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7/13開催の怪談最恐戦スピンオフLIVE企画「怪談・虎の穴」重要アドバイスを書き起こし!後編【卯ちりイベントレビュー】

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怪談最恐戦の動画審査の突破のために始動した怪談・虎の穴。 7月13日、新宿のNaked Loftにて、 その4回目が開催された。締め切り直前のリアルイベントとして開催(ツイキャスでの有料配信もあわせて実施)。MCはオーガナイザーの住倉カオス氏、ゲストに村上ロックさん、響洋平さんを迎えた。 生徒役は、宮代あきらさん、佐藤陽介さん、押戸けいさん。

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前半2名を振り返って

村上:ちょっと、いいですか。前半にお二人の話を聞かせていただいて、これは想像以上にレベルが高いと思いまして。……であれば、もっと上を目指してもらったほうがいいのではと、実は前半は悩んでいました。みなさん、一定の水準よりも高いと思うので、ここからはめちゃくちゃ厳しくいこうかなと。

住倉:3人中2人が終わった時点でいきなり!?

村上:だから、さっきの「良かったです」は撤回します! 僕の趣味ゴリ押しの、独断と偏見でいきます! 思い出し怒りしちゃうけど、佐藤さんも、宮代さんも、僕が思うどんよりした嫌な感じがもっと欲しい! 限られた尺でも端的な言葉で情景を描写する、何気ない一言でドキッと心臓を掴む、パンチの効いたワードがもっと欲しい! 貪欲になってきた! めちゃくちゃスパルタで行くぞ〜〜〜!!!!!!

住倉:先ほどはサマーウォーズの例が出ましたけど、言葉選びは作家でも語り手でも、めちゃくちゃシビアにやるべきですよね。例えば森の中で事件が起きる話を語るとき、その森が樹海なのか、針葉樹林なのか、鬱蒼としているか等、添える言葉ひとつで受ける印象が違う。「森」といえば誰でもわかるでしょ、じゃなくて、厳選して言わなきゃ。ロックさんはいつも、(スリラーナイトの)15分の限られた尺で、厳しく言葉選びをしていますね。

村上:例えば僕が先ほど語った話だと、女性の「幽霊を信じてないんですが、一度だけ不思議な体験をしました。あくまでも白昼夢ですが」という言葉を聞いたときの、「この人、何言っているんだ!?」と思った僕の感情を聴いてる方に伝えなきゃいけない。まずは冒頭部分から、掴みに行きましょう。

響:いわゆるキラーワード、聞き手が自分自身でイメージを自己再生できる言葉を選ぶのが一番いいのかもしれませんね。でも、イメージをサポートする言葉が多すぎても、想像を押し付けてしまうことになるので、選び方が大事かな。

村上:限られた時間でどこを切ってどこを活かすかのセンスだけど、そこさえ掴めば、たとえ話が5分でも1時間でも、掴まれた相手の興味が持続する。一言一句、語尾の一文字まで、シビアに見ていってほしいですね。

住倉:これは分解作業でパーツのネジを選ぶような緻密さがないとダメですね。例えば僕が体験した怪談の場合、幽霊が前面に出てくるわけではなくて樹海が主役の話なんですが、樹海の説明で1分か2分、あえて使います。なるべく細かく、ここは普通の森ではない、青木が原は特別な樹海なんだと理解してもらうために、樹海はどういうところか、その歴史も含めた説明に時間を割きます。富士山の溶岩が固まってできた地面は天然の剃刀のようで、転んで手を着くだけで怪我をする、とか。天然ガスでできた穴は天然の落とし穴で、落ちると這い上がれずに死んでしまう人もいるとか。「樹海では何が起きても不思議じゃない」という恐怖感を印象付けるために語ります。

