【日々怪談】2021年7月30日の怖い話~庭
【今日は何の日?】7月30日: お母さんが夢に乾杯する日
庭
靖子さんがまだ五~六歳かそこらの頃の話である。
ある日曜日、父は休日出勤をしており、母は台所で家事、靖子さんは子供部屋で何をする訳でもなく、ただ、床に横たわり文字通りゴロゴロとしていた。床に散らばった小さなぬいぐるみを手に取り、弄んだら放る。天井に付いた埃がゆらゆら揺れる様子を見る。とりわけ楽しい訳でもないが、だからといって退屈していた訳でもない。強いて不満を言うなら、休みだというのに父が出かけていることが少し寂しかったくらいだ。
上半身を起こして窓の外を見ると、裸の男女二人が手を繋いで庭をゆっくりと練り歩いている。
見たこともない大人達だ。これは早速母に報告しなければと台所に向かった。
「ママァ」そう後ろから呼びかけても母からの返事がなかった。
「ママってばぁ」
近付くと、母の様子がおかしかった。
台所に立つ母は、顎を上げて白目を剥いたまま小刻みに震えていた。
流しの上にある窓から庭が見える。
まだ裸の男女がゆっくりと歩いていた。
靖子さんは、そこから先、大泣きしたことしか覚えていないそうだ。
――「庭」高田公太『恐怖箱 百舌』より
#ヒビカイ # お母さんが夢に乾杯する日