竹書房怪談文庫 > 怪談NEWS > イベント・配信 > 【怪談コンテスト】怪談最恐戦 > 11/3怪談最恐戦2020ファイナル!史上最高にアツい怪談ライブを現場レポート【後編】&見逃し配信ご案内【卯ちりイベントレビュー】

11/3怪談最恐戦2020ファイナル!史上最高にアツい怪談ライブを現場レポート【後編】&見逃し配信ご案内【卯ちりイベントレビュー】

Pocket

「2020年、日本で一番恐い怪談を語るのは誰だ!?」
11月3日、渋谷ユーロライブにて「怪談最恐戦2020ファイナル」が開催されました。
8月に行われた東京と大阪での各予選会の勝者10名、ならびに9月に行われた「怪談最恐戦2020不死鳥戦(敗者復活戦)」の勝者2名、計12名が出場し、賞金100万円をかけた怪談バトルが繰り広げられました。

本記事では、ファイナル1回戦から決勝まで語られたすべての怪談をレビュー。
当イベントは、11月17日(火)まで見逃し配信で視聴可能なため、未見の方にはこの記事を参考にしつつ、実力者揃いのファイナリストたちの語りを堪能していただきたいと思います。

前編→コチラ

組み合わせ&審査方法の詳細→コチラ

無料で読める怪談話や怪談イベント情報を更新しています

・2回戦

ルールは7分以内で、6分1秒を超える必要があり、8分を超えた場合は失格となる。

Aブロック勝者(先攻)とBブロック勝者、Cブロック勝者(先攻)とDブロック勝者の対戦となる。

田中俊行VS中山功太

まるで「OKOWA」の決勝のような組み合わせとなった2回戦。先攻の田中さんは、観光バスの清掃アルバイトをしていた、クボさんから聞いた怪談。こちらは怪談イベント等でも語られる機会の多い、田中さんの「持ちネタ」の一つですが、7分の制限時間に纏められたバージョンです。昨年開催された「圓山町怪談倶楽部」では20分の長尺でこの話の全貌を語っており、聴き比べてみるとコンパクトに纏められているのがわかります。しかしながら、短尺で語られていても物足りなさを感じさせず、謎と不穏さが活きる構成となっており、尺に合わせる技巧を感じる語りでした。

後攻の中山さんは、自身が唯一予知をした怪談ですが、冒頭の母親とのやりとり、倒れた人の目撃談、その後友人に降りかかる現象と自身の予知に気づくオチと、情報量があり聞き応えがある話です。こちらは10分以上の尺がありそうな話を7分に凝縮している点で洗練されており、両者とも技巧が光る対決でした。

勝敗は、審査員票が2対2で割れたものの、会場とネットの観客による得票では田中さんがリードし、決勝進出となりました。賞レース王者である中山さんが膝をつく瞬間を目にする驚きとともに、怪談ファンの心を掴む田中さんの「強さ」を目の当たりにする対戦でした。ちなみに観客得票は、ネット票こそ52%と48%の接戦だったものの、会場票は63%と32%で田中さんが圧勝。当日の会場は「田中さんが決勝で語るのを観てみたい」という空気があったようにも思います。

夜馬裕VS伊山亮吉

先攻は夜馬裕さん。長尺の怪談が得意ゆえに、制限時間が延びれば延びるほど有利になるとも、「決勝は夜馬裕さんを初戦でつぶさないと後が怖い!」とも噂されていたようですが、まさにその通りの展開となりました。「恐怖の二段底」というキャッチフレーズは怪奇蒐集者のものだったと記憶していますが、制限時間が7分と初戦より伸びたことで、夜馬裕さんらしい、巧みな二段オチの構成が活きてきます。自殺名所の訪問から、妻の真実、そして体験者に迫りくる亡霊と渡されたメモの顛末と、最後まで油断のできない怪談です。

後攻の伊山さんは、解剖を体験したときの粗相が原因で襲い掛かる怪異を、鬼気迫る語りで披露。伊山さんは、語りそのもののクオリティだけでなく、伊山さん自身の雰囲気、どことなくダウナーで、語る前後のイジられっぷりと、怪談語りのギャップも魅力的。語り口には熱量があるものの、体感温度が低い語り手とでもいえばいいのでしょうか。薄暗さが絶えず付きまとっていることで、心地の良い怖さがありました。

