【日々怪談】2021年3月3日の怖い話~ 穴の奥
【今日は何の日?】3月2日: 耳の日
穴の奥
寝ていると、耳元で細い枯れ木を折るような音が聞こえた。
訝しんでいると、耳の穴の中を何か硬い物が引っ掻いた。
叫び声を上げて跳び起きる。
ぱきぱきぱき。
耳のすぐ近くで硬質な音がしている。
あ、これ虫だ!
耳の穴の中にゴキブリが入り込んだ話を思い出し、激しく頭を振る。
しかし耳の中のものは取れない。まだぱきぱきという音が続いている。
そのうち、穴の内側を爪のようなものが引っ掻き始めた。
痛っ。
耳の壁に爪を立てる、ごそごそという音が響く。
鼓膜は大丈夫か?
何か刺されたりしないか?
引き攣った表情で時計を見る。五時を少し回っていた。カーテンを開けると空はもうだいぶ明るかった。耳鼻科が開くまで我慢だ。
朝一で近所の耳鼻科に飛び込み、診察を受けた。
外耳道に黒くて細い物が十字につっかえ棒をするように刺さっていた。
医者が折って取り除いてくれたものはシャープペンシルの芯だった。
家に帰って書斎の机を見ると、シャープペンシルの芯がばら撒かれていた。
シャープペンシルなど、もう何年も使っていないにも拘わらず。
――「穴の奥」神沼三平太『 恐怖箱 百舌』より