【日々怪談】2021年8月7日の怖い話~くずきり

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【今日は何の日?】8月7日: 鼻の日

くずきり

 蒲田さんが鏡を見ると、鼻の穴から透明な紐がぶら下がっていた。
 鍋に入っているくずきりにそっくりだ。
 何だこれ、と鏡に顔を近付けて確認してみるが、見れば見るほどくずきりだ。
 だが、鼻の穴に指を這わせても、指先には何も触れない。摘もうと思っても、触れることができない。気にはなるが、どうにも仕方がない。
 ――これ、皆にはどう見えてるんだろう?
 興味が出てきたので、寝ている弟を叩き起こし何も事情を話さずに訊ねる。
「ねぇ、あたしの顔、変?」
「別に」
 寝起きで不機嫌な弟は、ぶっきらぼうに答えた。
 どうやら他人には見えていないようだ。触れもしないし他人にも見えないなら、別段気にしても仕方がないと放っておいた。

 翌日、叔母が遊びに来るなり、蒲田さんの顔を見て、
「何ぶら下げてるのよ」
 と言ってケラケラ笑った。
 引っ張ってもいいかと訊くので頷くと、鼻からぶら下がっているくずきりを掴んだ。
 ――あ、触れるんだ
 そう思った瞬間、意外に強く思い切り引っ張られた。
 乾いたぞうきんで粘膜を擦られるような痛みとともに、顔の左半分がカッと熱くなった。
「取れたわよ」
 ニコニコ笑う叔母の手にはくずきりが握られていたが、見る間にぐずぐずになり、蒸発するように消えてしまった。

――「くずきり」神沼三平太『恐怖箱 百聞』より

#ヒビカイ # 鼻の日

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