【日々怪談】2021年8月23日の怖い話~安下宿

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【今日は何の日?】8月23日:油の日

安下宿

「俺が昔住んでた安下宿、ひでぇんだよ」
 安い故に何もかもが古くて汚いのは目を瞑るとしても、目に余るのは共同の台所だったと、油川さんは言う。
「台所は八畳くらいあって、まあまあ広くてな。テーブルがあってラウンジみたいにみんなで使ってたんだけど」
 とにかく蟲とネズミをそこでよく見たのだそうだ。
 そもそも、隙間だらけの木造建築である。不潔感に文句を付けるのも野暮だが、招かれざる客が何処から来ているのかが一目瞭然だと、話が違ってくる。
「天井の隅の板が一枚外れてるんだよ」
 油川さんが下宿に住み始めたとき、先に居住していた連中に天板のことを訊いたら、あそこはしょうがないと言われた。
 板を貼っても腐る。ビニールで塞いでも風が吹いて外れる。
 もう、昔からそうだから諦めろ。
「諦めろ、って言われたらそうするけど、たまらんのは――夜中、一人で料理していると、二階からドタドタ音がする。二階にも人が住んでいるから、そりゃ物音ぐらいするよな。ここで、うっかり上を向いちゃったら駄目なんだよ。上を見て天井見ちゃうとな、抜けた天板の穴からから下を覗く女と目が合うんだよ」

 その下宿はその昔、連れ込み宿だったそうだ。

――「安下宿」高田公太『恐怖箱 百聞』より

#ヒビカイ # 油の日

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