岩井志麻子×徳光正行「凶鳴対談」の文庫未収録エピソードを特別公開!【前編】
4月27日に刊行されました『凶鳴怪談』(岩井志麻子×徳光正行)
巻末に掲載した二人の「凶鳴対談」から、文庫未収録エピソードを特別に公開いたします。
怖くて、深くて、面白い、岩井×徳光がおくるデンジャラスな極怖キャッチボールをお楽しみください。
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目次
おかしなひと
岩井 某オカルト誌の人に聞いた話で私がすごい心に残ってんのが、相当これ昔の話だけど、某オカルト誌には毎日のようにおかしな人から電話があるわけですよ。
徳光 まあそうでしょうね、そういうコンセプトですからね。
岩井 あるとき、「うちのおとうちゃんはね、モン●ッ●教の教祖なんよ、なんでも予言できるんよ」
徳光 きたきた(笑)
岩井 っておばさんが電話してきて。
徳光 モン●ッ●って時代を感じますね、けっこう前ですよ。
岩井 その時、編集さんもなにを思ったか、取材にいこうと。
徳光 はははは、これは面白いと。
岩井 携帯とかない時代だから、「横浜駅あたりで待ち合わせしましょう、あなたの目印になるようなものとかありますか?」とかいったら、「きたら分かるわ!」って。
徳光 横浜駅のそこにくれば分かると。
岩井 で、編集さんが横浜駅の待ち合わせ場所にいったら、「あっ! あそこだ」
そこには、巨大なモン●ッ●の人形を抱いたおじさんとおばさんが立ってたんだって。
徳光 ははは、巨大なんだ。
岩井 「あれだな」って分かって、そのおっさん、モン●ッ●教の教祖が迎えにきてくれたのはいいんだけど、モン●ッ●教祖自身が運転するわけですよ、助手席にモン●ッ●乗せて。
徳光 後部座席におばさんと編集さん乗せて。
岩井 それがもう一般道を120キロくらいでおっちゃん飛ばしながら、「それでね〇〇さん、それでね〇〇さん」って振り向く。「お願い、前見て運転して!」って、もう生きた心地がしないままに着いた先は、ものすごフツーの団地っていうか、県営住宅というか、何の変哲もないところ、べつにすげーおどろおどろしいボロ屋敷とかじゃなくて。
徳光 ふんふん、極めて普通の。
岩井 フツーの公団があってそこに入っていった。
で、まず編集さん居間に通された。ほんならモン●ッ●教祖が「ちょっと待っててください」っていって、襖ガラって開けて隣の部屋に入ってピシャって閉めた。
そしたら隣の部屋からプシュー、プシューってスプレーを吹いてる音がするんだって。
で、ガラっと編集さんが襖を開けると、モン●ッ●教祖が「さっき天から金粉が降りてきたんです!」と。
見るとおっさんがまっキンキンになってるんですって。
徳光 あはははは!
岩井 あんたさっき、プシュープシューって吹いてたでしょって(笑)
徳光 そこは聞かない約束ですよね、やっぱり(笑)
岩井 で、私こうなると怖いんだか面白いんだか。
徳光 そうですよね。
岩井 もしこれ一人で連れていかれたらすごい怖いと思うよ。
徳光 Tさんは好奇心が勝ったんだろうね。
岩井 うん。で考えてみ、自分の身に置き換えて。
徳光 まず、120キロの振り返りが一番いやですけど。
幽霊っているの?
岩井 やっぱり自分の中ではこうだ、でも周りから見たら違うよみたいなのはあるわねえ。
幽霊も、「私は見たんじゃ」って言い張られたらどうにもなりませんよね。
徳光 そうそう。
岩井 「私には見えないもん」っていったって、「私には見えるのよ」っていわれたら。
徳光 そのあたりの脳の解析ってちょっと早急にだれか解明してくんないかなあ。
で、本当の答えが欲しいじゃないですか。まだ科学的に証明もされてないじゃないですか、100%は。
岩井 幽霊といえば私あれ大好きなんですよ、「本当にあった呪いのビデオ」。大好きなのあれが。
徳光 いつも見てますよ。
岩井 私も見てるのよ、CS放送で。
あれってパターンきまってる。ちょっとぶれて戻したらいるのよね、なんか。
徳光 それでなんかもう妙にはしゃいでるんですよね、みんな(笑)
岩井 で、幽霊なんだけど、衣服とかは、例えば花柄ワンピースとか着て海に飛び込んで亡くなって、で、そのずぶ濡れの花柄ワンピースを着た女の霊が現れるってなるけど、でも女も死んでるし、この世にいないし火葬されてるし、あとワンピースだってもうないでしょ、この世に。ワンピースも処分されてるでしょ?