語りのスタイルは人それぞれ違うけど、目的は一緒。情景描写でいかに聞き手を想像させて異世界へ連れていくか。皆さんは限られた時間の尺の中で、話の内容をまずはちゃんと伝わるようにすることから始めていましたが、今は練習してワンステージ上がっているので、動画審査突破の目標から、どうやったら聞き手の心を掴めるかの、次のステージの話に持って行きましょう。

後半戦スタート

響:こんな振りで自分が呼ばれたら、心が折れますね(笑) 

住倉:3人中2人が終わったところでいきなり、これから厳しくしましょうって、そりゃないよね。でも、押戸さんは虎の穴の参加2回目だからね、頑張って。(笑)

3番目:押戸けいさん

これは、聞いた方々が幸せになるかもしれない話です。

最近同僚から、「俺、最近酒が怖い」と言われた。「饅頭怖い的な? 今晩飲みに行こう」と誘うと「そういうの、本当に無理」と言われた。

同僚は先日、最寄り駅から20分のところにあるクライアントに会いに行くとき、歩いている道に違和感があった。なんだか汚い。ゴミが散らかっていて、それもアルコール飲料の空き缶ばかり。ゴミ収集車の人が、「またかよ、ダルいな」というのが聞こえてきた。

少し先に、オレンジの蠢くものがあり、見るとカッパを着たガリガリのおじいちゃんで、捨ててある缶をすすっている。「うわ、きも」と声が出た。おじいさんがこっちを見る。目がくぼんで白く濁り、首や手は微かに震えている。なんだこれ、嫌だなぁと思いつつ、目をそらせなかった。あんな気持ち悪い体験、したくないと感じた。

次の日、自宅の郵便受けのところで、カーン、と缶が転がる音が聞こえた。でも、缶が落ちる音なら、カーンって音の後、コロコロと鳴るはずでは。そう気付いた時に「いつ暇?今度飲みに行こう」と友人から連絡が入った。お酒か、気持ち悪いなと違和感があった。

そして僕の体験談。いま最恐戦に向けてレンタルルームで練習をしているが、その部屋のあるアパートの前で時間になるのを待っている時、上の階から、カーンていう缶の音が聞こえた。僕も違和感に気づく。あれ、なんだろうと。私の携帯が鳴る。母から「お中元のビール送るね」と。

この話、聞いた方に「感染る」ようなんですね。缶の音が聞こえたら、おじいちゃんを思い出してみてください。

押戸:今日は語ることを楽しめました。この(ロックさんや響さんがいる)並びで語れる嬉しさを抑えて頑張りました! 正直、お二方からの厳しめのジャッジは恐いのですが。笑

講評・アドバイス

宮代:(点数をつけると)90点くらい。理由は2つあって「オレンジの蠢く」というワードが面白いし、「きもっ」てセリフの前に、気持ち悪さを感じられた。展開が予想ができないままオチに向かうのが面白い話だなと思うし、カーンって音はなんだろうという謎が続く。100点と言っちゃいけないかもだけど、僕の中では100点。でもさっきのロックさんの怪談は120点だから、90点ということで。

佐藤:僕も90点だと思います。減点する要素を見つけにくい。以前の虎の穴で語った時の、途中で話が飛んでしまった押戸さんとは、全然違う! 何よりご本人が楽しんでいるのが伝わってくる。

住倉:押戸さんは前回からすごく成長しています。僕らのアドバイスを飲み込んで練習に活かして、レンタルルームで練習しているのもすごい。成果がきっちり出ていて素晴らしいし、それには感動すら覚えます。構成も考えていて、発声もいい。欠点が見つかりにくくて高得点となる評価は僕も納得で、動画審査を突破するという意味では90点台を獲得していると思う。例年の予選会で語っても違和感がないくらいに、皆さんが仕上がっている。

 では、それからワンステップ先の話、怪談を語る人間としてどうなのかについて、これから話していきます。

 批評としては……全然なってないです! まだまだですね。今日はみなさん、「スタートに立った」って感じ。ここからより実践的な話をしていくと、まずはつりこみが足りなくて、話の引き込み力が弱い。発声が良くて伝わりやすいのは当たり前の大前提で、より自分の話に興味を持たせるようにしましょう。話の緩急をつけて、自分により惹きつける。聞いている集中力を自分へ持ってこさせるつりこみ、向こうからわざわざ身を乗り出して来るようにすることです。

