【日々怪談】2021年8月6日の怖い話~ 一文字に三つ星
【今日は何の日?】8月6日: 広島平和記念日
一文字に三つ星
広島県に住む山本さんは、暫く前から困っていた。
米の減りが異常に早いのだ。
何故こんなに早く減るのだろう。
誰かが持っていって食べているのではないかと疑ってみたが、他のものは何も盗られていない。しかし記録を取ってみると、やはり自分以外の誰かが食べているとしか思えない。
ある夜、仕事から帰ると台所に人影があった。
頭に笠のようなものをかぶり、鎧らしきものも身に着けている。
それは足軽姿であった。
足軽は腰に着けた袋を取り出し、流しの下の米びつから米を掴んで、ざざぁっと袋に流し込んだ。
一度だけではない。何度も米を袋に詰めた。
男は、立ち上がるとそのまま台所の暗がりの奥に去っていった。
台所に駆け寄ると、もう男は何処にもいなかった。
その現場を見てしまってから、山本さんはさらに悩むことになった。
相手は幽霊だ。怖い。兵糧を盗み出しているということは彼にとっては戦の最中なのだろう。気が立っているかもしれない。声を掛けるのも気が引ける。
そこで近所に住んでいる祖父に相談することにした。
相談を受けた祖父は、じっと腕組みをして考えた末に、
「その足軽の旗指物を確認してきなさい」
とアドバイスをくれた。
祖父宅から戻ると、山本さんは足軽が出るときを待ち構え、アドバイス通りに足軽の旗指物を観察した。
はっきりと見えた。一文字に三つ星。
「毛利家の手の者だな」
報告を聞いた祖父はそう言って硯と筆を取り出した。そして、
「これを米びつに貼るといい」
と一筆したためた。
帰宅した山本さんは、早速祖父の書いてくれたものを米びつに貼り付けた。
それ以来、米は減らなくなった。
それだけではない。時折足軽が米びつの前で平身低頭の体で身を縮めている場面を見かけることになった。
祖父のしたためたものは、
「毛利公献上品」
という一筆であった。
――「一文字に三つ星」神沼三平太『恐怖箱 百舌』より
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