【日々怪談】2021年8月1日の怖い話~恨み骨髄
【今日は何の日?】8月1日: 「歯が命」の日
恨み骨髄
人が亡くなってから葬儀までの間、葬儀会社がご遺体を預かることがある。その理由は、喪主の自宅の状況や故人が施設を住所地にしている場合などを始めとして様々だ。
飛田さんの勤める葬儀会社で、一人の男性のご遺体を預かったときの話である。
深夜、会社に残った飛田さんがその男性のご遺体を防腐処置していると、急に室内に六人の男女が現れた。
もちろん処理室には社員しか入れない。現れ方が急だったことと、彼等の表情、肌の色などから、生きている人間ではないと直感した。
この仕事に就いて久しいが、初めて恐怖で身体が固まった。
だが彼等は、飛田さんを無視してスタスタと歩いていく。
彼等は処理途中の男性のご遺体を取り囲んでじっと睨み付けた。そして、あっと思う間もなく一斉に遺体に噛み付いた。
腕、脚、脇腹。次々に歯形が付けられていく。
彼等は噛み付いた順に煙が掻き消えるように姿を消した。
飛田さんは今のは一体何だったのかと思案を巡らしながらも、恐怖に震えつつ急いで仕事を済ませ、保冷庫に遺体を収納した。
数日して、葬儀準備のために保冷庫からご遺体を取り出すと、皮膚が所々黒く変色していた。皮膚の下で腐敗が進行しているという証拠である。
短い期間な上、きちんと保冷庫にも入れている。気温の高い時期でもない。それにも関わらずこうも腐るというのはあり得ないことだった。しかもその腐敗した箇所は、あのときの男女がそれぞれ噛み付いた場所であった。
処理室でのことが記憶に蘇った。身体が小刻みに震えた。だが、それよりも今は葬儀に出すこのご遺体を何とかしなくてはいけない。そちらのほうが急務である。
幸い腐敗部分が露出する範囲は少なく、見える所は化粧を施して誤魔化せた。結果、無事に葬儀に出すことができた。
後日、このご遺体の男性は、生前に高利貸しのような事をしており、結構な人数から恨みを買っていたのだと聞いた。
なるほど、あの男女についても合点がいった。
――「恨み骨髄」神沼三平太『恐怖箱 百眼』より
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