 例としては、僕が以前に聞いた、おじいさんの落語家がいた。ヨボヨボで話も聞き取りにくいけど、だんだんとストーリーが艶っぽくなってきたのを感じて、思わず聞き入ってしまった。でも、いざ話が盛り上がったところで「時間だから今日はこの辺で」と終わっちゃう。話をつぎ込むだけやって肩透かしを食らったんだけど、それがものすごい気持ち良かったんですよ。これは客に押し付けることなくつりこむ技術が凄い例。今までみなさんは「こうしたら良くなる」の足し算をしていたが、これからは「これを削ったら良くなる」の引き算をしましょう。みんなの語りは一本調子で、お客さんのことが見えていない。押戸さんは練習の再現に一生懸命になっていた感じです。ツイキャスでも画面の向こうのお客さんを意識しているように感じなくて、お客さんとの距離感をコントロールするところまでは、まだ行っていない。これから目指すのは脱・再現。きっちりうまくできた練習を脱して、「表現」に向かっていく。聞いている人を意識して、何を工夫すればいいのかというスタート地点が今。まずはお客さんをイメージしましょう。会場に向ける視線をいくつかのブロックに分けて話す人も、視線の先のお客さんをピンポイントに絞って話す人もいます。聞いている人をイメージして、その人が怖がっているかどうかで、タイミング、場合によっては内容を変えるという意識に、これからは持っていく。「怪談を表現する」こと、今はまだまだだけど、そこに向かって行って欲しい。

村上:ここからはスパルタで、ビンタからいきます!(笑)押戸さんには、怪談マシーンになってもらおうかと。まずは、ワンテンポを改善すること。5分の中で、テンポを自在につければ時間なんて自由自在なんです。時間が押していれば巻けばいいので。話の質を向上させて、説明を早くしつつ肝心なところで間を持たせること。正直、テンポさえつかめれば、どんな話でも強くなる。たとえ話の内容がドラえもんであっても、テンポとトーンをつかめば怪談風になります。ぜひみなさんにチャレンジしてほしいのが、言葉の意味を無視して、明確に発音せず、音で聞いてほしいということ。音として認識した時に、どこが上がって下がるか、トーンが明確に分かる。押戸さんの語りは一定のリズムだったんです。理想的なのはスーパーマリオの、地下ステージで流れる曲のような、テンポが分散している状態で、それなら人は面白く聞いてしまう。でも、なかなかこれは難しいんですよね。文章を思い出しながら喋ってしまうことから抜け出すには、普段、どうやって会話をしているかを考えて、普段のナチュラルな喋りをそのままお話に投影するのを習慣づける。日常をどれだけスライドさせられるのか、難しいけどひたすらやるしかないですね。押戸さんの話の冒頭「僕、酒が怖い」はいい。でも次の「まんじゅう怖い?」はアウト。僕たちから見た、押戸さんのキャラに合ってないから、お客さんが引いちゃう。こういうのをシビアに見ていくしかない。一言一句正しく語らなきゃ、が緊張の元だけど、一旦それは忘れましょう。例えば電気スタンド、みたいな単語が浮かばない時には、お客さんに「ええと、あれなんでしたっけ」と聞きましょう。そういう風に聞いても差し支えないくらいに、普段のキャラを出していく。だから、もっとラフにやればいいんだけど、押戸さんの魅力は「誠実さ」。それも出していくべき。気持ち悪い体験をしたくない、というセリフがあるけど、まだ気持ち悪さに至ってないですね。徹底して世界観、不気味さを構築していくしかない。