ワンピースの幽霊っちゅうのもあるんかいなっていうか。
徳光 ワンピースが幽霊ってことじゃないの(笑)
岩井 ものに憑いてるってこと? どういうこと?
徳光 ワンピースもだから幽霊のセットのなかのひとつってことですよね、おそらく。
岩井 死んだあとだったらみんな圧倒的に白い着物、圧倒的じゃないですか。あんまりその白装束で現れる幽霊っていないっていうか。
徳光 死んだあとに着せられてるから、自分の意思じゃないからか。
岩井 だから、服装っていうのは幽霊さんが自分で選んで出るの?
徳光 そうそうそう、幽霊がここから選んでこれでいきますみたいな(笑)
岩井 思い入れがあるとか?
徳光 逆にぼくは白い服を着た女が立ってたっていう話は、あんまり信じないようにしているんですよ。
岩井 ふーん。
徳光 それってステレオタイプすぎて、はいはい白ですよと。
あと女の呻き声が聞こえたとかね。
樹海にいったときとかに、女の「キャー」とか呻き声が聞こえるとかいう。
でも、樹海は女の人はほとんどいくことがない。樹海で見つかる死体で、女のものっていうのはほぼないっていう。女の人はわざわざ樹海にいかないらしい。
白黒おじさん
岩井 それでいまふっと思い出したのが、Zさんっていうホラーとかもよう書いてらっしゃる作家さんに聞いた話なんですけど。
彼女が旦那と子供と住んでいるマンションのロビーというか1階の共用のフロントに、管理人さんのおじさんが必ずいると。
あるとき、いつものようにZさんは子供を連れてエレベータを降りて管理人のおじさんの前を通った。
ふつうに「こんにちは」って挨拶したとき、なんかそのおじさんがいったんですって、ゴミ捨てのことだかなにか。
徳光 おじさんがね。
岩井 ゴミ捨てのことだか工事のことだったか、フロントにいたその管理人のおじさんがなにかをしゃべったんだけど、あとになってどうしてもその内容が思い出せない。
それで、Zさんは子供を連れて外に出てしばらく経ってから、「あれっ、さっきフロントにいたあのおじさんなんか変だったな、なんか変だったな、でもなにが変なんだろう」というわけの分からん違和感をずーっと感じていたと。
ほんで用事を済ませてマンションに帰ってきたら別の管理人がいて、「あの〇〇さんが今朝方倒れて病院に運ばれたんだけど、数時間で亡くなった」っていう。
徳光 ほう。
岩井 で、「ええっ、私さっき会ったよ」って。
Zさんが見たときはすでに亡くなってるんですよ。
徳光 ってことですよね。
岩井 だけど確かにいたと。
でも妙な違和感をずっと覚えていて、「あっ!」と思ったのが、あの管理人だけモノクロだった。
徳光 えっ、ああ、色が?
岩井 うん、他は全部カラーなのにあの管理人さんだけ白黒だったっていうのよ。
徳光 それをあとで気がついたんですね。
岩井 なんか妙だな、なんか妙だなって、おじさんのみ白黒で、なにをしゃべったかどうしても思い出せないっていうんですよ、なんかしゃべったんだけど。
徳光 違和感がそこだったんですね。
――(後編に続く)
話した人:
岩井志麻子 Shimako Iwai
岡山県生まれ。1999年、短編「ぼっけえ、きょうてえ」で第6回日本ホラー小説大賞を受賞。同作を収録した短篇集『ぼっけえ、きょうてえ』で第13回山本周五郎賞を受賞。怪談実話集としての著書に「現代百物語」シリーズ、『忌まわ昔』など。共著に『女之怪談 実話系ホラーアンソロジー』『怪談五色 死相』など。
徳光正行 Masayuki Tokumitsu
神奈川県茅ケ崎市生まれ。テレビ、ラジオ、イベントの司会などで活躍しながら二世タレントとしての地位を築く。大の実話怪談好き。著書に『伝説になった男~三沢光晴という人』、「怪談手帖」シリーズ、『冥界恐怖譚 鳥肌』他、共著に『FKB怪談幽戯』など。