【日々怪談】2021年8月10日の怖い話~アビーロード
【今日は何の日?】8月10日: 道の日
アビーロード
路面が濡れているところを見ると、少し前に雨でも降ったのだろう。
ところどころ工事中を知らせるオジギビトの看板が並んでいる。
玲子は慎重にハンドルを切った。
国道から県道に入って、後は実家まで一本道になる。
時間は十二時を回ったところ。しかし、眠らない都会の夜と違って田舎の夜は早い。往来の店はどこもシャッターを下ろし、対向車もほとんどない。
信号のない交差点に差しかかった。
路面には横断歩道が描かれている。
と、横断歩道の白線がもこもこと動いた。
「んん?」
直前まで平面だった横断歩道の白線が、不意に立体的な何かに形を変えていく。
並行に並ぶ白線の上に、白い服を着た何かが寝ころんでいる。
一本の線の上に一体ずつ。
それらは、一斉に上半身を起こした。
「……人!?」
横断歩道の上の人々は、迫り来る玲子の車を白線の上から睨んでいる。
〈ブレーキ……!〉
しかし、濡れた路面での急ブレーキはスリップの危険がある。
一瞬躊躇したが、ブレーキは踏まず、アクセルを踏み込んだ。
ゴトン。
横断歩道を通過する瞬間、何かに乗り上げる音と手応えで車が揺れた。
バックミラーを見る勇気はなかった。
「……それって、人轢いちゃったんじゃないの?」
「いや、絶対に人じゃなかったと思う。だって、横断歩道の中にさ、腰から下が埋まってたもん。上半身だけが道から生えてるなんて絶対ヘン!」
――「アビーロード」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』より
#ヒビカイ # 道の日