響:ロックさんと被りますが、掴みは大事。「酒が怖い」はキラーワードで良いですね。でもそのあとに会話劇になって、距離感が出てしまった。押戸さんらしい言葉じゃなくて、話に置いていかれてしまったのが残念です。冒頭の「聞いた人が幸せになる」という意味がわからなかったけど、なぜ?(押戸さん曰く、自分はビールがもらえたから)今これを聞いて納得したけど、話を聞いている時はそこがススっと行き過ぎていた。頭の中には情報があるけど、それを順番に伝えているだけの感覚になっちゃっていたかも。必要であれば説明に重複があってもいいし、ご自身の言葉として喋るなら、グルーブ感として出てくればいいなと思います。老人の描写については、気持ち悪さがうまく伝わっていなかったけど、ご自身の言葉で伝えれば、缶の音が効いてくる。あと、「うわ、きもい」も同様です。老人の描写のみを捉えると、ホームレスを見てきもいと言うのは人によってはひどいと感じてしまうけれど、缶をすする動作、違和感としての「きもい」なので、その辺の意味合いの伝わりにくさは気になります。自分の言葉で表現するためには、例えばこの場合なら飲み屋の裏口とか、そういう場所をご自分で見に行ってもいいかもしれません。そこで見て感じた印象、感覚の下敷きがあれば適切な言葉が出てくるかも。最恐戦の練習で「まさに今、起きている話」というアクティブな要素はテンションが上がりますね。

住倉:ロックさんはテンポのことを言っていたけど、グルーブ感については、響さんも常日頃から言及していますよね。

響:これは無意識かもしれません。日頃からDJの現場で、「響さん、怪談話してよ」と振られることが多いですが、その雰囲気で語るには、音が大きく鳴っている空間で、かつ短い時間で話し相手を掴むには、やっぱり冒頭が大事だなと。ささっと話し終わって、あとは乾杯に持っていく場の流れがあるので、短く、かつ自分の言葉で、を日頃から意識しています。

住倉:シンコペーションですね。

村上:響さんは、そういう場面のための話はわざわざ用意してます?

響:サクッと話せる話は、あるにはあります。でもこれもロックさんと同じで、最初の言葉を出した時点で、相手が聞こうとするか、そうじゃないかがわかりますよね。相手が聞こうと思ってくれれば多少話を長く語っても良いんですが、もしそうならなかった場合、早々に逃げ出します。(笑)

住倉:僕は猥談なら用意してるけど(笑)

響:でも、こういう現場の喋りの蓄積で、自分の喋り方や自分の言葉のナチュラルな部分が形作られてきたと思っています。

住倉:批評も後半になってからドライブし始めましたね。

押戸:今日言われたことを、すごく実行したいという気持ちになりました。僕は「再現」に軸足を置いてしまったので、これからはもうちょっと自由にハメを外して、先入観を排してお互い楽しもうよ、その代わり俺が表現するからみんなもついてきて! という感じになりたい。ただ話すだけのロボットから気持ちを乗っけて「表現」に持っていきたいし、俺が盛り上げるぞ! という表現者の強い意識でいきたいです。

審査員3名の「表現」

村上:「表現」について、これは厄介な話になるけれど、自分を精神的に解放した時に、話が入ってないと何もできないんです。いざ文章としてガチガチに練習した話から離れた時、助けになるのは、今まで散々覚えてきた話そのもので、これは切っても切れない関係なんです。だから最初は話から抜けられないのは仕方ないし、呪縛から逃れるための葛藤はちゃんとしたほうがいい。そのトンネル抜けたら怪談マシーンですよ。

住倉:練習は地図になりますよね。練習それ自体が目的じゃないけど、地図を見れば、いろんなところに行けるし助けになる。発声とかはわかりやすい答えだけど、表現は答えが見つけにくくて、プロでも模索中で迷うこともある。時間がかかって大変だと思うけど、それを頑張って見つけて欲しい。これはお三方全員に言いたいですね。そんなわけで、押戸さん、ありがとうございました。

