【日々怪談】2021年3月2日の怖い話~ おっさんアイランド
【今日は何の日?】3月2日: ミニの日
おっさんアイランド
「俺の部屋、おっさんアイランドでさ」
川名さんは定食を食べながら言った。何のことかと思ったら、店の隅にあるテレビの中で、芸能人が「小さいおっさん」の話をしていた。
北京オリンピックのときの話である。うたた寝していると、ワーワーと歓声が聞こえて目を覚ました。隣の部屋ではテレビを点けっ放しにしていたが、それとは別の音だ。より近い場所から聞こえてくる。音のする方向にゆっくり視線を向けると、数えきれないほどの中年の小人がいた。小人達はスポーティなタンクトップに短パン姿で、走り回ったり、爪楊枝サイズの棒を投げたりしている。一競技終わるごとに大歓声だ。
「何だお前ら!」
川名さんか怒鳴り声を上げると、本棚やタンスの隙間や裏に、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
追い掛けて隙間を改めたが、もうおっさん達はいなかった。
夏だけではない。冬場は三角帽子をかぶったおっさんと、サンタ姿のおっさんがきゃいきゃいパーティをしているところに出くわす。
別の季節にはおっさん達の野球大会があり、飛んできたBB弾くらいの大きさのボールが額に直撃して痛い思いをさせられる。
「もう、おっさんのための部屋を、俺が借りている感じだよ」
今もまだ団体で出ているらしい。
――「おっさんアイランド」神沼三平太『 恐怖箱 百舌』より