をご覧になられた方はお分かりかと思うが、漢字二文字のタイトル作品は、原田空によるものである。
 どの話も重い。体験者の人生、及び精神にかなり肉薄しなければ書きえなかった内容であり、それはひどく危うい。
 動いている心臓に素手で触れてみるような。
 原田の怪談はいつも危うい。そして、繊細である。

 さて、本人は――。

 今夜は原田空、2巡目。

前回までのあらすじ】
・10数年前に池袋で怖い話の懇親会があった。
・4人掛けのテーブル席、私の対面にこんがりと日に焼けた筋肉達磨が座った。
・隣に金髪長髪の女の子が座ったと思ったら、男の子だった。
・東京は怖い場所なので、並大抵の覚悟で足を踏み入れてはいけない。

 ざっくり書くとたったの4行で済んでしまう話を400字詰めの原稿用紙およそ6枚に渡りだらだらと書き連ねてしまったことを今更ながら猛省している。本当にごめんなさい。

 さて。件の懇親会の話である。

 会の冒頭に4代目編著者進行の元、些か社会人の新人研修じみた個々の自己紹介があった訳です。元々、「超」怖い話シリーズの5代目新著者発掘を目的とした怪談コンテストに端を発した懇親会ではありましたが、実に様々な方々が集まっておりました。
 コンテストに応募した方々は勿論のこと、私などよりも遥か昔から「超」怖い話シリーズを愛読し続けていらっしゃる方々もたくさん居られました。
 そして皆様の自己紹介の後、私は大いに興奮した訳です。
 私は件の怪談コンテストで7位という結果でした。無論、我こそが5代目新著者に相応しいものぞと鼻息荒く応募していたものですから、優勝できなかったばかりか、表彰台に上がる権利すら勝ち取れなかったことに、いや、しかし、この狭い島国日本も実はとても広くて、多種多様な人間がいるものだなと、ひとり膝をポンと叩いたものです。
 では、一体――。幼い頃から怪というものに興味と興奮と恐怖を感じて育ってきた私よりも。私よりもコンテスト上位の方々はどんな人間なのか。果たして、一体――。
 この懇親会には参加要件が設けられておらず、前述のとおり様々な方々が参加されておりました。自己紹介を聴くまで、その場に居る人々、同じテーブルを囲んでいる人間が何者かも判らない。或る意味、この自己紹介はビックリ箱を1つずつ開けていくような興奮と驚きがありました。
 そして――。そして、どのような神の御業かは知りませんが、私が焦がれた優勝を勝ち取った筋肉達磨が目の前に鎮座ましましており、隣には私よりも上位の女の子のような男の子がちょこんと座っておった訳です。
 正直、私は急に心細くなりました。なぜ? 何故に? これだけの人数がいて、こんな偶然みたいなのがあるの? え、何? なんだか……ちょっと、怖い――。
 松村、深澤、そして私がこの懇親会の後も、かなり頻繁に催される集いに足を運ぶ毎、気が付けばいつの間にかに、いつも3人仲良く、一緒に居るようになっていました。
 楽しかった。今思い出しても本当に、本当に楽しい特別な時間でした。
 それはきっと互いに目的が一致した仲間だったからなのだろうと思います。
 いつかきっと、俺達3人が、日本の怪談シーンを牽引してやる――。
 なぜ、この3人なのか。私が思うに、松村と深澤は私と非常に良く似ており、そして、非常に良く違っています。ひとつひとつの怪にとても丁寧に向き合っており、その根っこの部分に怪というものを単純に面白可笑しく扱う多くの人達とは全然違う何かを持っている。これは文筆の仕事に携わる者としては大変に恥ずべきことなのですが、非常に表現が難しく、五感の全てでそう感じたというか。ピンキリ飽和状態の怪談書きの中で、なぜこうもこの3人が、互いの引力にこんなにも惹かれ合うのか。
 この3人がいつか一緒に、いつか3人で1冊の本を書き上げようと約束したのは、初めて顔を合わせてから何度目かの夜のことでした。

 今では件の懇親会やその後の集いで縁あって出逢った方々とは、殆ど顔を合わせる機会を失ってしまいました。或る方は当時から名を変えて作家稼業を続けており、また或る方は名をそのままに作品を世に出す場を変え、そして或る方は筆を折り――。それぞれがそれぞれの場所に身を置いています。
 当時、直接お逢いした方、名前は知っていてもお逢いできなかった方。また、いつも我々3人を支えて下さっている読者の皆様方。それを広げようと懸命に時間を費やして下さる関係者の皆様方。我々3人が出逢うずっと前から、きっと、どのピースが欠けていても、現在の「実話怪談」の隆盛は成し得なかったであろうし、増してや我々3人の『「超」怖い話』は存在し得なかったのではないかと思います。
 書籍では皆様への感謝の気持ちを書くのがとても照れ臭く。この場を拝借して心からの感謝を伝えられれば。どれだけの人に伝わるかなあ。できるだけたくさんの方々に伝わることを祈り。

 色々とまだまだ書き足りないのですが、紙面の都合上、次回以降の私の順番の際に続けさせてくださいね。お願いします。最早バトンリレーではなく、単なる独白状態になっておりますが、悪しからず……。

★明日、8/1は松村進吉さん(の予定)です。

★絶賛発売中

「超」怖い話 庚(かのえ)

松村進吉 編著
深澤夜、原田空 共著

かつてない混迷の中にある今夏、とんでもなく濃密な怪談が3人の元に集まった。
否、託されたと言うべきか。
漁村の怖ろしき禁忌譚ほか、怪談沼の深みに首までつかりたい愉悦の32話‼

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