住倉:批評も面白くなってきましたね。それにしても、みんな上手。

村上:先ほどの話で、僕はこの呪縛から逃れるのに4年かかったんです。それに比べると、皆さん短期間で吸収するからスキルが高い。羨ましいですもん。

住倉:思いつきでやってみたけど、「虎の穴」は意外と役に立つのかもね。でも、「表現」の話になると難しいよね。「俺の話を聞け」っていう、自己主張の押し付けになると人は離れていく。聴く人の気持ちを考えること、楽しんでもらうことを第一に考えて、自分の話に酔わないようにしていかなきゃいけない。実話怪談は、怪談を一番上に置く。お話がまずあって、その話を生かすために自分がいる。自分を一番上に置いて、道具として怪談を使わない。怪談と聞く人の橋渡しする役割が自分。それを忘れて自分アピールに走って、すごい・うまい・怖いと思われたいとなると、途端に魅力がゼロになる。昨年の最恐戦で優勝した下駄華緒さんは、葬儀屋さんである自分の体験談が中心だった。そういう話は強いけれど、似た話が多くなるという点では、話のパターンが多い人に比べて不利でもあった。それでもなぜ優勝したかというと、圧倒的に話がうまくて、伝える力が強い。いかにして伝えたいかという目線で、相手に伝わるように言葉を選んで優勝していた。だから自分の体験じゃない別の怪談でも、下駄さんは優勝していたと思う。だから、表現を勘違いしないで、ということ。聞き手を忘れなければ、勘違いはしないよね。

村上:今日はね、どこまで言おうか悩んでたんですよ。「技術」って色々あるけど、氷山の一角でしかない。言ってしまえばメッキ。だから氷山の下、そこにたくさん隠れているものをないがしろにして、上澄みだけをやろうとすると、メッキが簡単に剥がれてしまう。なぜ怪談をやるのか? 自分を見て欲しいのか? 原動力は人それぞれだけど、もし怪談で注目されたい・愛されたいと思うのなら、怪談をやる以前の、人間としての大前提として、まず人を愛さなきゃ。そこをないがしろにすると、メッキは剥がれて一発でバレてしまう。……今日やってみて、みんなが一定水準に達していたので、ここで正直に色々とお話ししています。

住倉;今日の話は、自分のキャラを見つけるという段階に来ていますよね。僕、ロックさんと響さん、2人のことがすごく好きなんですよ。まず、ロックさんは見た目がタイプ(笑)。で、響さんは最初に知り合った時に、本当に面白い人だなと思って。話は上手だけどケレン味がなく、押し付けがましくないのに情景が浮かぶ。響さんの気分になって、バーで話を聞いた世界に疑似体験していけるんです。「その怪談話を聞けて嬉しかった」という響さん自身の気持ちも含めてパッケージングされて出てくるのが、他の人とは違う魅力。キャリアも人気もあるのに「僕の話、上手いでしょ?」がゼロ。怪談が大好きで、いい話聞いちゃったから聞いてくださいよ、に思わず乗り出して聞いてみたくなるのが響さん。

響:恐縮です。僕自身も虎の穴に出ることで、勉強になっていると思いますし、ロックさんと同じく、技術の下にある深みはすごく大事だと思っています。僕の場合、技術は自信がなくて、「思い」が強いのですが、むしろそういう点でカオスさんから評価をいただいているのかもしれません。自分が携っている音楽でいうと、例えばDJのスクラッチでも技術に長ける人はいる。でも、引き込まれる人のプレイは技術を駆使していないことが多い。例えば、知り合いのミュージシャンがマイケル・ジャクソンのライブで感動した時の話なんですが、彼がステージに登場した時に、あえて踊らず、微動だにしない。でも客席が最高潮に盛り上がった瞬間に、首をパッと振る。その何気ない動きだけで、観客がとてつもなく引き込まれてしまう。ダンススキルの凄まじい人が、あえて表現を抑えたところに惹かれるんです。技術を磨きながらも、そういうのを大事にしてほしいなと思います。

住倉:じゃあ、最後に聞きたいことってありますか?

