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黄泉つなぎ百物語 第三夜「いる、いない」高田公太

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山本さんには小学5年生の娘がいる。

ある日の晩、仕事を終えて家に戻ると、いつも玄関の横に停められている娘の自転車が見当たらなかった。時間は夜9時を回っている。

「ただいま」と家に入ると、「おかえり」と妻と娘の声があった。

「チャリはどうした」

「友達と歩いて帰ってきた」

娘は徒歩通学の友人とお喋りをしながら帰りたかったのだそうだ。

他愛のない理由に頬が緩んだ。家から学校まで歩くと四十分はあるというのに。

「ん、そうか。自転車無いと明日学校行くの面倒だろう。俺が今から車で学校まで自転車取ってきてやるよ」

娘が通う学校の門はいつでも開放されていて、校舎内に入らない、不審な動きをしない分には敷地の出入りができる。山本さんは車を路肩に停め、校舎の入り口そばにある駐輪場から娘の自転車をつつがなく見つけた。思いの外敷地内は暗かったが、そもそも娘の自転車しか駐輪場に置かれていなかった。

(ん?)

自転車の鍵を差し込もうとしている間に、校舎の広い玄関から一人の男の子が出てきて、自分の横を通り過ぎていった。忘れ物でもしたか。よくもまあ小さい子がこんなに光のない所を颯爽と……。山本さんは自転車を車の後部座席に乗せ、家に帰った。

「学校から男の子が出てきてな」
と話したが最後、妻は「それ、ちょっと前に自動車事故で亡くなった子じゃない?」と気味が悪いことを言い出した。背格好は、どんな髪型、どんな顔、と詰問され、答えるたびに妻は怖がった。確かに数ヶ月前に事故があった。しかし、そんなわけはない。

(絶対に違うってえの……)

妻の反応が面倒になり、山本さんは2階の自室へ逃げることにした。

自室のドアを開けると、目の前にはくだんの男の子がこちらを向いて立っている。

(ほらな。いるだろ。いるんだって。死んでないんだって。死んでる人が見えるわけが……)

男の子を見詰めながらそんな事を思った。

そして、「あ……」と声が漏れると同時に男の子の姿は消えた。

高田公太「いる、いない」ー

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