【日々怪談】2021年8月20日の怖い話~羽音の夜

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【今日は何の日?】8月20日:蚊の日

羽音の夜

 夕方過ぎに仕事を終えてアパートに戻る。洗濯を済ませ、テレビを見ている間に夕食時が訪れる。コンビニで買った弁当を食べ、また何ということもなく過ごしていると、時刻は深夜十二時を過ぎる。そんなごく普通の一日の中でのことだった。
〈プーン〉
 そろそろ寝ようかと消灯し、布団に潜ると耳元で羽蟲の舞う音が鳴った。
 暗がりの中、顔の周辺を手で払う。蟲に触れた感触はないものの、寝てしまえばこっちのものだ。たかが一匹の蚊ごときのために起きる気はない。
〈プーン〉
 また、小さな羽ばたきが耳元を過ぎる。
 蚊取り線香やスプレーの類は常備していない。布団に潜り、不愉快の源から逃れようとした。
〈プーン プーン フーン フン プーン〉
 音は止まなかった。
 堪らず上半身を起こし、枕元のスタンドを点灯した。
〈プーン フン フン フン……〉
 あてどなく目を泳がせ、蟲の姿を捉えようとした。
 視界の端にそよぐ物を感じ、振り返ると小さな男の子が後ろに立っていた。
〈プーン〉
 吊り上がった目をした少年は尖らせた口を震わせながら、その音を発していた。
 不意に尿意を催し、トイレで用を足した後も少年はまだ部屋にいた。
 為す術もないまま、羽音を模す少年を見つめ、夜を明かした。
 いつの間にか、少年は姿を消していた。

――「羽音の夜」高田公太『恐怖箱 百舌』より

#ヒビカイ # 蚊の日

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