佐藤:今日、僕は情景描写が弱いことを痛感したので、普段の日常会話から学べること、情景描写に活かせることって、ありますか。

住倉:本をたくさん読む。僕の意見だと、王道のドストエフスキーとか漱石とか、いわゆる文豪の本。ベストセラーよりも、評価の固まっている人は間違いない。僕は高村薫が好きで、例えば「照柿」という小説で、溶鉱炉の描写から夏の描写に入っていくところがすごく上手くて、夏のじっとりした空気が伝わってくるのが、すごくいいんですよ。本を読んでいくのは勉強になります。あとは俳句とか。

村上:僕も本ですね。実は司馬遼太郎が好きなんですが、仮に「慶応四年、4月のことであった。佐久間象山は汗をかきながら歩いていく」のように、小説の冒頭は季節や気温、人物の表情などを端的に表現しつつ、味があります。自分がそのまま真似をすることはできないけれど、そういう手法を自分なりに探しています。落語家は、口調は日常会話的じゃないけど、話を自分の日常に持って行くのがうまいじゃないですか。僕も「日常の差異」をどう埋めていくかを意識してやっています。

住倉:言葉の選び方がすごくて残っているのが文豪や名作ですからね。研ぎ澄ましはすごい。

村上:何気ない言葉なのに刺さる瞬間がありますよね。

響:僕はそれにプラスして、誰かと話している時に相手の顔を見てください。「その人に伝わったか」は顔に出るんです。日常会話から学ぶとすれば、自分のワードを出した時に、相手に伝わったかどうかを検証することですね。先ほどの「サマーウォーズ」という単語も相手に言って表現が通じるかどうか試してみるといい。自分の言葉の中から、人にイメージしてもらえる言葉を見つけることができる。それは僕も日頃から意識しています。

住倉:じゃあ、僕はよく女性を口説く時に、相手がキョトンとしているんだけど、あれは?

響:ワードが伝わっていないかもしれませんね。

村上:伝わってないふりをしてるんじゃないんですか?

住倉:なるほどね!(笑)確かに、反応を一回ずつ見るのはいいですね。

押戸:ご自身が成長した話、自分の中で一皮むけたエピソードを、皆さんから聞きたいです。

住倉:怪談がらみじゃないけれど、僕は杉作J太郎さんの存在。サブカル文化人の一人で、僕の兄貴分の人だけど、とにかく面白くて憧れてたんです。僕は20歳頃からロフトに出入りしていて、杉作さんがよく舞台に僕を上げてくれたりしたけど、素人だから全然喋れなくて。でも壇上にいる出演者たちはめちゃくちゃ面白いので、なんでこんなに人前で面白く喋れるのかと思っていたんだけどね。そしてイベントを自分でやり始めた時に、杉作さんだったらこんなこと言うかな、という「杉作さんになったような気分」になることで、人前に出て人と話したり表現することに抵抗がなくなったし、自分の自信のなさがなくなった。今は人前でも全然緊張しないけど、最初は杉作さんになった気分で喋るという羅針盤があった。だから、真似を脈々と受け継ぐのは悪いことじゃないなと思います。

村上:今、歌舞伎町のスリラーナイトの怪談師は僕が最古参ですが、僕が一番の古株になった時、何かを背負うじゃないけど、来てくださるお客様に対しての責任が出てきたんです。自分はどれくらいのことが提供できているか、自分の不甲斐なさを骨の髄まで思い知らされるんだけど、やるしかなくて、なりふり構ってられない。それで色々やって失敗もして自己嫌悪に陥るけど、それをいつも支えてくれたのもお客さんで。お客さんに報いるにはお話で返さなきゃいけない、でも上手くいかない、その繰り返し。「こんなにもダメだ!」の現実を直視せざるをえない状況に置かれた時、ですかね。結果何か変わったかっていうと、一皮むけたわけではないのですが。