こちらの対決も、審査員票は2対2、観客票を夜馬裕さんが獲得して決勝進出となりました。観客が夜馬裕さんの厭怪談に魅せられているのが明白な結果でもあり、観客目線の票で勝敗が決まったことで、緊迫感以上に観客の熱気が上がる展開となりました。

・決勝

分数制限なしの1対1で、先攻・後攻はくじで決める。

夜馬裕

夜馬裕さんは、今回の最恐戦ファイナルで語る話はすべて「自分が体験者から話を聞いている、今この瞬間が怖い」と取材時に感じたものというコンセプトを明かしつつ、自身がこれほど怖いと思ったことはないと感じた最恐の話を決勝にかけました。時間制限なし、およそ23分の大ボリュームで語った怪談は、何度も急変する怒涛の展開と、夜馬裕さんが間近で目にする体験者の異様な挙動がトラウマになりそうな厭の妙味。厭怪談の名手としての才が解き放たれ圧巻されつつも、演じ分けがさりなげなく光る語りでもありました。夜馬裕さんは台詞のセンテンスを際立たせるタイプで、登場人物の声色や感情を演技で強調することは少ないと思いますが、この話では若い不動産屋のキャラクターが立っています。ややハイトーンで、軽薄そうに喋る彼の声色と「合格!」と叫ぶ台詞が印象的です。終盤のファミレスでの奇行で、彼のへらへらした態度が一変するのが怖いのですが、この恐怖は夜馬裕さんの演技力故かもしれません。

田中俊行

「友人のKくんは……さっきの話にでてきたクボくんです」と前置きした田中さん。Kくんの話と聞いて、決勝で「あべこべ」を語るのではないかと、観客は固唾をのんで見守っていたに違いないのですが、この勝負では別の怪談をチョイス。障りのある話ならではの恐怖と不安が詰まった話ですが、過去に何度も語ったエピソードが進展し、障りの強度が一層増した怪談です。「聞いたことのある話だけど、今回の話はもっと怖くなっている」という感想もあり、上書きされた部分に強烈なジャブが隠されている、油断のできない展開です。決勝は時間無制限ということで、賞レースのルールに縛られることなく勝負ができる環境でしたが、長尺怪談が得意な夜馬裕さんは20分以上、存分に伸び伸びと語った一方、田中さんはボリュームを持たせる方向ではなく、アップデートされた強いネタを潔くぶつける戦法で、およそ11分の語りでした。

この最後の勝負、会場配信の観客票は夜馬裕さんが優勢だったものの、審査員票は3対1で田中さんが獲得し、溝尻プロデューサーの最終ジャッジで勝敗が決定することとなりました。接戦で甲乙つけがたい良勝負となった今回ですが、時間無制限の利を生かしつつ、聴き応えたっぷりの贅沢な怪談を提供した夜馬裕さんが、みごと三代目の怪談最恐位の称号を手にしました。

そして夜馬裕さん、獲得した賞金百万円の使い道は、なんと無料の怪談ライブの開催。

「怪談が盛り上がることに使えたら」とのことで、ゲストには今回の最恐戦に出場したファイナリストを呼び複数回に分けて行うことを発表し、早くも12月6日その一回目を開催する予定です。▼

「怪談最恐戦2020」はこれにて終了となりますが、今年は初の敗者復活戦や映像2次審査、スピンオフ企画の開催と規模がパワーアップしつつ、応募者数も過去最高となり、大いに盛り上がる怪談コンテストとなりました。特に今年はベテランのみならず、新人や若手の語り手が健闘したことが印象深く、賞レースとしての面白さが一層増したように思います。

来年も無事開催できることを祈りつつ、今年の困難に満ちた状況下において、奮闘しつつも怪談を届けてくれた参加者の皆様に拍手を!

書いた人

卯ちり

実話怪談の蒐集を2019年より開始。怪談最恐戦2019東京予選会にて、怪談師としてデビュー。怪談マンスリーコンテスト2020年1月期に「親孝行」で最恐賞受賞。ブックレビュワー、イベントレビュワーとしても活躍中

見逃し配信(11/17まで)

▼下のリンクから、期間限定(11/17まで)で見逃し配信をご覧いただけます(有料¥2500)▼

見逃し配信を見逃しちゃった人は、春ごろに出るDVDを観てね!

この記事が気に入ったら
フォローをお願いいたします。
怪談の最新情報をお届けします。

この記事のシェアはこちらから


関連記事

ページトップ