【日々怪談】2021年7月29日の怖い話~混線

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【今日は何の日?】7月29日: アマチュア無線の日

混線

 若かりし時代、もしくは今も現役で、バンドをやった経験を持つ人は多い。
 時代時代で魅了される音楽性に違いはあれど、誰でも一度はエレキギターに憧れる〈お年頃〉があるものだ。
 向井にもそんな時代があった。
 バイト代を全部つっ込み、なお足りない分は姉貴の遣い走りをしてようやく手に入れたテレキャス。が、エレキギターというものは、それ単体では蚊の鳴くような音しか出ない。最初のうちはヘッドホンをつないでいたものの、実際にバンドを組むんならアンプだって必要だ。
 新品のアンプを買うというところにまでは金が回らず、結局、友人の兄貴のお下がりとかいう中古のアンプを格安で譲ってもらった。シールドはオマケで付けてもらった。
 ところで、エレキギターを弾いた経験がある人は誰でも一度は経験し、そのたびにいらつくことがある。
 混線である。
 気持ちよく〈ギュイイイーン〉と鳴らしていると、不意に不快なノイズが〈ガガガ〉と混じる。アンプとギターをつなぐシールドがアンテナの代わりをするのか、トラックやタクシーが近くの道を通るたびに、耳障りな雑音がアンプから吐きだされる。
 たぶん、向井当人以外が聞けば、向井のギターだって雑音にしか聞こえないのだろうが、弾いている当人にはギターの音色とは明らかに違う雑音は区別が付く。
「なんだよ、もう……」
 耳を澄ますと、どうやらタクシー無線を拾っているらしく、アンプからは途切れ途切れに人の声が漏れ聞こえてくる。
〈ボ……かそ……ボ……〉
〈ボ……かそうば……ボ……〉
「ああ?」
〈ボ……じ……ボ……〉
〈ボ……うほうじ……ボ……〉
 ノイズの合間から、行き先を確認しているのか運転手のものらしき声が聞こえる。
 火葬場。
 みょうほう寺
 ――なんか縁起でもねえな、とアンプのスイッチを切ろうとしたそのとき、もう一言聞こえた。
〈ボ……ボ……ごりんじゅう……〉
 その瞬間、ノイズは消えた。

「……そういうわけなんだ。タクシー無線で目的地とか言うのはわかるんだけど、ご臨終とか言うかなあ」
「言わないだろう、普通」
「そうだよなあ。で、よく考えたら、人の声の後ろで、ずーっとボ、ボ、ボ、ボってリズムを刻んでるノイズが入ってたんだけどさ、あれって木魚かなあ」

――「混線」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』より

#ヒビカイ # アマチュア無線の日

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