響:一皮むけた話に戻ると、自分が小さいながらもイベントを始めた時。最初は個人的な飲み会だったけど、ブログに告知を書いて、半分冗談で怪談イベントやりますと出したところ、結構人が集まってくれた。そのイベントきっかけでいろんな人が集まってきたし、そこで話す中で培われてきたものもあるので、小さくてもいいから自分で何かやると責任が生まれます。あと、僕は音楽の下地が後になって怪談に結びついたかもしれない。最初は音楽と怪談を分け隔てて考えていたけど、そのうち音楽と怪談が一緒だなと気がついて、同じ感覚で繋がったのは、自分の中の変化点だったかな。

住倉:そうそう、怪談は他人から影響受けたくないから見ないけど、すべらない話は勉強になりますね。

村上:タイトな時間の中での起承転結をどう構成するかという点で、怪談とお笑いは紙一重ですね。

響:僕も見ますね。面白い話を、たった3分でお話しているのにびっくりします。

住倉:無駄がない。ストーリーの一番美味しいとことだけをチョイスして削る部分と、小さいものを膨らませる部分があって、上手いですよね。

村上:言葉に対する執着、一文字も逃さないぞという意識がすごい。ラフに喋っているようで、実はものすごくかっちりしている。

住倉:こんなところですかね。みなさん、もう応募しましたよね!? 是非、予選会でお会いできればと思います。まあ、審査は俺次第だけど……(笑)

響:今日は非常に勉強になりました。ありがとうございます。

住倉:ロックさん響さん、ありがとうございました! みなさん、予選と本選でお会いしましょう!

まとめ(by 卯ちり)

以上、2回に分けて掲載した「怪談・虎の穴vol.5」、いかがでしたでしょうか。

虎の穴は怪談最恐戦のスピンオフ企画となりますが、最恐戦の映像審査突破に限った話ではなく、怪談語りそのもの、そして怪談にとどまらず「話を伝える」というコミュニケーション全般にも、そのまま通用するアドバイスが沢山詰まっていたかと思います。

怪談界で活躍する各ゲストたちの、怪談愛と生徒さんたちへの優しさにあふれた珠玉のアドバイスやフリートークも面白く、最恐戦の応募者だけではなく、怪談ファンなら誰もが楽しめて参考になる配信番組でしたし、参加した生徒さんたちのひたむきさや貪欲さ、フィードバックを吸収するポテンシャルの高さも、同じ語り手の目線で拝見すると、刺激になります。

5回目はリアルイベント、かつ参加生徒の仕上がりと意気込みが高いということもあり、後半以降の遠慮なく本気でぶつかり合う批評ドライブの流れは刺激的でもあり、怪談語りの難しさと面白さを実感する内容でもありました。

また、怪談シーンの第一線で活躍するお三方の「一皮むけるまで」のお話は、苦労を伴う経験ゆえに、貴重な話がお聞きできたと思います。カオスさんの、先人たちのスタイルを継承することの意義。ロックさんの、怪談師として「表現」に対峙する難しさ。響さんの、自身の下地である音楽と、趣味であった怪談が結びつく瞬間。

カオスさんは、最恐戦は怪談の中身も重要ですが、一番の語りを決めるコンテストであり、「つまるところ、フリートークの上手い人は面白い」とも仰っていました。

語り手個人の、日々気づきや実践の努力全てが、「表現」という形容しがたいものの下敷きとなるのだと思います。

一次審査結果が近々発表されるかと思いますが、審査に通り予選に臨む人も、二次審査に再チャレンジする人も、いま一度「怪談・虎の穴」を復習してみては如何でしょうか。

まとめた人

卯ちり

実話怪談の蒐集を2019年より開始。怪談最恐戦2019東京予選会にて、怪談師としてデビュー。怪談マンスリーコンテスト2020年1月期に「親孝行」で最恐賞受賞。

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